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2017年春放送開始『猛獣戦隊ニクショクジャー』

作者: Ash

4/22生まれの人に捧げます。

土の採掘場と思わしき山肌を見せる広い場所に私たちと敵はいた。

私たちは猛獣戦隊ニクショクジャー。パイン星人が地球に不法投棄した大量の怪物たちを倒すため、日夜戦い続ける地球に選ばれた戦士である――な~んちゃって。

私たちは力を借りているそれぞれの動物たちの姿をした力に選ばれたただの人間なのだ。

リーダーのレッドは鷲で、ピンクの私は猫。ブルーが狼でイエローは獅子、ブラックは虎。


「行っけ~、レッド!」

「とどめを!」

「やっちゃえ~!」

「・・・!」


ニクショクジャー仲間の私たちが声援を送る中、鷲に選ばれたレッドがパイン星人によって作り出された怪物に向かって必殺技名を叫ぶ。


「レッドアロー・シューティング!!!」


レッドの右手の人差し指から飛び出した赤いオーラがそのままゾウの身体で足のあるあたりからナメクジのようなものになっている怪物に向かって飛んでいく。

レッドのオーラが当たった怪物は干上がって砂でできた彫像のようになり、そのあとボロボロと崩れていった。

レッドの赤いオーラはただのオーラじゃない。火属性のオーラなの。火そのものじゃないけど、触れたものに対して火となって襲い掛かるおっそろしい代物。このおっそろしい代物はレッドだけじゃなくて、私や他のメンバーも持っている。ニクショクジャーの女の子の一人であるピンクの私は土の属性で、もう一人の女の子のイエローは風。ブルーは光でブラックは水。

オーラは私たちの身体から出てくる時は普通なのに、私たちから出た後はそれぞれの属性の劇物と化する。

怖っ。


「成仏しちまいなっ!」


熱血漢なレッドは怪物にも優しい。一撃で仕留められるからこそ、レッドがとどめを刺すことになった。

何度も攻撃しなければいけない敵は多段攻撃が得意なブルーの役割である。

ブラックは捉えどころのない個体じゃない(液体や気体)敵。

イエローと私は攻撃よりも補助サポートに特化していて、その時々に必殺技を放つ。私の場合は応援チアリーディングもそう。


「「やった~!!」」

「今回も一撃だな」

「・・・」


私とイエローがハイタッチをして抱き付き合って喜び、ブルーとブラックはレッドの背中や肩を叩いてレッドの活躍を讃えている。


「ったりめーだ。一撃じゃないと怪物がかわいそうだろ?」

「まったく、お前は相手は敵なんだぞ? 手加減なんかしてどうする?! あいつらは俺たちの命を狙ってきているのに、どうしてそんなに暢気にしていられるんだ?」


変身スーツのせいでブルーの表情はわからないけど、多分顔を顰めているんだろうな。口じゃきついことを言うブルーだけど、根は仲間を心配する心優しい人物だ。


「あいつらだってパイン星人に怪物として作り出されただけなんだぜ? 殺すなら痛みは少ないほうが良いに決まっているだろう?」

「博愛主義者のお前に言った俺が馬鹿だった」


レッドらしい言い分にブルーは理解できないとばかりに首を横に振る。


「・・・」


ブラックはいつも通り無言でレッドの言葉に頷いている。

男同士の話が終わったようなので私たちもレッドに近付く。


「レッド~、お疲れ~!」

「レッドは皆に優しいよね~! レッド大好き~!」


イエローは私の腕にしがみ付いたまま、いつものようにレッドに愛を叩き売りしている。

レッドに抱き着きに行けばいいのに、なんでこんな動きにくい恰好のままでいるのかわからない。

それに私もイエローもまだ変身スーツを着たままなのでとてもシュールな光景だ。

人気のない場所で良かった。

時間制限のある巨人だったら、人目のある街中で戦うことになる。それじゃあ、こんな姿を知人に見られかねない。

こんな恥ずかしい姿で戦えるか!

でも、そこは一人で後始末をしようとしていた善良なパイン星人がこういう場所に転送してくれる。

怪物を地球に不法投棄したのもパイン星人だけど、怪物を処分しようと地球に降り立った善良なパイン星人である彼も一人でこれだけの数の怪物を相手にできるとは思っていなかったようで、出会った時には途方に暮れていた。

何故なら不法投棄された怪物の数は軽く1000体以上。封印した状態で地球にばら撒かれたので、どこにいるのか封印が解けるまでわからないといった面倒くさい仕様になっているからだ。

