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第5話−1〜たまにはのんびり猛特訓!?〜

 夏休みに入って最初の週末が訪れた。夏らしく焼きつけるように地面を熱する太陽がギラギラと輝く中、僕は一人寮の自室で勉強をしていた。

 マリノちゃんとリプルちゃんはそれぞれの実家に帰省している。

 終業式の翌日、学校の掲示板に張り出された掲示には、生徒は例年通り故郷に帰省することを許された。あんな大きな事件があったのにそんなことをして大丈夫なのだろうかと生徒達は不安を隠しきれていなかったが、その対応策として夏休みの前半・中盤・後半の三つの期間に生徒を分散させて帰省させるようだった。その最初の期間に帰省するグループが上級魔術士と高等魔術士、そして追い回しの生徒だった。

 マリノちゃんとリプルちゃんは最後までパーティの連携が乱れると渋っていたが、こんな事件が起こっている最中なのだ。帰れるときに帰っておいたほうがいいというグラッツ先生の説得に負け、少し前に帰省した。

 二週間前にヴァイスに会ってから、奴は全然ファトシュレーンを襲撃してこない。今が夏休み期間であることを、外道魔術師達は知っているはずだがどうしてだろう。いや、理由がどうあれ攻めてこないことは幸いだ。上級と高等クラスの生徒がいない中、戦力になるのは僕ら大魔導士クラスとクルツさん達、そして先生達だけになるからな。この間は勝利できたが、次もこのまま押していけるとは限らない。

 そう考えると、僕は今こうやって賢者になるためとはいえ机に向かっていていいのだろうか。

「………」

 僕は問題集を解く手を止め、ペンを置いた。

 やっぱり少しでも実戦訓練はしておいたほうがいいのかもしれない。僕が何かを決めて動き出そうとした時、ちょうど窓に小石がコツンと当たった。窓の外を見ると、同じように外から僕の部屋を見上げているノエルちゃんがいた。彼女に一言断りを入れ、いつものように寮の外に向かう。

「やぁ、休み中の学校に来るなんてどうしたの?」

 ノエルちゃんは自宅から学校に通っているから、夏休み期間中はまったく学校にいないはずだし、来る必要もないはずだが。

「セシル君、どうしているかなと思って…」

 言葉を紡ぐノエルちゃんの目はいろんなところを泳いでいる。

「ずっと賢者試験のための勉強をしていたんだ。だけど、どうも集中できなくて…」

「私もそうなんだ。店番をやっていても何か忘れているような気がして…」

「ノエルちゃんもそんな気持ちになったんだ」

「セシル君も?」

「うん。何か今は勉強をするときじゃないような気がして。だから…」

「私も。これからのことを考えると皆の足を引っ張らないようにと思って…」

 僕達は顔を見合わせると、クスっと笑った。

「ギルバートとウェスリーを呼んでくるよ。四人で特訓をしよう」

「うん」

 ノエルちゃんも安心したように頷いた。



「まったく、こんなくそ熱いのに特訓なんてお前らなんて真面目なんだよ」

 僕と同じく寮の自室にいたウェスリーは簡単に捕まった。

「いいではないか。どうせ夏休みの課題など最終日にやれば済むことだ」

 そう言って大声で笑っているギルバートは街の武器屋にいた。どうやらギルバートのために一丁だけ店長が銃を仕入れてきたみたいでご機嫌だった。

「ごめんなさい、ウェスリーさん。お忙しいのに勝手なことを頼んでしまって…」

「い、いや。ノエルさんが謝ることないよ。俺も暇してたし…」

 ウェスリーは早口でノエルちゃんに言い訳をする。

「それに、気持ちはわからなくはない」

「ウェスリー…」

 いつもこうだった。なんだかんだ文句を言いながらもウェスリーは必ず来てくれるのだ。

 闘技場についた僕達は二人一組に分かれ、まずはそれぞれの長所を活かした戦術の見直しを計った。

「しかし、そうやって考えてみるとセシルはどっちなのであろうな」

 模擬戦闘を行いながらギルバートがぼんやりとつぶやいた。しかし、銃の狙い目だけはぼんやりしておらず、確実に僕の足や武器を狙っていた。

「勉強の成果もあって魔法も数を覚えているし、威力も相当だ。しかしその一方で戦闘になればどちらかといえば我輩やフレッドと共に前衛に出ていることが多い」

「後衛はノエルちゃんやリプルちゃんがいるからね。マリノちゃんの補助に回ることも多いかな」

「こんなことを聞いたことがある。力量が上がってくれば経験から自ずと前後衛の区別はなくなってくるが、それまではある程度系統(タイプ)は固定しといたほうがいいのだ、と」

「確かにな。どちらにも対応できるというのは便利だけど、中途半端になりすぎて帰って戦闘では役に立てないことが多い。だからタイプは固定したほうがいいとは言うな。でも、セシルは問題ないんじゃねぇの?今までの戦闘もほとんど前衛でこなしているし」

