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秘密の毎日  作者: エニシ
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第四話  第六天魔王の登場

 今日、妹の友達が家に遊びに来る。


 ほら、この間遊びに来るって言っていたよね。


 うん。それは兄として、『兄』として! ぜひ歓迎したいところだ。ビジネスマンの両親の都合で転校ばかりしていた俺たち兄妹。遊佐やもちろん遊馬にも、友達がちゃんとできているのかとか、学校でいじめられてないかとか、そういうところ、お兄ちゃんも心配していましたから。


 俺? 俺はとりあえず問題ないですよ。幸か不幸か小学校の友達に会えたしね。


 まあ、とにかく。そんなわけで妹の友達に妹と仲良くしてやってくれと、そう言うのもやぶさかではないですよ、俺だって。だけど、だけどさ。


「何でこんな格好しないといけないの!?」

「だってー、お姉ちゃんがいるって言っちゃったんだもん」

「小学校の頃の友達でしょ!? お兄ちゃんがいるって知っているでしょ!?」

「知らないよ、そんなの。学校で家族の話なんてしないしー」


 でも似合っているよ、と笑顔で言う遊佐。家族の話をしないのに、じゃあなんで、お姉ちゃんがいるという話はしたのかな!?


「うん、可愛い。可愛い」

「はい、そこ写メらない! 携帯ぼっしゅうー!」


 俺が手を伸ばしても、ひらりとかわすのは我が愚弟、遊馬。ふんふん、と何だか鼻歌交じりに上機嫌。だが、今日の俺は一味違う。こんな『女装』姿を携帯というお手ごろ電子機器に永久保存されるなんて、俺の人生の黒歴史になること間違いなし!


「返せー!」

「ふふふ。ほら、追いかけてごらん」

「待てー!」

「あははははは」

「はいはい、そこバカップルやってないの」


 すっ、と出された遊佐の足に引っ掛かり、バタンと床に倒れ伏す俺。うう、痛いよ。


「胸が痛い」

「喧嘩売ってのか、ごらぁ」


 やけに凄みを増した遊佐の顔。阿修羅再び。ぶんぶんと首を振る俺に、遊馬は何だか忍び笑い。遊佐が弟にもその凶器の視線を向けようとしたとき、ちょうど玄関のインターホンが鳴った。


「あ、来た来た。じゃあ、ちゃんと手筈どおりにね。女の子らしくやってよ、兄貴」


 ウインクして出ていく遊佐。俺が遊馬に懇願の視線を向けても、遊馬は肩をすくめるだけだった。


「や、やだよ。変でしょ、絶対。似合ってないでしょ。女装男でしょ」

「似合っているって。ていうか、兄貴の場合それが自然なんだから」

「だって、何かスカートすーすーする。穿いてないみたい」


 今の俺の恰好は、腿が丸見えの短いスカートにちょっとパンクの入ったTシャツという姿。遊佐の指示でブラまで装着している。嫌なんだよなあ、これ。何かすごい窮屈。パンツもトランクスじゃなくてショーツだし。あ、ちなみに全部妹のね。俺、持ってないから。俺、そんな変態じゃないから。


「ねえ、やっぱ着替えてくる」

「だーめ」


 自分の部屋へと戻ろうとした俺は、しかし遊馬に腕をがっしりと掴まれ捕縛の状態。うがーと喚いて暴れるが、遊馬は軽々そんな俺をあしらうのであった。なんだ、こいつ。力強いな。


「うう。前まで俺のほうが強かったのに」

「いつの話だよ。ほら、おとなしくする」

「………わかったよ―――なんちゃって!」


 遊馬が気を抜いた隙に足を払う。一本じゃないけど有効ぐらいは取れたかな。痛たたたた、と尻もちをついている遊馬に舌を出して駆け出そうとした俺は、しかし足を掴まれ再び床と熱烈なキス。うう、痛い。胸も。


「はーなーせー!」

「痛いなー、もう。これはお仕置きが必要だよね」

「やめろっつーの、親が泣くぞ! 痛い、乗っかるな、重い!」


 片手で両手首を抑えられ馬乗りされた俺はもう既に涙目。馬乗りになる遊馬は手をわきわきさせているし。ああ、悪夢が。こちょこちょの悪夢が。


 直視し難い現実から顔を背けたそのとき、俺は見た。



 ドアを開けて呆然と佇む遊佐と、その友達を。

 口をあんぐり開けて、俺たちを見ているその姿を。



「………何しているの、あんたたち」

「えっと」

「違うんです」


 衝撃から立ち直った遊佐がプルプルと震えていその姿が、なぜか噴火前の活火山に見えてしまうのはなぜでしょうか。教えて、せんせいー。


「何か、お邪魔だったみたいだね」

「とりあえず、外行こうか」


 何を悟ったのか、遊佐の友達たちはそそくさと外へ。

 ごめんねー、すぐ行くから、と声はにこやかな遊佐は、阿修羅を超え、第六天魔王へとレベルアップした!


 逆立っているよ! 髪が、逆立っているよ!


「もう一度聞くわ。何してんの、あんたたち」

「えっと」

「違うんです」


 このとき、二人の兄弟の間にわだかまりはなくなっていた。お互いが手と手を取り合い、想いは通じ合っていたのだ。心は一つになっていた。そう、ただ目の前の恐怖が過ぎるのを、二人で心の底から願っていた。


「この馬鹿兄貴ー! 馬鹿遊馬ー!」

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

「すとっぷ、すとっぷ、洒落にならない! う、ぐ、ぐああああああああああああ」

「ひゃん、さ、あ、ちょ、だ、だめ、だだああああああああああああああああ」

「ごぶ、ぐあ、ごあ、む、無理。もう、無理。あう、ああああああああああああああ」









 大変お見苦しい光景が続いております。













 もう俺、お婿にいけない。

 しくしくしくしく。




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