第一話 旧友に秘密
俺、遠山遊里にはある秘密がある。
「なあ遊里」
「何だよ」
「お前、変わったよな」
学校の昼食中、雨宮公彦がそう言った。
俺は何食わぬ顔で落とした箸を拾いながらおーいお茶をすすり、むせる。
「そうか?」
「動揺し過ぎだっ!! だってよ、小学校のときの自分の写真見てみろよ? 坊主に白シャツと短パン常備のガキ大将だったじゃねぇか、お前」
「そんな天然記念物に加わった覚えはない」
と、言いつつも若干目が流れてしまうのを自覚する俺。
公彦はうーん、と唸りながら俺の頭の天辺からつま先まで観察中。
ああ。高校入学一週間目にして早くもピンチ。
小学四年で引っ越し、中学卒業と共にまた地元に戻ってきた俺。確かに昔の友達はどうしてんのかなー、会いたいなー、という思いがあったからこちらに戻ってくるのにも承諾したのだが………(つっても親の事情ですから。まだ一人暮らしとか無理ですから)。
…………でもまさか、同じ高校の同じクラスにかつての友人がいることになろうとは。
偶に会って、偶に遊んで、偶に出かけて。そんな感じを望んでいたというのに。同じクラスじゃばれるじゃねぇか。
「気のせいだ。ジロジロ見るんじゃねぇよ、気持ち悪い」
「そういう憎まれ口は変わってないんだよなぁ」
まだ首を捻る公彦に俺はわざとうんざりした顔を作る。
「うぜっ。もういいだろ。ところで次の授業は何だ?」
「ん? ああ。体育だ」
「そうかよし。休むな」
「へ? 何でだよ。お前昔から体育だけが取り得………ちょっ、どこに行くんだよ!?」
「トイレだ、バーカ!!」
走りながら携帯を取り出し妹に電話。どうしようと半泣きになりながら相談すると、トイレで着替えろよこのアホ兄貴、という見事な解答が呆れた声で返ってくる。
ふはははははは。もちろんわかっていたさ!
得意げな顔で再び帰ってきた俺に、公彦は「トイレは?」と聞いてきたが、「搾り出した」と返す。
「俺やっぱ体育出るわ」
「何かなぁ。やっぱ変わったよなぁ」
公彦の言葉を聞き流し、昼食終了。
体育では久しぶりにはしゃいでしまった。はしゃぎすぎたあまりに足首をひねった俺を見て、「やっぱり変わってないわ」と呟く公彦の声は届かなかった。
ぐす。痛い。