 近くでノエルちゃんと特訓をしていたウェスリーが首を挟んできた。

「そうだね。私はまだまだ至らない部分が多いけどセシル君が前でカバーしてくれるから」

 言いながらノエルちゃんは箒を空にかざして火球(ファイアーボール)を打ち出した。

 確かに今までの僕はどちらかといえば主に前衛の戦闘スタイルを取ってきた。魔法は基本的に広範囲に広げて敵を一網打尽にしたり足止めしたりするために使う程度だ。

それ以外では基本的に戦闘の授業で磨き上げられた剣を使っている。

「………」



「隙あり、セシル!!」


「え、うわぁ!?」

 ギルバートの銃弾がぼんやり考え込んでいた僕の左腕に当たった。

「セシル君、大丈夫!?」

 ノエルちゃんがウェスリーとの特訓を中断し、僕のところに慌てて駆けつけてくれた。

「ノエル、ちゃんと練習弾を使っているから心配ない。ただ、軽く痺れる程度だ」

 ギルバートが僕の左腕には何の別状もないことを告げる。ノエルちゃんはホッとした表情になり、一応ということで回復魔法をかけてくれた。

「先ほどからずっと動きが鈍かった。戦場では間違いなくかっこうのターゲットになるぞ」

 ギルバートが僕と視線を合わせるようにしゃがんで言った。

「先ほど我輩が言ったことを考えていたのか?」

「え?まぁ、ちょっと……ね」

「はぁぁ。お前ってほんとに真面目な奴だなぁ」

 ウェスリーが大袈裟にため息をつく。

「だって、今までそんなこと気にしたことなかったものだから、そうやって考えてみると僕はどっちなんだろうって……」

 僕は痛みのなくなった左腕を軽く動かしてからノエルちゃんに礼を告げた。

「敵の正体も見えかけてきて、いよいよ本番というときに前衛か後衛かで僕が中途半端な位置にいたら皆に迷惑をかけてしまうことになる」

「そんなこと……」

 ないよ、とノエルちゃんは言いかけてやめた。彼女は優しいから本当は言おうとしたのだろうな。


「だったら試してみたらいいんじゃないか?」


 闘技場の出入り口から聞こえた声に僕ら四人は顔を上げた。

「アキトさん」

 闘技場の出入り口にはアキトさんと、ラウナちゃん、他の二人は名前は知らないけど確か生徒会の人達だ。

「高等魔術士の生徒は帰省中じゃなかったのか?」

 ウェスリーの言葉にアキトさんは首を横に振った。

「こんな時に生徒会がいなくて誰がこの学校を動かすんだ?」

「私達は自分達の意思でここに残りました。もやもやしたままで故郷(くに)へ帰れません」

「しかし、ここへ来たのは…?」

「俺らも君達と同じだったんだよ」

 ボサボサにはねまくった赤髪の男性が言った。

「敵の強さは聞いているわ。生徒会長がアキト君に毎日回復魔法をかけなければならないくらいの高い魔力と魔法を持っているって」

「だから、こうして俺達も自分達の力量を見直すためにこうしてきたんだ。そしたらお前らがいた」

 赤髪の男性が面白くなさそうに言った。

「お前らの話はいろいろ聞いているぜ。俺達生徒会の面子を丸つぶしにしてくれたパーティだ」

「丸つぶしだなんて…。だいたい、こんな時に面子もくそもないでしょう?」

「いいや、大アリだ!」

 赤髪の男性の声がヒートアップして大きくなった。

「お前達この学校の生徒の治安は俺達生徒会が守ると決まっているんだ。それが、事件が起こってからは全階級で戦闘の授業が強化され、俺達生徒会の出る幕がなくなってきている。これはいかなることか!」

『………』

「今までこの学校で行ってきた戦闘訓練というのは全て賢者になるためだけの、いわばステータスのためだけの授業と言ってよかったのに、それが今は学校を守るためになっているではないか!」

「いや、事態が事態なんだからそれでいいだろうよ」

 ウェスリーの言葉に赤髪の男性は「否!」と強く否定する。

 なんだかここまでくるとただ単に僕達に対する八つ当たりじゃないような気がする。ついでにいうとこの人、ぶっちゃけた話を出しすぎだよ。確かに戦闘の授業はそういう風に取られがちだけど、騎士団の魔術師部隊に入るのを夢見て真面目にやっている人もいるんだからそれは聞き捨てならない。魔術士に戦闘訓練がいらないなんてことはないんだ。

 僕がそのことを赤髪の男性にそのことを言うと、彼は少し言葉に詰まってしまった。

「つまりだれだ、結局のとこアンタは面子や階級ってものに縛られすぎなんだよ。生徒会は正義のヒーロー的な部分はあるかもしれないけど、正義のヒーローじゃないんだよ」

「なんと!いつも面倒くさがりのウェスリーが真面目なことを…!?」

「時と場合によるっての。このムサイの説得するにはそれが一番でしょーよ?」

「む、ムサイだとぉ…!?」

「ウェ、ウェスリーさん、言いすぎですよ!」

 状況が悪化したのを察したのかノエルちゃんがウェスリーに注意をする。

「もう我慢ならん。お前達の今までの手柄が本当のものだったのかどうか我が生徒会メンバーが試してやる!!皆、いいな!」

「は、はい!」

「まったくもう…」

 ラウナちゃんは少々面食らったように、もう一人の金髪の女性は仕方なさそうにその綺麗にウェーブした髪を触った。

「アキトさん、これは止めたほうが……」

「いいんじゃないか?ウェスリーはうまく俺達に戦闘させやすい空間を作ってくれたよ。そのほうが全力でやれていい」

「はぁ…」

「セシル、さっき僕が言ったこと忘れるなよ。君がどっちにふさわしいか、自分自身で決めるんだ」

「はい!」

 僕はアキトさんにしっかり頷いた。


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