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遊戯の国の物語  作者: ふみわ
†第一章†クイーン・アウト
7/7

†第四話† 【クイーン・アウト】〜開始〜

物語スタートです。

書き直しました。

「さてさて、始まりました! 【クイーン・アウト】! ではでは、これより私、マリエル=リディーベルが遊戯(ゲーム)の説明を致します」


 マリエルが握り拳を口許に当て、ご機嫌に喋る。


「ご存じ、私の創る遊戯は空想とごっこ遊び。そしてその真髄は物語にあります。今回私が創った【クイーン・アウト】という物語のあらすじは、まず最初に『赤の女王』が癇癪を起こして皆さんの処刑を命じます。しかし、当然処刑される訳にはいきません。

 絶体絶命の中で、黒の主催者が貴方達に言います。『赤の女王』を唯一倒せる武器、白の剣を持ってきなさいと。

 なので、六人の『騎士』にはファンシーランドの中央(セントラル)から南北の二手に分かれて白の剣を取りに行って貰います。そして剣を持ってこれた二人は『赤の女王』──まぁ、私なんだけど──と闘い、見事倒せた人が優勝となり、賞品のお菓子一年分が贈与されまーす! ちなみに、白の剣は南北にあるものを合わせて一振りなので、片方だけでは女王への挑戦権は得られませんので、あしからず」

「おかし……!」

「一年ぶーん♪」


 お菓子好きのラビとショコラが目をキラキラと輝かせる。

 特にショコラは他国出身の為か、遊戯よりも賞品に興味津々だ。

 そんなショコラを見て、マリエルは口許をひきつらせた。が、すぐに笑顔を取り繕い、右手を挙げて、騎士役面々に言った。


「質問のある人は挙手ー」

「はいはいはーい!」


 フリークが両手を挙げてぴょんぴょん跳ねる。


「はい、フリーク」

「南北で分かれるのは、分かったけど白の剣はどこにあるの?」

「いい質問ですねー。お答えしましょう。白の剣は南側は大体、日向湖(ひゅうがこ)辺り。北側は白庭(ホワイト・ガーデン)のどっかにあります」


 マリエルが示した場所は、どちらもファンシーランドの五分の一を占める場所だった。


「ちょっと範囲広すぎない!?」


 マリエルの大雑把は説明にフリークが困惑の声を上げる。


「あははー、大丈夫大丈夫。そこらへんはちゃあんと説明してくれる役も用意しているから問題なし! じゃあ南北にそれぞれ行く騎士を発表するよー。南に行くのは『太陽の騎士』ライト=ソーラル、『砂糖の騎士』ショコラ=メイロール、『盤上の騎士』クラウド=キーゼルの三名」

「はい」

「はーい♪」

「わかった」


 三人がそれぞれ返事をしたのを確認して、マリエルは次に北へ向かう残りの三人を呼んだ。


「北へ向かうのは『骸の騎士』フリーク=リッチェル、『雪兎の騎士』ラビ=ホワイト、『氷の騎士』ユーリ=ロレンツです」

「はいはーい」

「ゆーりにいさま、いっしょですね」

「うん、よろしくね」


 ぴょんぴょん跳ねながら返事をするフリークの隣で、ラビとユーリが笑いあっている。なついているユーリと同じ方角なのが嬉しいのかにこにこだ。そんなラビの小さな頭をユーリは優しく撫でた。

 それを見て、マリエルもよかったよかったと何度も頷く。


(よかった。初めての公式の遊戯だけど、ラビ、緊張していないみたい。ユーリのおかげね)


 微笑ましい光景にふにゃふにゃ笑っていたら、クラウドが挙手をした。


「マリー、この遊戯、シナリオは分かったが、ルールが曖昧だぞ」

「ん? そうだっけ」


 マリエルが頭を人差し指で押さえ、記憶を辿る素振りをする。


「ああ、特に魔法の使用はありなのか、禁止なのか。ありならどこまでOKなのか。後は妨害行為に対する処断について」


 クラウドの問いは至って当然のものだった。

 古から続く魔法の文化にこの世界の国々はほぼ依存している。

 遊戯の国も然りで、あまりの大仕掛けの遊戯には決まって魔法が使用されるのが常だ。

 遊戯の国は魔法の国と地続きで繋がっているため、魔法との親和性も高く、住人は個体差はあれ皆魔力を持っている。

 空中レースや魔弾ルーレットなど、魔法ありきの遊戯も多く存在するが、一方で魔法の使用が完全に禁止された遊戯もある。

 だから魔法使用のルールは遊戯を創る者がルールを定める際に真っ先に決めることとされている。

 妨害においても、容認される場合とされない場合がある。その決定も作成者や主催者の判断に任せられることになっている。


「ふんふん、分かった。じゃあそれらについて説明するね。まず、魔法使用について。使用は基本OKだけど、転移や飛行系の魔法は禁止。加速系は構わないけど、スピードは(フォー)までね。あと、妨害も基本あり。ただし、他の『騎士』を傷つけたら失格よ。攻性魔法は初級のみ。けど、主催者側も妨害に入るけど、こっちに対する攻撃に限度はないわ」

