†第三話† 招かれた騎士たち~王の下~
遊戯参加キャラ全員登場です。
「なにコレ・・・・・・」
目の前に広がる光景に、マリエルは半眼で呟いた。
なんとか時間ギリギリに着替えを済ませたマリエルが空中庭園で見たものは、
「あはは! あははは! あはははは──!」
「陛下! もうその辺にっ」
「むにゃむにゃ」
「クラウド~、起きて~。もっと飲もうよ~」
葡萄酒の注がれたグラスを片手に高笑いするクロム。それを必死に止めようとする金髪の青年と、その足元で酒瓶を抱き締め眠る亜麻色の髪の青年。更にその青年を起こそうと揺さぶる左目に眼帯をした少年。
金髪の青年以外、全員酔っ払っているのか、顔が赤い。
「混沌だ・・・・・・てゆーか、何やってんの?!」
マリエルが拳を握り締めた両手を頭上へ掲げて大声を上げる。
すると、眼帯の少年がマリエルの腰にぎゅうっと抱き着いてきた。
少年はふくふくとした頬を擦り寄せ、ふにゃりと破顔した。
「まりーちゃんだぁ・・・・・・ふゅふゅ、久しぶりぃ」
少年の呂律は回っていない。やはり酔っているようだ。
この少年といい、クロムといい、いくら飲酒しても問題ない年齢だと知っていても、子供の姿で飲まれると眉を潜めたくなる。
マリエルは痛む頭を押さえ、訊ねた。
「フリーク? 何、その格好・・・・・・」
「あー、これぇ? おみやげにキャンディ持って、ふゅ、来たんだけどぉ、間違って魔法の飴シリーズの、ふゅふゅ、ピーチ味持って来ちゃったぁ! ふゅふふ」
「で、誤って食べちゃったと?」
「せーかい!」
フリークは両腕で丸を作り、またふゅふゅふゅと可笑しく笑う。
「はぁ。しょうがないなぁ。《戻れ》」
マリエルが少年の額に指を当て、呟く。
すると、フリークの額にに小さな魔法陣が浮かび上がり、そこから淡く白い光が放たれる。
光はどんどん大きくなり、フリークの体を包み込んだ。
粘土のようにくねくねしながら広がった光は、最後に弾け、辺りに散りながら消えていった。
その中から出てきたのは先程の少年──ではなく、少年と同じ格好をした青年だった。
赤髪に眼帯の青年はフリーク=リッチェル。
騎士の一人。
魔法の飴で少年の姿になっていたのだ。
ちなみに魔法の飴とは、お菓子の国と魔法の国が立ち上げた大手の菓子メーカーで娯楽用に販売されているキャンディだ。
三十種類以上の味の種類があり、食べると体に魔法が掛かる。
ピーチ味には体を子供に戻す効果がある。しかし、子供が食べると赤ちゃんになってしまうという欠点があるので、今では本社でしか売られていないが。
マリエルがフリークに掛けた魔法は解魔法。
魔法を解く魔法だ。
《リターン》は対象を魔法が掛かる前の状態に戻す効果がある。
これでフリークは元の姿に戻ったのだ。
しかし、問題が発生した。少年フリークはマリエルの腰に体重を掛けていた。子供一人の重さなら大したこともないが、体格のしっかりした男性だとそうはいかない。
「お? わっ、わわっ!」
フリークはそのままマリエルに寄り掛かり、その重さでマリエルは尻餅をついてしまった。
「重い重い! フリーク、どいて~!!」
「ふゅふゅ、ふふふ」
魔法は解けても、酔いは醒めていないフリークは忍び笑いをしながら、一向に退く気配がない。
マリエルは慌てて、クロムから酒杯を取り上げようとしている金髪の青年を呼んだ。
「ライトー! ヘルプ! ヘルプミー!」
「今忙しい! 自力でなんとかしろっ」
が、ばっさりと切り捨てられてしまう。
「ひどいっ、私より酔っ払いクロムの方が大事なの?」
涙目で訴えてみると、青年は「うっ」と言葉を詰まらせ、渋々マリエルの下に寄ってきた。
「ああもうっ! この忙しい時にっ」
そう言ってフリークの首根っこを引っ掴むと、力任せに引き倒した。
フリークは酒が回っていた為、受け身も取れずに地面に頭を打って気絶した。
「・・・・・・ちょっと、やりすぎじゃない?」
「助けてもらって文句ゆーな」
ライトはそう言うと、もう用はないとばかりにクロムの下へ戻っていった。
「あぅー、ライトがクロムに盗られたー」
「まりーさま」
舌足らずな声に呼ばれて振り返ると、純白に薄紅色のレースをあしらったドレスの上に、胸当てを装着したラビがユーリに抱えられながらマリエルへ手を伸ばしていた。
「きゃー! ラビっ! かぁわいー!!」
「まりーさま、おはなかざりました。じょうずにできた?」
「ええ! とっても上手よ! ラビは天才ね!」
ユーリからラビを受け取り、ぎゅーっと抱き締める。
ラビもぎゅーっと抱き返してきて暫くそのままだったが、ユーリが咳払いをすると、開始時刻を思い出し、ラビを下ろして地面に転がっているフリークと亜麻色の髪の青年──クラウドを揺さぶった。
「フリーク~、クラウド~、伸びてる場合じゃないのよ! もう【クイーン・アウト】が始まるんだから、起ーきーてー」
「ピヨピヨひよこスター・・・・・・」
