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遊戯の国の物語  作者: ふみわ
†第一章†クイーン・アウト
4/7

†第一話† 招かれた騎士達~雪兎の準備とショコラの香り~

ここで『騎士』を全員出そうと思いましたが、力尽き、二人にしました。


 朝日と共に咲き誇るプリムラの花々。

 プリムラが満開になる今日は、ファンシー城はいつもより賑やかだ。

 侍女達はパタパタとあちらへこちらへと走り回り、第一塔の屋上にある空中庭園の総仕上げに勤しんでいる。

 マリエルが最初のパーティー会場は空中庭園にすると言い出し、雨が降るのを危惧して、当日まで飾り付け等の準備が出来なかったのだ。

 だから、今朝から大忙し。

 ガーデン用のテーブルと人数分のチェアをセットし、その上に染み一つない新品同様の白いテーブルクロスを掛ける。

 後は花の飾り付けやら、ウェルカムドリンクの用意など。

 くるくる回る人々の間を通り抜け、ぴょこぴょこと廊下を走る少女が一人。

 真っ白な兎の耳を持つ侍女──ラビだ。

 手には咲いたばかりのプリムラの花を大事そうに持っている。


「あっ! ラビ、いたいた!」


 パタパタと息を乱して走ってきたのは、マリエル。

 普段は纏めてある髪は(ほど)かれ、腰辺りで揺れ、身に纏っているのはインナー用のドレス。その姿は着替えの途中ということをありありと語っていた。


「まりーさま、おはな、つみました。きれい。これもかざっていいですか?」


 ラビがマイペースに訊ねると、マリエルは視線を合わせて、ラビの頭を撫でた。


「プリムラ? 咲いたばかりの花はやっぱり綺麗ね。よし、飾りましょう。もう時間がないわ。まずは着替えよ。素早く着替えてから、素早く飾りましょうね」

「まりーさま、おきがえ?」


 マリエルの格好を確認したラビが呟く。


「私も着替えるけど、ラビもね」

「らびも?」

「そうよ、招待状届いたでしょ? クロム──いや、『黒の主催者』から」


 あっと、思い出したようにラビがエプロンの胸元から封の切られた一通の封筒を取り出す。

 中には二つ折りにされたカードが一枚。

 黒字のカードには、銀色の文字でこう綴られていた。


『雪兎の騎士 ラビ=ホワイト殿

 おめでとうございます。

 貴方は『黒の主催者』と『赤の女王』主催のパーティーの招待客に選ばれました。

 つきましては、プリムラが満開になる日の午前十時にファンシー城の空中庭園まで平服でお越しください。

 なお、お越しの際はこの招待状をお持ちください。』


「これですか? まりーさまの【ゆうぎ】のおさそい」

「それそれ。今回はラビも参加するのよ。だから、着替えなきゃ」

「へいふくってなんですか?」


 招待状を読みながら、ラビが訊ねる。


「立食式だから、普通ならカクテルドレスだけど、ラビは『騎士』役だから、騎士風の服よ」

「きしふう? わたし、もってません」


 ラビが困ったように俯く。その動きに合わせて兎耳(うさみみ)も項垂れる。

 しかしマリエルが含みのある笑みを浮かべ、マリエルを高々と抱き上げた。


「大丈夫! すでに手は打ってあるから!」

「おてて?」

「貴女達、出番よ」

「「「はい、マリー様」」」


 マリエルが指を鳴らすと、何処で控えていたのか数人の侍女達がザッと現れ、その中でも長身の侍女・ナタリア=ロローラがラビを担ぎ上げた。


「わっ! なーちゃん、みんな、なぁに?」


 持ち上げられた事に戸惑っているラビを見て、その場にいる全員がにんまりと笑った。


「ふふ、これからラビはナタリア達にお着替えさせてもらうのよ」

「おきがえ?」

「そうよ! さぁ、ラビちゃん行きましょう? マリー様と私達でラビちゃんの衣装はしっかり準備してあるから!」

「え? え?」


