第3話−4〜頼もしき援軍〜
「ふぅ、大丈夫だったかセシル君」
敵が完全に去ったのを確認してからクルツさんが僕に向き直って言う。
「ありがとうございます、大丈夫です。でも、お二人ともどうしてこんなところに?」
「実は今、私達ファトシュレーンを卒業した賢者宛にファトシュレーンの先生達が一斉に念話を送っているのよ。事件の真相が少しずつ明らかになってきつつあるそうね」
「ええ。でも、新たな敵が増えてしまって…」
「それがさっきの奴か」
「クルツさん達は知っていたんですか?」
「全部念話で聞いたわ。事件の真相が明らかになってきつつあるということは同時に敵の動きも本格的になってくるということ」
「そこでファトシュレーンの先生達はメリッサを含む卒業生達に応援を求めているってわけだ」
「そうだったんですか…」
「ファトシュレーンを卒業した者として今回の事件は見逃せないわ。だから、これからは私達も君達に全面協力するからね」
「ありがとうございますメリッサさん!あ、でもお二人はどうしてこの森に?レアードへは方角が違いますよね?」
「う……まあ、ちょっとな」
「?」
「実はね、路銀の入った袋を中身だけ抜き取られたのよ。それに気づかないでレストランに入ったものだから…」
「ちょ、ちょっと。それって無銭飲食で逃げてきたってことじゃないですか!」
「まぁ平たく言うとそういうこったな」
「お金の入った袋を持ったクルツがいつの間にかスリにあっちゃってね」
「す、スリに!?」
意外だ。
意外すぎる。
これだけ冒険慣れしている人が今時のスリに遭うなんて。
「し、仕方ねぇだろ!コインドレインの魔法に気づかなくて、袋見たら空だったんだからよ!」
コインドレイン。
高等魔法の一つで、文字通り魔法をかけた相手のお金を奪い取る魔法だ。何でこんな泥棒まがいの術が高等魔法なのかというと、この魔法はもともと魔物などにかけた後、魔法で止めを刺すとその魔物がお金――もちろんちゃんと使えるものだ――になるという変身魔術の一種だったのだが、金銭に困っていた泥棒賢者が誤って人にかけた時、その人の持っていたお金を残らず奪い取れたことから用途がずれてしまったといわれている。
「普通、魔法を発動するときの魔力の波動で気づくでしょうに…」
メリッサさんがじっとりとした目でクルツさんを睨み、クルツさんはますます小さくなっていく。
「アハハハ、しっかりしたクルツさんでもそんなことがあるんですね」
「しっかりしているかどうかは疑問だけどね…」
「返す言葉もねぇ…」
「ところでセシル君はどうしてバージェの森にいるの?」
「あ、そうだった。実は、ハープの葉を探しているんですけど、セリカ先生にもしかしたらここで入手できるかもしれないと聞いたものですから」
「マジか!?おいメリッサ、俺達もハープの葉を探そうぜ。道具屋に売り払えば今日の宿代分くらいにはなる!」
「確かにあればそうなるけど、この森にハープの葉があるなんて在学中聞いたことないわよ」
「さぁ、頑張って探すぞぉ〜!」
クルツさんは途端に元気になってハープの葉を探し始めた。
「まったく調子がいいんだから…」
「あ、ハハ。でも、なかったときの反応がちょっと見ものですよね?」
「それもそうね。じゃ、ハープ探しは彼に任せて私たちは少し一休みしましょうか」
「はい」
その後、僕達は一生懸命にハープの葉を探すクルツさんを微笑ましい笑顔で見守りながら戦いの傷を癒した。
クルツさんの努力の甲斐もあってハープの葉はノエルちゃんのお店で使う分は十分あった。クルツさんには悪いけど、その辺りは学校側に説明して何とかしてもらうことにするとしよう。
「おぉーい、セシルゥー!」
学校でメリッサさん達を無事に送り届けた後、僕を待ち構えていたかのようにマリノちゃん達が駆け寄ってきた。
「あんた、また一人で抜け駆けしたわね」
「抜け駆けってほど大層なものじゃないと思うんだけど…」
「クルツさん達が来てるの?」
「そうだよ」
「わぁ〜い、嬉しいなぁ」
「しかし何でまた?あの二人は芸をしながら旅をするのではなかったのか?」
「それなんだけど…」
僕はメリッサさん達から聞いた話を彼らに話した。
「じゃあ、とうとう学校は事件解決に本腰を入れるんだね」
「そうらしい。僕もメリッサさんから聞くまで先生達がそんなことをしていたなんて知らなかった」
「結局のところ、あたし達はこの学校の生徒だもんね。いくら関係者といえど深入りはさせてもらえないってか」
マリノちゃんが不機嫌そうに言う。
「ねぇセシル君、クルツさん達に頼めば手品またしてくれるかなぁ…」
リプルちゃんが心配そうにつぶやく。
「それは大丈夫じゃないかな。敵が出てこない限り、クルツさん達も時間はあるだろうから」
「今度、頼んでみようか」
「わーい!」
リプルちゃんが嬉しさを強調するように飛び跳ねる。
「セシル、それで現状はどうなのだ?」
喜ぶ女の子達を微笑ましく見守りながら、ギルバートが耳打ちをしてくる。
「まだあまり賢者の人達は集まっていないみたい。世界中に散っているからしょうがないとは言っていたけど…」
「そうか。なら当面は戦力的に変化はない……か」
「いや、そうでもないかもよ」
「なぜだ?」
「さっきは話さなかったけど、偶然ヴァイスと会ってしまったんだ」
「!!」
「メリッサさん達に助けられたんだ。アキト先輩と一緒に戦ったときはまったく歯が立たなかったのに、今日はヴァイスにかなり致命的なダメージを与えられた」
「何と…」
「あの二人が加わってくれただけで、ヴァイス相手にかなり優勢に戦えたんだ。それに加えてアキト先輩や先生方が加わってくれれば…」
「なるほど…。単に頭数が増えただけではないということか…」
「そういうこと。それに……」
「なーに二人だけで話してるのさ!」
「わ!」
「うぉ!」
マリノちゃんが僕とギルバートの背中を叩く。
「ほら、早く帰ろうよ。みんな、セシルを待っていたんだから」
「僕を?」
「そ。セシルに勉強教えてもらったおかげで今日のテストすっごく調子がよかったんだから。今日もみっちり教えてもらうわよ」
「僕でよければいくらでも教えてあげるよ」
僕のその一言にマリノちゃんが「ばんざーい」と手放しに喜ぶ。どうやら援軍を見つけたのは先生達だけではないようだった。
ただ、言ってから後悔。
僕、昨日から寝てないから二徹になるんですけど……。