「限度なし? さすがに不味くないか? 参加者の中には魔法に秀でた者もいるぞ」


 クラウドがショコラに視線を向ける。

 魔法の国のアカデミーで主席だった彼女は魔法可の遊戯では強敵だからだ。

 クラウド自身も強大な魔力持ち主だが、訳あって、一部しか使用できない。


「そのへんは大丈夫! なんせ、皆を邪魔する敵にして、『赤の女王』の使い魔役の『新月の悪魔』はルナだから! ねー、ルナ」


 マリエルが主催者席の端で慎ましく控えているルナに手を振ると、ルナが前に出て、挨拶をする。


「はい。『新月の悪魔』役のルナ=シェーリッツです。本日は全力で頑張りますので、皆さんも私に対して手加減は無用です! 本気で掛かってきて下さい」


 ルナが両手を握って、意気込みを語る。ルナの笑顔はとても魅力的だったが、クラウドは逆にひきつった。

 遊戯の国北部で最強を誇る月の魔女が全力で掛かってくるというのは、恐ろしいものがある。


「うんうん。お願いね! あ、ルナも攻性魔法は使うけど、ルールは基本、『騎士』と同じだから安心してね。だけど、こっちは移動魔法使うよ。じゃないと人数足りないから。他に質問ある?」

「ある。『改変』についてだ。するか?」

「あー、それね。うん、多分退屈したらする」

「そうか」


 マリエルのあまりにも軽い返事にクラウドががっくりと項垂れる。

『改変』とは、マリエル特有の遊戯内容の変更だ。

 マリエルの遊戯は基本、彼女が創った物語に沿って進むが、それはマリエルの気分によって変えられることがある。

 それは本当に不規則で、変更内容も遊戯に支障のない些細なこともあれば、全く別の遊戯になってしまうこともある。

 クラウドは計画的に遊戯を進め、確実に勝利を掴むタイプだが、どんな緻密な計画も遊戯を変えられては白紙になってしまう。そういう意味ではクラウドはマリエルの遊戯と相性が悪い。まぁ、そこで諦めることはしないが。


