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遊戯の国の物語  作者: ふみわ
†第一章†クイーン・アウト
3/7

†プロローグ† 物語の始まりは

新年最初の更新です。

 ここは【遊戯の国】の王都付近の領土・『ファンシーランド』。

 その中央(セントラル)に位置するのは、ファンシー領主・マリエル=リディーベルの城だ。

 空想とごっこ遊びを司るマリエルは、今日も執務室で新しい遊びを考えている。


 カリカリ……カリカリ……。


 紙にペンを走らせる音が執務室に響く。

 マリエルの執務室には、遊戯本がギッシリ詰まった本棚やメジャーなボードゲームやカードゲーム、或いは一目では何に使うか分からない遊戯具が雑多に置かれた棚が並んでいる。

 天窓から射し込む、暖かな陽射しと少し古ぼけた空間は『愛すべき古き時代』を想起させ、マリエルにとってとても心地いい場所だ。

 暫くすると、ペンが滑る音が止み、古時計の秒針が進む音だけが残る。


 ごっこ遊びの【シナリオ】を書き終えたノートブックを一端閉じたマリエルは、んーっと伸びをした。

 その動きに沿ってゆったりと結い上げられた薄紅色の髪が少し(ほつ)れた。

 徹夜明けの眠たげな目を擦って、マリエルは呟く。


「ふぅ、こんなものかな。後は配役を決めなきゃ」


 マリエルは執務机の脇に積み上げられた参加希望者リストに手を伸ばす。

 そのリストには【遊戯の国】の住人全員の名前が記されている。


『遊戯は金より、愛より重要だ。むしろ遊戯こそが金であり、愛である』


 という国風を掲げる遊戯の国の住人は、いつも遊戯を求めてる。

 マリエルも出来ることなら、多くの人に遊戯に参加してほしいと思っている。


「今回は役に限りがあるからなぁ。とりあえず、『赤の女王』と『白の淑女』は私がやるとして、『新月の悪魔』はルナに頼もう。後は肝心のプレーヤーか・・・・・・」


 リストと睨めっこしながら唸っていると、扉がノックされた。

 どうぞ、と入室を許可すると、小柄な少女が入ってきた。

 少女は雪のように白い肌と大きな赤い瞳をした愛らしい容姿をしている。

 だが、特筆すべきは、その艶やかな白髪から伸びる兎のように長い耳だろう。

 動く度にひょこひょこ揺れるその耳は、【遊戯の国】の国の最北にある永久凍土の『アイスグラウンド』に住む白兎族の証だ。

 白兎族の少女の名は、ラビ=ホワイト。着ている侍女服からも分かるように、ファンシー城で働くマリエルの侍女だ。


「ラビ? どうしたの? あ、おやつにする?」


 ラビはマリエルの誘いに首を横に振り、マリエルの側までよると、鈴のような小さく透き通った声で用件を告げた。


「まりーさま、へいかがおみえです。おとおししてもいいですか?」


 拙い喋り方で言うと、マリエルはラビの頭を優しく撫でた。


「そういえば・・・・・・今日来るって言ってたわね。丁度いい、『黒の主催者』役やってもらお♪ いいよ、お通しして」

「かしこまりました」


 ラビがペコリと一礼して退室する。

 ぱたぱたと走る音が遠ざかり、暫くすると、カツカツという革靴が廊下を蹴る音が近づいてきた。


「マリー、入るぞ?」


 ノックと共に、声がかかる。


「どうぞ」

「久し振りだな。先月の『カードランド』のポーカー大会以来か?」


 マリエルが言うと、堂々とした風格の少年が入室する。

 少年にしては理知的な光を宿した瞳が特徴の彼は、床に触れそうな程の長さのマントを優雅に捌いて歩み寄ってきた。


 クロム=クロニクル。

 この【遊戯の国】のゲームのルールを司るルールメーカーであり、最高権力者。

 即ち、王である。

 その幼い容姿とは裏腹に、数百年の歴史を持つこの国の建国者でもある彼は、マリエルにとっては古き良き友人──いや、悪友だ。


「そうね。あの時は私、観戦に回ってたから参加できなくて残念だったわ。決勝戦の貴方とフリークの心理戦は凄かったわね。まさか、あそこでロイヤルストレートフラッシュを出すなんて──流石は天運も味方する遊戯王」

「確かに運はよかったな。なんせ、フリークはフルハウスを揃えてたんだから。しかもAが三枚、5が二枚。俺のAをフリークが引いてたらヤバかった。ま、この遊戯王たる俺に遊戯の敗北はないけどな!」


 子供っぽく胸を反らすクロムの姿に、彼の実年齢を知るマリエルは思わず吹き出した。


「ふふっ、あれで負けた時、フリークはペナルティー受けちゃったから盛大に臍曲げてそうだね。っと、陛下に立ち話をさせるとは──どうぞ、こちらへ」

「ああ」


 マリエルがソファを指し、クロムが座る。

 その後、ラビが用意したお茶とお菓子で談笑を楽しんでから、マリエルはクロムに自分の考えた遊戯の話をした。


「これがその【シナリオ】なの」

「【クイーン・アウト】・・・・・・女王殺しの物語か・・・・・・相変わらず、この手の話が好きなんだな」

「まぁね。『毒林檎の女王』の物語は私のバイブルだし」


 クロムが分厚いノートブックに書かれた細やかで流麗な字を追う。

【シナリオ】とは、空想とごっこ遊びを司るマリエルが創った物語形式のゲームだ。

 プレーヤーはそれぞれ物語の登場人物の役を与えられ、その物語に添ってゲームを進めつつ、勝利を目指す。

 勝利の条件は、ポイントをゲットしたり、ゴールを目指したりと様々だ。

 今回の【クイーン・アウト】は後者。登場人物達がゴールを目指す物語。


「私はね、ラスボスの『赤の女王』と『騎士』達に試練やチャンスを与える『白の淑女』の役をやろうと思うのよ。ねぇ、もしよかったらクロム、『黒の主催者』やってくれない?」