おかげで封印から解かれた怪物を倒しに来て遭遇して以来、善良なパイン星人は私たち、ニクショクジャーの協力者となった。

そして、街の中心部にあるニクショクジャーの基地(兼住居のマンション)で戦闘を見守っていた善良なパイン星人が私たちを基地に転送してくれる。


「お帰りなさい、皆さん」


十四畳はある広いリビングに転送された私たちは、にこやかに出迎えた善良なパイン星人(二次元でしか滅多にお目にかかれない緑の髪にほんわかとした顔立ちの青年に擬態化している)に声をかける前に変身を解いた。

私はクラスの中で少し可愛いレベルの女の子の姿に戻る。イエローは両サイドの高い位置でツインテールにした美しい女の子。レッドは体育会系の爽やか青年で、ブルーは知的な面差しのノンフレームの青年。ブラックは目つきの鋭いアウトローな雰囲気のある青年だ。

それぞれ大学生だったり、フリーターだったり、自営業だったり、劇団員だったり、職業はバラバラ。でも、街中に基地(兼住居)があるからそこからそれぞれの生活圏へのアクセスも便利だって言うのは共通している。


「ただいま~」

「ふう。疲れたぜ~」

「お帰りなさい。イエローさん、レッドさん」


イエローとレッドが善良なパイン星人に返事をする。


「ただいま~」

「お帰りなさい、ピンクさん」


私も戦闘には参加していないサポート役を労う。善良なパイン星人は私たちと怪物の転送で力を使い果たしてしまうのだ。

この軟弱者め! と思うかもしれないけど、瞬間移動や転移などとも呼ばれるこの転送というのはかなり力を使う仕事らしい。


「ただいま。これであと何匹だ?」

「お帰りなさい、ブルーさん。怪物の残りはこれであと1108匹です」

「1108匹? この調子じゃあ、三年もこの生活(ニクショクジャー)をしないといけないのか」


せっかく、地球に選ばれたニクショクジャー仲間なのに、ブルーはみんなとのこの生活が好きじゃないらしい。

このワンフロア全体が私たちニクショクジャーの基地兼住居で、それぞれの部屋の他には共有のリビングとダイニングキッチン(こちらも十畳近くある)に3つのトイレ、浴室と眺めの素晴らしいベランダがある。それぞれの部屋だって六畳以上ある広い部屋で、リビングなんか十四畳以上。浴室の浴槽も大きめで、温泉地のホテルか銭湯並みに大きいから数人で入れるくらいだ。

大学や職場だけでなく、プライベートにも最高の立地の場所に用意された広々とした部屋に無料で住めるんだよ?

それに家族や親しい友人のように気が置けないニクショクジャーの仲間たちと仲良く共同生活。一人暮らしじゃないから、帰宅すればリビングに誰かはいるから寂しくない。

みんなでワイワイと騒ぎながら(ブラックは話さないけど)料理をしたり、食器を洗ったり、掃除をしたり、食事のメニューをみんなが好きなものや食べられるものを考えて決めるのも楽しいし。三食カレーが良いと言うイエローを宥めすかすのも楽しい。

なんで、ブルーはそんな生活が嫌なんだろう?

私はそっちも気になるけど、みんなと一緒に暮らせられなくなるのは寂しいじゃない。

それに、ブルーの気持ちはどうであれ、ニクショクジャーとして一斉に出動しなくてはいけないから、同じマンションの別々の部屋で暮らすのは善良なパイン星人の転送が困難になってしまうという理由で、共有のリビングに集まればいい今の共同生活を送っているのだ。

