異世界転移者の末路
「予想通り転移者は仲間を集めこっちに向かってきてるぜ」
迷彩のツナギを着た骸骨が頭に巻いたバンダナの位置を整えつつ報告する。
「クエンからならばこの森を通ってくるであろう、ならばここで返り討ちにするのみ」
馬鹿でかい体躯に白に近い銀色の鎧を身にまとった者が返事をする、その大きさだけではなく手に持ったハルバードと人ではなく鷲の頭がより威圧感を与えている。
「しかしなんでミーたち五重殺のうち三人が出っ張るんだ?あんなやつら下っ端に任せりゃいいじゃん」
木にもたれかかりドクロが言う、自家製の煙草に火をつけ吸っているが穴だらけなため煙を吸い込めていない。
「あんた本当に馬鹿ねぇ、手柄を立てたらシューゼン様に誉めて貰えるでしょう」
スバイが呆れたように言う、外出用なのか一反木綿ではなく真っ黒なビキニに内ももを晒したタイツ、上には丈の短いテーラードジャケットを着ている。
「左様、主君は我々に命じられたのだ、すなわち私たちの力を信じておられるそれに応えるのは家来として当然のこと」
「そんなこと言ったって誉めてもらったことなんてナッシングだぜ、それに転移者にどうやって転移したか聞いて故意に転移してきたやつなら殺さず館まで連れてこいってのもよくわかんねぇし、一体なに考えてるのかマジカルミステリーマオーサマだぜ」
ドクロは煙草を指でもみ消すとため息をつく。
「誤解しないでくれよ、ミーはちゃんと忠誠を誓ってるぜ」
二人が目に見えて不機嫌になっていたので慌てて訂正する。
「そろそろ転移者が来るであろう、やつらは何人で行動している?」
トリスがドクロに問いかける。
「おおっ、もう近くまできてるぜ、転移者ドワーフリザードエルフの四人だな、なんで転移者は酒場で仲間を集めるとカルテットにするんだろうな?」
ドクロの目があるべき場所が薄緑色に妖しく光る、スバイとトリスはスタスタとドクロが向いていたほうに歩き出す。
「止まれ」
青く光る鎧を着た青年がスバイたちに言う、恐らく彼が転移者なのだろう。
「あなたが転移者ね、あなたはどうやってこの世界に迷い込んだの?」
スバイはファッションショーのように優雅に警告を無視しながら歩み寄り問いかける。
「魔王の手先なんかに返す言葉はない、それ以上近づくと斬るぞ」
転移者は剣を突きつけるように構える、後ろにいた三人も各々の武器を構えた。
「ここにくるまでに貴様等の仲間を倒してきたんだ、同じ目にあいたくなければ下がれ」
「もうめんどくさいわね」
スバイがそう言うと同時にドクロとトリスが動いた、トリスは持っていたハルバードで、ドクロは隠していたナイフで護衛の三人を瞬く間に殺してしまった。
「えっ、あっ」
狼狽えている転移者をスバイが押し倒し馬乗りになる。
「これが最後の質問よ、あなたはどうやってこの世界にきたの?」
「お、俺は何も知らない、気づいたらクエンってとこにいてあいつらに魔王を倒せって言われたんだ、お願いだ俺は悪くないたすけ」
「そう、なら用はないわ」
転移者の言葉を遮りドギャッと重く響くパンチを必要以上に何度も何度も振り下ろす。
「汚らわしい豚の血で服が汚れてしまったわ」
人だったものから立ち上がりいつもと変わらない調子でスバイは言う。
「毎度のことながらオーバーキルだねぇ、もっと気楽にいこうぜ」
煙草に火をつけながらドクロが言う、スバイはハンカチで顔についた返り血を拭きながら答える。
「だって転移した理由がわかるやつだったらシューゼン様がお喜びになるでしょう?その期待を裏切ったんだから当然のことよ」
「たしかに今回もはずれだったな、私としてはもっと強者だとなお良いのだが」
少し残念そうにトリスが付け足す、スバイとドクロはまたかと言った感じで聞き流している。
「それじゃあ愛するシューゼン様の館に帰りましょうか、誉めてくれるといいわね」
満面の笑みで期待しているスバイにドクロは呆れながら言う。
「スバイは帰ったらまずシャワーを浴びて着替えるべきだと思うぜ」