 マリエルが「お願い」と、両手を合わせて頼む。

 クロムは最初のページに戻って、登場人物の『黒の主催者』の欄を目で追った。


『黒の主催者

 パーティーを開き、『騎士』達を招待する役。

 主催者側の人間で、ゲームには参加せず成り行きを見守る監視者』


「監視者か・・・・・・悪くない。遊戯の意義は参加する事だけではないからな。観賞するのもまた一興。『黒の主催者』役、受けよう。ただし、招待する『騎士』は俺に決めさせてくれ」


 クロムの受諾にマリエルは跳ね上がる程、喜んだ。

 王が参加する遊戯は、どんなものでも()がつく。

【遊戯の国】の住人として、領主として、それは名誉な事だ。

 しかし、マリエルは純粋にこの悪友が参加する事自体を喜んでいる。


「やったー! 私も出番は後半だから、一緒に観戦しましょう。配役の件は全面的にお任せするわ。決行は来週のプリムラが満開になる日。招待状を出すの忘れないでね?」

「了解した」


 はしゃぐマリエルを見てクロムも口角を上げる。

 そこへ、お茶がなくなる頃と思ったのだろう。

 新しいティーポットを持ったラビがドアからひょこりと顔を出した。


「まりーさま、おちゃ」

「ありがとう。手押し車使わなかったから重かったでしょう? おいで」


 マリエルが手招きすると、ラビは跳ねるように小走りで来た。

 小さくて軽いラビを抱えると、マリエルは自分の膝の上に座らせる。


「ほら、ラビの好きな『ミルキーウェイ』のお菓子」


 金色で『Milky Way』と綴られたブリキ缶を開け、その中からクッキーを一枚手に取る。

 そのクッキーは、五角形のバニラ味のクッキーとチョコレート味のクッキーを組み合わせたような形をしていて、非常に凝っていた。

 マリエルはそれを食べやすい大きさに割って、ラビの口に放り込む。

 サクサクとクッキーを咀嚼する音が鳴り、ラビは頬を薔薇色に染めて笑った。


「おいしいです! やっぱり、しょこらさまのクッキーは、ゆうぎのくにいちばんです!」


 にこにことご機嫌にクッキーを頬張るラビの頬をつんつんとつつきながら、マリエルも紅茶を啜る。


(ふふ、やっぱり、ラビは可愛いわ~。そういえば・・・・・・ラビが正式に私の遊戯に参加したことってあったっけ?)


 元々幼いラビは、まだ正式な遊戯をしたことがない。

 勿論、遊戯の国生まれのラビはマリエルや侍女仲間と遊んだ事はある。特に体を使う遊戯が好きだ。

 ぴょこぴょこと動き回るラビは本当に子兎みたいで、城内では密かな癒しとなっている。

 遊戯は人並みにできるが、やはり領主や王主催の遊戯では参加者の平均年齢が高く、子供は参加しづらい。

 子供にこそ参加して欲しいと思うマリエルの専らの悩みはそれだ。


(【シナリオ】を少し書き換えれば・・・・・・アリね。だったら優勝商品はあれで・・・・・・よし!)


 ティーカップをソーサーに戻したマリエルは、隣でラビ以上にクッキーを頬張って、食いしん坊のリスみたいになっている甘党の王の肩口をつついた。


「クロム、クロム」

「ん? ふぁんだ?」


 食べながら喋るものだから、言葉がはっきりしていない。

 マリエルは気にせず、内緒話をするようにクロムの耳に顔を近づけ、ラビに訊かれないように言った。


「あのね、一つだけお願いがあるの。『騎士』役に選んで欲しい子が一人」

「誰だ?」

「──」


 その名前を告げると、クロムはマリエルの意図にすぐ様気づき、悪戯を思いついた子供みたいに笑った。


「面白そうだな。そうだ、『騎士』にはフリークも選ぼう。あいつ、前のゲームでペナルティーあるから、ハンデには丁度いいだろ」

「じゃあ、『アイスグラウンド』のユーリも呼んであげて。知り合いがいたほうがやり易いだろうから」

「あいつの主が納得するか?」


 クロムが眉を潜めて思案する。


「大丈夫でしょ。遊戯のお誘いだし、ラビいるし。むしろ着いてきそう。一応、ルナを通して言っとくわ」

「わかった。じゃ、そろそろ帰る。参加者のセレクトしなくちゃならないからな」

「よろしくー」


 手を振って、クロムを送る。

 ご機嫌な様子でクッキーを摘まむマリエルをラビは不思議そうに見上げる。


「まりーさま、ごきげん。いいことありました?」

「これから、あるのよ。楽しみ♪ ラビも楽しみにしててね」


 マリエルがラビの柔らかい頬をむにむにと円を描くように揉む。

 花でも飛ばしそうなるんるん気分のマリエルを見て、主が嬉しそうなのが嬉しいらしく、ラビもニコリと笑った。


 その笑顔にノックアウトされたマリエルが買いだめしておいたお菓子を全てラビに与えようとして、ラビを呼びに来た侍女長に見つかり、一時間お説教されるのは、この五分後の事──。

ここまで、長いのを書いたのは初めてかもしれません。

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