第1話−2〜修行と勉強と、ときどきテスト〜
「ものは相談なんだけどさ、セシル…」
何とか食事を食べ終え、食器の片づけをしながらアキト先輩が言う。
「さっきの対人戦の話、できれば終業式後に俺達とやらないか?」
「終業式後に先輩達と……ですか?」
「さすがにテスト週間中にやるのは問題だからその後でさ。今までの功績ぶりに値するかどうか見てみたくなった」
「……いいですよ。ただ、僕の一存では決められません。少し待ってくれませんか?」
「わかった」
寮長さんは小さく頷き、そのまま食卓を拭くために布巾を持ってテーブルに行ってしまった。
先生達の魔力ですっかり元通りになった学校では、いつもと同じように授業がなされている。
マリノちゃん達のクラスでも、リプルちゃんのクラスでも、ギルバートのクラスでも、そして僕達のクラスでも。
「あぁ、かったりぃ〜」
僕の席の後ろではさっきからウェスリーの『かったりぃ〜』コール。さすがにうっとうしいのでウェスリーの座っている空間にだけ沈黙フィールドを張り、授業を消化した。
ちなみに学校の定期試験を受けない大魔導士クラスはこの期間何をするかというと、賢者資格試験のための問題演習や復習がほとんどであるため、ウェスリーが言うように人によってはかったるさを覚えるかもしれない。それはわからないでもないが、さすがにウェスリーのレベルまで行くともはやうっとうしい以外の何者でもない。
結局、僕の後ろで無視し続けた僕相手にじゃれていたウェスリーは先生に見つかり、あえなくお仕置き魔法を喰らうのだった。
「かったりぃ〜」
お仕置きを喰らったというのにまだ言うかこいつ…。
「わかるよウェスリー。もうかったるいよぉ…」
と、ここにもウェスリー同様かったるいを連呼するうっとうしい人がいた。
「ちょっと、誰がうっとうしい人ですって!」
「貴様しかいないであろう、マリノ?」
ギルバートがビシっと指を差す。
「まぁ、マリノちゃんやウェスリーさんに関わらず鬱になるのはわかるけど…」
「ここまでになるといきすぎとしか言えないよね」
柔らかい物腰で眼鏡のずれを直すノエルちゃん。
「ノエルちゃんはお勉強大丈夫なの?」
自分の書いたノートを熱心に読んでいるノエルちゃんの横でジュースを一生懸命ストローで吸っているリプルちゃんが尋ねる。
「あんまり自信はないかなぁ。でも、あと一週間あるからそれまでにはノートをまとめてばっちりにするつもりだよ」
ノエルちゃんはにっこりと笑って言う。彼女はマリノちゃんと違って根っからの努力家で、苦手分野も先生や上級生の女子、僕に聞いたりしてちゃんと自分で解決をしているひたむきな娘なんだ。それに比べて――
「あによぅ…」
じっとりとした目つきで睨むマリノちゃん。
「そんな鬱な顔している暇があったら少しは昼休みも使って勉強しなよ」
「嫌!昼休みはごはんのためにあるものじゃない!それを勉強に使うなんて死んでもいーやー!」
「そうだそうだー!」
マリノちゃんに同調するウェスリー。
「駄目だこりゃ…」
「何を言っても馬の耳に念仏だな」
「ほんとにもう…」
「ねぇねぇギルちゃん。お馬さんってお経がわかるの?」
「リプル、今のはそういう意味ではなくてだな…」
じっとりとだれるダークサイドとは裏腹にこっちはこっちでいつもの平和な会話を繰り広げている。
こんな個性豊かな人達がいっぱいいるのによくパーティを組めたものだ。
僕はしばしばそう思う。
さて、そんなこんなで期末テストまであと六日。