第2話−1〜図書館でバクバク!?愛の告白大作戦〜
学校の授業が全て終わった放課後、僕達はドクターエックスの特訓もそこそこに期末テストに向けた準備も着実に行っていかなければならなかった。
「はぁ、憂鬱だな〜。こんなにも特訓がもっと続いてほしいなんて思ったことなかったのに」
コロシアムの入り口を何度も振り返りながらマリノちゃんが恨めしそうにつぶやいた。
「そんなこと言わないで頑張ろ!テストをのりきったらいっぱいいっぱい遊ぼ!」
「リプルは相変わらず前向きだなぁ…」
いや、君が後ろ向きすぎるだけだよ。
「マリノ、後で部屋に行っていい?一緒に勉強しよう」
「そうしてくれると助かるよ。あたし、マジで今回の範囲全然わからなくってさ」
そんな話をしている女子組の後ろで僕達も同じような会話をしている。
「ギルバートはテストをあまり嫌がらないね」
「こればかりは避けようがないからな。しかし、紙に答えを書く試験というのは初めてなのだが…」
「えぇ、マジかよ!?」
「うそ、マジでぇ!?」
ウェスリーと前で話していたマリノちゃんが同時にリアクションをする。
「う、うむ。戦士養成学校では知識よりもその技術力を問われたからな」
「さすが戦士養成学校だな…」
「体を動かす試験だったらどれだけ楽なことか…」
マリノちゃんが羨ましそうに言うが、ファトシュレーンも実力主義だけあって筆記と同じくらいの量の実技もあったはずだ。
「………」
そのことを聞いた瞬間、マリノちゃんが急に無口になる。
「そっちのほうはどうなの?」
もはや結果はわかりきっているだろうが、ノエルちゃんが尋ねる。マリノちゃんは僕達に聞こえないようにノエルちゃんにだけ耳打ちをする。それを聞いてノエルちゃんは困った表情を浮かべる。やっぱり予想通りの答えが返ってきたんだな。
「じゃあさ…」
僕はあることを思いつき、口を開く。
「これから図書館に行かない?」
『図書館?』
全員が声を揃えて言う。
「こんな暑い日は冷房の効いている図書館でやったほうがはかどるんじゃないかと思って」
「まぁ、涼しい分自室でやるよりかははかどるか」
「そうだね。それに静かだし」
マリノちゃんはもはや観念したかのように、ノエルちゃんはかなり乗り気で頷いた。
もちろん、他の三人も一緒に学校から街の図書館へと繰り出した。
「うっひゃあ、涼しい〜」
建物の扉を開けて中に入るなり、涼しく心地よい風が吹いてくる。
「わぁ、レアードの図書館って大きくて広いんだねぇ」
まるで子供のように無邪気にはしゃぐリプルちゃん。
「こらこら、本を読んでいる者の邪魔になる。大人しくするのだ」
ギルバートがはしゃぐリプルちゃんを捕まえるために早足で彼女を追いかける。アーミーブーツなんか履いているものだから早足でも結構音が目立っていることに彼は気づいていないんだろうな。
「さてと、じゃあまずは何から片付けようか」
ようやく全員、席に着いたところで僕達は早速勉強を開始する。といっても、好き勝手にやるのではなく基本的にはこのメンバーの中でもっとも上の階級にいる僕とウェスリーが残りの四人の勉強を教えるといういつも通りのスタンスである。
(ノエルちゃんとリプルちゃんは大丈夫そうだから…)
僕は向かいに座っているマリノちゃんに尋ねる。
「わからないところは何でも聞いてね」
「全部わからないんだけど……さ」
語尾は消え入りそうなくらい小さな声だったが、僕は優しく微笑んだ。
「じゃ、もう一度範囲のところを反復してみようか」
僕はまず筆記テストの難関といわれている術式の教科書を開くと、マリノちゃんにわかるようにゆっくりと丁寧に教えていった。