溜め息を吐くブルーを元気付けようと私は笑顔で言った。


「私、この生活があと三年も続けられるのは嬉しいです。だって、みんなとあと三年も一緒にいられるんだもの」

「桃香・・・。お前は暢気だな」

「褒めても何も出ませんよ」

「褒めていないというのに、何と言うポジティブさ」

「失礼な!」


憤慨する私にブルーは疲れた表情をする。


「・・・」


ブラックがブルーの肩に無言で手を置き、首を横に振る。


「わたしも桃香とあと三年も一緒に暮らせるとわかって嬉しいです!」

「イエロー!」


感極まって私はイエローに抱き着いた。


「名前も憶えられない奴のどこが良いんだ、はじめ?」

「名前を憶えてくれなくても、桃香ならいいんだよ。それに、戦闘中に本名呼ばれるよりマシじゃない?」


私は本名と役名を咄嗟に言い分けられないので、役名でみんなを呼んでいるんだよ。

あの戦闘スーツ姿で本名を呼ばれるのだけは、ニクショクジャー全員が拒否した結果、言い分けられない人物は役名でいいということになった。

それが私とレッドと善良なパイン星人。


「名前が覚えられなくてすみません」

「見分けがついていないィィグルゥゲゥノォはいいよ」


すごい。イエロー、すごいよ。

善良なパイン星人の言いにくい名前を言えるイエローがすごすぎる。


「本当にすみません。ついでにここにいる時は変身スーツのままでいて欲しいんですが、駄目ですか?」

「いや、それはマズいって。善良なパイン星人」


レッドが慌てて言った。

どんな命にも優しい博愛主義者のレッドもあの変身スーツ姿で過ごすのは嫌なようだ。

そう言う私も嫌だけど。


「そんなの耐えられない・・・」


私に抱き着いているイエローが恐怖に震えて言う。


「あんなダサい恰好を家でできるか!」


ブルーが叫んだ。


「ピンクさん・・・」


善良なパイン星人が縋るような目付きで私を見てくるが、これは味方できない。

そもそも、善良なパイン星人は人間の見分けがついていないので、変身スーツの色で判別している。今は私たちの判別が何人かできているみたいだけど、明日の朝にはわからなくなる。

声でわからないものかな?

性別くらいそれで判別してくれないかな?


「ごめん、善良なパイン星人」


がっかりする善良なパイン星人は今度はブラックに顔を向ける。


「・・・」


ブラックは今度も無言で首を横に振る。


「この星の人間はどうして異星人に優しくないんですか? 異星人差別ですよ」

「いや、だってなぁ」


レッドは気まずそうな顔で仲間たちを見る。

みんなの表情は一つ。

知人に戦闘スーツを着ているとばれたくないから、咄嗟に役名と本名を言い分けられないなら役名を呼ぶことになったくらいなのだ。

そんな恰好を戦闘時以外でしたくない。

ジャージ気分で戦闘スーツを部屋着になんかできないわよ!


「ひどい! これは異星人に対するイジメです!」


善良なパイン星人の叫びを地球人たちはげんなりとした表情で聞いているのだった・・・。




□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□




「あ、イエロー。先に入ってたん――」


私の言葉はそこで途切れる。


「あ。ごめんっ」


私はフラフラと開けた浴室の扉を音を立てて閉める。

今の、今の私の視界に映ったものは・・・?

見間違いじゃ、・・・ないはず。

でも、・・・だって・・・。

え・・・?

どう言うこと?

あれはイエローよね。

どう見てもイエローよね?

犯罪的に可愛いあの子はどう見てもイエローよね?

でも、今見えたものは・・・。

あれはどう見ても・・・。

今までイエローとは一緒にお風呂に入ったことはないけど・・・。

こんなに大きなお風呂だから女の子同士、一緒に入りたいとは思っていたけど・・・。

だけど、まさか・・・。


「あれ? どうかしたんですか、そんな恰好で?」


今日も緑の髪の青年に擬態化している善良なパイン星人が声をかけてきた。

なんで脱衣所で? と思ったら、私は慌てて裸のまま、廊下まで飛び出してしまったらしい。


「ちょ、後ろ向いていて。善良なパイン星人」

「ああ、地球人は同性同士でも裸を見られるのは恥ずかしいんですね。後ろを向きますね」


同性?

善良なパイン星人は女の子だったの?

だったら、どうして女の子なのに地球人の青年に擬態化しているの?


「で、どうかしたんですか?」

「お風呂に入ろうとしたら、イエローが先に入っていて・・・」

「ああ。イエローが。だから驚いて飛び出してしまったんですね」

「そ、そう、そうなのよ」

「もしかして、イエローが異性だとご存じなかったんですか?」

「ええ?! イエローが男の子だって善良なパイン星人は知ってたの?! いつから知ってたの?!」


善良なパイン星人すら知っていたんなら、知らなかったんは私だけ?

いや、ニクショクジャーの他の仲間も知らなかったかもしれない。


「ええ。存じ上げておりました。そういう匂いがしましたから。ピンクさんは今、知ったんですか?」


ええー?!!

イエローは女の子じゃなくて、男の娘だったの?!


「その通り! 今、知ったばかりよ!」

「ピンクさんはご存じだとばかり思っておりました。それでも異性の中で暮らすことに動じない方だと感心していたんですよ。私も地球人に擬態する際に異性にしていたのはピンクさんみたいな度胸がないからです」

「度胸があるからじゃなくて、知らなかっただけよ!」


どうしよう。

あと三年も男しかいない(善良なパイン星人も姿は男)中で共同生活しないといけない。

イエローが女の子だって思っていたから、気にしていなかっただけなのに。

どうしよう。

本当にどうしよう。

男しかいない中で共同生活だなんて、無理。

無茶ぶりすぎる。

どんな少女漫画か、乙女ゲーよ。

こんな展開、いらない。


イエローが可愛すぎるから全部いけないのよ!

イエローが男の娘じゃなかったら、こんな共同生活じゃなくて、私だけ別の部屋を用意してもらって、そことこのリビングを行き来していたのに。

続きはありません。

善良なパイン星人は異性の匂いのしない桃香ピンクだけは判別できます。

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