「大丈夫! 今回はラビもいるから、そんなハードな改変はしないから」

「確かに……」

「それに何かあったら、通信魔法で連絡するし」


 マリエルがスピーカーを指差して言う。


「ならいい。言っておくが、無茶な改変はするな」

「大丈夫大丈夫♪」


 気紛れなマリエルの元気な返事に一抹の不安が残ったままだが、これ以上長引かせるのも他の参加者の迷惑になると考え、クラウドはそこで話を終えた。


「じゃあ、そろそろ始めますか」

「そうですね」


 ライトの意見にユーリが賛同する。

 予定時間の時間より少し遅れたが、【クイーン・アウト】に制限時間は設けられていないので問題ない。

 六人の『騎士』達がそれぞれの『役』になろうとしていると、クロムが発門した。


「待て。考えてみたら、ラビは中央からじゃキツくないか?」

「あ、確かに」


 全員の視線がラビに注がれる。

 ラビは見られてる事が恥ずかしくて、ユーリの背後に隠れるようにしがみついた。


「それもそうだね。ラビちゃんはまだ小さいし、魔力の制御も習ってないでしょ? だったらかなりのハンデを負うことになるんじゃないかな」

「はい。白庭までは子供でも行けるでしょうが、あの広大な敷地内で捜索するのは骨が折れるかと」


 ショコラとユーリがラビの心配をする。

 ラビはどうしたらいいのか分からず戸惑っているが、その時、クロムが一つ提案した。


「じゃあ、俺の権限でラビのスタート地点を変えるか。マリーも皆もそれでいいか?」


 クロムがそれぞれの意見を訊く。

 この国の王であり、遊戯の神でもあるクロムには、マリエルの『改変』に似た特殊な権限がある。

 それは遊戯のルールの変更だ。

 クロムはそれが遊戯であり、その主催者と参加者の過半数から賛成意見を貰えればルール変更をすることができる。


「私はいいよ」

「俺も異存ありません」


 マリエルとライトが賛成した。

 ラビを心配していたショコラとユーリも同意見で、他からも反対意見は出なかったため、クロムの案は採用され、ラビは北の門からの出発となった。


「あ、そうだ。前回のペナルティあるから、フリークは他の奴らが出発した四半刻後に出発だ。いいな?」

「げ! う~、ペナルティじゃしょーがないかぁ」


 クロムの言にフリークは肩を落とすが、渋々受け入れた。

 ルールも整ったところで、マリエルが言った。


「じゃ、各自すぐに役作りしてねー。今回の私はヒステリックだから、うっかり攻撃するかも知れないから、気をつけて!」


 マリエルが笑えない冗談を口にする。

 一同が苦笑いの中、マリエルは目を閉じて、ゆっくりと息を吸い込み、


「《クリック、クラック、オープンストーリー》」


 呪文を唱えた。すると、マリエルの目の前に一冊の本がぽんっと突然現れた。表紙には【クイーン・アウト】と書かれてある。

 これはマリエルの書いたシナリオだ。

 宙に浮いた本は、ひとりでにページがぱらぱらと捲れ始める。その中には最初の数ページに地の文だけが書かれていた。

 そして、マリエルが目を開けると──


『今日は妾の宴によく来てくれた。皆の者、ゆっくりして行け』


 先程とは口調も声色も全く違う話し方になっている。

 纏っている空気もマリエルのものではなく、どこか高圧的で冷々としていながら豪奢で優美。そこにいたのは【クイーン・アウト】という物語に登場する『赤の女王』だった。


『赤の女王、これは一応、私と貴女の二人で催したものなのですが?』


 そう言ったのは、クロム──『黒の主催者』だ。

 赤の女王が「妾の宴」と言ったのが、気になったのだろう。

 少しムッとしている黒の主催者を見て、赤の女王は愉快そうに笑った。


『ほほ、そうであったな』


 赤の女王はどこから取り出したのか、羽扇で自分を扇いでいた。

 一方、騎士達はこの後に待ち受けている『役割』に備えて、ドリンクと軽食で準備しつつ、談笑している。


『ゆー……じゃなかった。こおりのきしさま、このるーじゅべりーのじゅーす、おいしいです! きしさまもどーぞ』


『白兎の騎士』が『氷の騎士』にルージュベリーのジュースを進めている。


『ありがとう。小さな白兎の騎士さん……うん、とっても美味しいね』


 氷の騎士はジュースを一口、口に含み、その爽やかな甘味と僅かな酸味をしっかり味わいながら、飲み込んだ。それから二口、三口と飲んでグラスの中身が半分になると、テーブルに並べられたケーキを一つ皿に取って、白兎の騎士に差し出した。


『お礼にどうぞ』

『わぁっ、ありがとうございます!』


 差し出されたケーキにラビは頬を真っ赤にして喜んだ。

 甘酸っぱいラズベリーソースのかかったチーズケーキをフォークで小さく切り分け、ぱくっと食べる。


『おいしいですっ!』

『そっか。よかった』


 ニコニコと笑いながら談笑する二人をみて赤の女王は──


「ラビが……っ、ラビが可愛すぎて死ねる!」


 素で悶えてた。脇で黒の主催者が「演技、演技」と注意しているが、こちらも素に近い。まぁ、演技はごっこ遊びの一貫で完璧にこなさなくてはならないという訳ではない。


『このチョコ美味しいー! お菓子の国からの輸入品ね』


 砂糖の騎士が瞳を輝かせて次々に口に頬張る。


『毎回のことだが、随分手が込んでいるな。資金は──』

『あははー、お酒おいしー!』

『また飲んでるんですか!?』


 計算機で経費を算出するクラウド、懲りずにワインをガバ飲みするフリークとそれを嗜めるライト。

 もうどこもかしこもフリーダムだった。


『なー、これ芝居の必要ある?』

『一応物語だからねー。メモリーブックに記憶するから、芝居性があると面白いでしょ?』


 マリエルが宙に浮くシナリオ本──メモリーブックを指でつつく。

 そこには先程まではなかった文字が記されていた。


『さて、と』


 マリエルは何やら腕を組んで思案し始めた。


『黒の主催者よ』

『なんですか?』


 突然赤の女王モードになったマリエルにクロムは黒の主催者として返した。


『この物語はな、妾が癇癪を起こさないと先に進まないのだ』

『まぁ、そうですね』

『しかし、理由もなく癇癪起こすっていうのはヒステリックすぎだと思わぬか?』

『情緒が安定しない女だとは思います』


 黒の主催者の意見を訊いて、マリエルはこくりと頷き、そして言った。


『というわけだ。黒の主催者よ、とりあえず妾を怒らせてくれ』

進まなくてすみません。

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