「う~ん、クロムめ・・・・・・はるまげどん」
「何言ってんの!? しっかりして! 《目覚めよ》!」
おかしな事を言う二人にマリエルは覚醒魔法を掛けて、強制的に叩き起こした。
「わっ! あれ? 僕確か、ライト君にボディーブロー決められて・・・・・・?」
「いや、別にライト、決めてないからね? ボディーブロー」
「クロムが『災雷の箱』を開けて──」
「開けてないから。いくらクロムでも大陸に大穴ぶち開けるような真似はしないから」
夢と現実を混同してしまっている二人に突っ込むマリエル。
とりあえず問題は無さそうだ。
二人を立ち上がらせて、テーブルに連れて行く。
そこではショコラとルナがクスクスと笑いあっていた。
「ちょっと~、ショコラ! ルナ! 笑いすぎよ!」
「ご、ごめん・・・・・・ふふっ、だっ・・・・・・あはははっ」
「クスクス……皆さんは相変わらずですね」
「も~」
マリエルは頬を膨らませてから、苦笑した。
三人が笑っているうちにフリークとクラウドは完全に目が覚めたらしく、目を擦って上半身を起こした。
あくまで起こしただけなので、酔いは飛んでおらず、二人ともまだ頬が赤い。
「う~、ぎもぢわるい」
「……っ」
よほど飲んだようで、それぞれ頭や口元を手で押さえている。
一方、顔は赤いが陽気に笑っているクロムや一滴も飲んでいないライトは問題無さそうだ。
「ちょっと、主催者兼監視者役のクロムはまだいいとして、貴方たちどうするの? その状態で参加できるの?」
今回の遊戯は足を使う。
創った張本人であるマリエルは、この遊戯が千鳥足で攻略出来るほど簡単じゃない事を知っている。
かといって、このままだとただでさえ少数参加のこの遊戯から参加者が減ってしまう。
「いたた……マリーちゃん、お願い。ついでに酔い醒ましの魔法かけてくれない? あれ、自分でかけてもあんま、効果でないからさ」
「頼む」
「やだ。もう二つも使ったから疲れた」
実際はまだ全然余裕なのだが、ここは灸を据えてやろうと二人の頼みを断る。
二人が何やら言っているが、全て無視した。
意思表示をする為にツンとそっぽを向いたが、一つの名案が思い浮かび、マリエルはある提案をした。
「どうしてもって言うなら、夏の遊戯祭の会場抽選降りてくれたらかけてあげてもいいわ」
「やだ」
「断る」
即答だった。まぁ、マリエルも断られると予想はしていた。
この二人は今はただの酔っ払いだが、それぞれが別の顔を持つ。
フリークは王都最大のカジノのオーナー。
クラウドはカードゲームを司るカードランドの領主を務めている。
故に、年に二回行われる遊戯祭の会場長の座を決める抽選会の参加資格を持っている。当然、ファンシーランド領主のマリエルにも参加資格はある。
遊戯祭会場長は特別な役職であり、務めれば祭典でどんな無茶な遊戯も決行出来る権限がある。遊戯に生きる者にとっては喉から手が出るほど欲しい特権だ。
そして抽選方法も勿論、遊戯。
だからこそ、無駄に悪知恵の働くフリークと抽選方法から必勝法を導き出せるクラウドは邪魔だ。
ここで降りてくれたらラッキーだと思ったが、彼らもわざわざ金を溝に捨てるような真似はしない。
マリエルは気落ちするわけでもなく、当たり前だと肩を竦めただけだった。
「とにかく! 遊戯を始めるから、皆並んで並んで!」
マリエルに背中をどんっと押され、フリークとクラウドが自分の名札の置かれたテーブルに着く。他の参加者もそれに習った。
主催側のマリエル、クロム、ルナの三人は、正面の主催席へ行き、マリエルがこほんっと咳払いをして、挨拶をする。
「皆さん、本日はお日柄も良く、絶好の遊戯日和となりました。えーっと、今日皆様と遊戯を共に行える事を嬉しく思います。また、本日は誉れ高き遊戯王クロム陛下にも足をお運び頂き……うんと、マコトニコウエーニオモイマス」
最後はナタリアが掲げたカンペを見ながら言ったので、カタコトになってしまい、騎士役の面々が苦笑する。
「この栄誉──って、あぁー! めんどくさい! こういうの苦手なのよね。クロム、パス!」
終いには、クロムに投げた。
「えー、俺もめんどいんだけど……」
「いいからなんか言ってよ。これ一応、映像にして領民達もリアルタイムで見てるんだから」
遊戯の国の国民は遊戯をするのはもちろん、見るのも好きなため、魔法の国と科学の国が合同で作成した映像を記録、配信する道具を国民に配布し、誰でも遊戯を観賞できるようになっているのだ。
クロムは、そうだったと思い出し、自分に向けられているカメラのレンズを一瞥すると、こほんと一つ咳払いし、よく通る声で言った。
「常日頃言っているが、遊戯はこの世で最も愉快な娯楽で平和な戦争だ。遊戯に生きるが、我らの道。しかし、今日行うのはただの楽しい遊戯だ。なんの気兼ねもなく楽しめばいい。皆が満足のいく遊戯をできるよう、健闘を祈る。さぁ、物語の開幕だ」
次話は【クイーン・アウト】の説明&序章です。