「ここは……で、こういう式が組めるでしょ」
「あ、ほんとだ」
「で、後は連立方程式の要領で解いていけば…」
「できた!」
「そう、それだよ」
マリノちゃんが最も不得意としている術式の問題もだいぶ慣れてきたようだ。この手の問題は普通の学校で教えている数学と同じで、とにかく数をこなすことが大切なのだ。
「そろそろ休憩にしようか。飲み物でも買ってくるよ」
「あ、待って。あたしも行く」
僕達は皆に一言断りを入れてから魔導販売機へと向かった。
飲み物を買い、ロビーのソファに二人並んで座る。
(久しぶりだな、マリノちゃんと二人でいるのも)
「いつぶりかなぁ、マリノちゃんと並んで椅子に座るのは?」
「!?」
「…とか考えてたでしょ?」
「鋭いね…」
「あんたの考えるようなことなんて手に取るようにわかるわよ」
マリノちゃんは呆れまじりに笑うと、紙コップの中身を一口飲んだ。
「でも、たまにはあんたとゆっくりいるのもいいかもね」
「前に二人だけで話したのはパーティを組んだ時だったっけ」
「うん、もう一ヶ月くらいだね」
「その間にまたいろいろあったからなぁ…」
「ほんと。セシルといると退屈しないよ」
「それって褒めてるの?」
「どっちだと思う?」
「う〜ん、じゃあ褒めてる」
「じゃあって何よじゃあって」
「マリノちゃんのことだからどっちの答えを言ってもその逆を言われそうだったから」
「む、よくわかってるじゃん…」
「マリノちゃんの考えていることだって手に取るようにわかるよ」
「むむ…」
「僕もマリノちゃんといると退屈しないよ」
「へ?」
マリノちゃんが文字通り目を点にする。
あれ、今のはちょっと変な道に突っ込んでしまったかな。端から聞けば告白っぽく聞こえなくもないような……。いやいや、マリノちゃんが誰を好きかなんてずっと前から知っているんだ。決してそんなつもりで言ったわけじゃないんだ。
「セーシルったら、今のもしかして告白のつもり〜?」
マリノちゃんがからかうような目で僕を見る。
「べ、別にそんなつもりじゃないよ!ただ、僕は純粋に…」
あぁ、なぜだろう。弁解すればするほど顔のあたりが熱くなってくる。ひょっとして僕は、ずっと気がつかなかったけど…。
「別に、あたしはそれでもいいよ…」
「は?」
今のはどういう意味だろう。
入学してからずっとフレッドさんに憧れていたマリノちゃんが、ずっと好きという感情を持っていたマリノちゃんが僕のことを…?
パチン。
「ハッ!?」
僕は急に夢から覚めたような気分になった。
「い、今の音は…?」
「アハハハ、セシル引っかかったー!」
僕の隣ではマリノちゃんがケタケタと笑い転げている。
「あんたってばほんと単純なんだからさ。ま、おかげで魔法はかけやすかったけど」
やっぱり……。
どうもおかしいと思ったんだ。いくらなんでもありえなさすぎる展開だった。
「大道芸人を目指す身だからね、幻術系魔法くらいばれないように使えなきゃね」
マリノちゃんは笑いながら魔法で指を蛇のように柔らかく曲げて遊んでいる。
「へっへー、本気にしたセシル?」
「………」
あまりの馬鹿馬鹿しさに僕はマリノちゃんに反応する気すら失せていた。
「ありゃま、その顔はずいぶん本気にしてたみたいだね」
「しないほうがおかしい…」
僕はやっとのことでそうつぶやいた。
「アッハッハー。このあたしに告白なんて十年早いわ小僧!なんちゃってー」
マリノちゃんは愉快そうに笑いながら先にロビーから去っていった。
「新手の意地悪だ。耐性つけられるようにしとこう…」
僕は改めてマリノちゃんも目標に向かって順調にレベルアップしていることを知った。