 状況を掴めぬまま、まるで拐われるように一室へと消えてゆくラビを見送ったマリエルは、自らも着替えの続きをするべく、部屋へ戻ろうとする。

 その途中、仄かなチョコレートの香りがマリエルの鼻腔を擽り、香りのする前方を見ると、此方へ向かってくる少女がいた。

 チョコレート色の長い髪をお団子風に纏め、ミルクチョコレートとダークチョコレートで作ったような丈の短いドレスの上に、スイーツをモチーフにしたような手甲や胸当てをした装いは、明らかに、本職の騎士ではない──【クイーン・アウト】の参加者だと分かる。

 まるでチョコレートで出来たような少女をマリエルはよく知っていた。


「ショコラー! 久しぶり!」

「マリー、おひさー! お招きありがとー」


 両手を取り合って、その場で二、三度跳ね上がる。

 薄紅色の髪とチョコレート色の髪が同時に浮かぶ様は、本当にお菓子のようだ。

 暫く久しぶりの再会を喜んでから、互いの近況報告をし合う。


「お店、順調そうでなりよりだわ。また注文させて貰うね」

「ありがとー。マリーは最近どお? ファンシー領は恙無く?」

「ぜーんぜん、問題なし! トラブルが起きても【遊戯】で解決する遊戯の国でも平和なファンシー領だからね! あ、でも最近魚が減ってるのよね・・・・・・」

「内陸国だから元々、魚は少ないと思うけど」

「いやー? だからって川魚まで獲れないってどう思う? ルルッカにも殆どいないのよ?」


 ルルッカとは、ファンシー領の西端を流れる運河だ。

 まだ遊戯の国が存在せず、隣国の【魔法の国】の一隅だった頃に作られたルルッカ運河は、水の豊富な北の【氷の国】から始まり、【遊戯の国】を含む六つの国を流れ、最後は大陸の中心地である【大地の国】へ辿り着く。

 途中で幾つもの大河から水を引いているので、魚もそれなりに泳いでいるのだが、ここ最近は数が激減している。

 領役所が相談を受け、調査もしたが原因は分からず、マリエルも運河に潜って調べてみたが、やはり数が減っている事しか確認出来なかった。


「そりゃ、変だね。水にも問題なし?」

「うん、上流にある領も同じらしくて、今は魔法の国はどうかオズに相談して返事待ち」

「オズワルド師匠(せんせい)に!?」


 ショコラが目を見開く。

 オズワルドとは、ショコラの母国である【魔法の国】の王だ。

 世界一の魔法使いと名高い彼は、公務の傍ら、自ら創設した【アカデミー】と呼ばれる魔法学院で教鞭を取っている。ショコラもオズワルドに師事した生徒の一人である。

 卒業まで首席の座を貫いた彼女は、魔法省からの誘いを全て蹴り、今では幼い頃からの夢であったスイーツショップを遊戯の国の領地である『カードランド』で営んでいる。

 何故、魔法の国ではないかというと、それはショコラとオズワルドの複雑な師弟関係が絡んでおり、一言では説明できない。

 そんな事もあり、ショコラはばつが悪そうに身動いた。

 ショコラの心中を察したマリエルが、ショコラの肩をぽんっと叩き、明るい声で言った。


「まぁまぁ、お気になさらずに。今日は楽しい遊戯の日。小難しい事は考えずに楽しんでいって!」

「そう・・・・・・だよね! うん! 楽しむ! なんてったって、今回の優勝商品はお菓子一年分だもん! あー楽しみ。今日は絶対『砂糖の騎士』が勝たせて貰うから!」

「えっ!!! あ、うん。頑張って」


 一瞬、マリエルが顔を引き攣らせたが、ショコラは気づかずスキップでマリエルの横を通り過ぎる。


「じゃあ、先に空中庭園に行ってるねー。また後で」

「・・・・・・うん」


 元気よく手を振るショコラに手を振り返しながら、マリエルは口の中で「どーしよ」と呟いた。

ゲームが始まる前に後数人出す予定です。

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