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第4話−2〜真夏の空に数字がびっしり〜

 レアードの昼下がり、僕達は二週間ぶりに揃って街の繁華街にやってきた。外観も中身もしっかり修復された街は以前と同じ活気に溢れつつあった。ただ、変わってきていたのが――

「僕達もはや普通の生徒じゃなくなったよね?」

「言うなよ。自分でも気がついたらここに来ることに抵抗がなくなっているんだ」

「ア……ハハ」

 ウェスリーはため息をつき、ノエルちゃんは苦笑する。僕達のいる場所は武器防具屋だった。

「最近は下のほうのクラスでも戦闘訓練の時の武器自由化が認められてきているんでしょ?だから余計にここを頼りにしてくる人が多いのよ」

 と、武器屋の女将さんが話す。

「まぁ、今までレアードの武器屋なんてのは冒険者達ばかりだったから収入源としてはちょうどいいけどな」

 武器屋の親父さんが豪快に笑いながら話す。

「しかし、所詮は素人だ。金をかけていい武器を買えば強くなれると思っている奴らも少なくない。これは冒険者にもたまにいるけどな」

「そうだねぇ、武器の攻撃力や防具の防御力なんてものは自分の実力が伴わないと装備していても無意味に近いからね」

「例えば鎧を装備したことのない魔術師が鎧を装備するとか?」

「極端すぎる例だがそういうことだな」

 マリノちゃんのほんとに極端な例に肩をすくめながら武器屋の親父さんは頷く。

「店主よ、ここには銃は置いてないのか?」

 店に入ってからずっと黙って店内を歩いていたギルバートが不機嫌そうに聞く。

「お前さん銃使いか?だったら、悪いがここに銃は置いてないんだ。以前は置いていたんだが、あまりにも買う客が少なくてな。弓矢ならあるぜ?」

 武器屋の親父さんは店の棚に飾るように置かれている弓矢を指した。

「これではせっかく金が溜まっても我輩だけ武器を新調できないではないか…」

 がっくりと首を垂れるギルバート。

 う〜ん、どうにかしてやりたいけどこればかりは店の都合だものな。僕達は結局ギルバートを気遣い誰も武器と新調しなかった。

「皆、我輩に気を使う必要などなかったのだぞ?」

「ううん、いいんですよ」

 ギルバートの横を歩くノエルちゃんが優しく微笑む。

「店主さんもギルバートさんの落ち込みように銃の再入荷を考えてくれていたようだし。その時にまた行きましょう」

「……皆、すまぬ」

「もういいって。それより次はどこへ行くんだセシル?」

「そうだね、次は――」

 どこに行こうか?そう言いかけた僕を遮るように中央通りのほうから歓声が聞こえた。

「何だろう?」

「行ってみようよ」

 リプルちゃんの言葉に全員が頷き、中央通りへの声のするほうへと行ってみることにした。



たくさんの店が並ぶ中央通りの広場はいつもは子供達や買い物客で賑わっていているが、今日はそんな広場のある一点に観客と、その注目が集まっていた。

「あれ?」

「あそこにいるのは…」

 僕達は人混みの隙間から背伸びをして注目の的になっているものを見る。

「クルツさんとメリッサさんだ」

 そうか、二人が大道芸を始めたからこんなに人だかりができているんだな。終業式が終わった時間を狙っていたためかファトシュレーンの制服を着た人達も目立つ。

「う〜ん、見えないよぉ!」

 やはり背の高さの関係上、背伸びをしてもまったく前が見えないリプルちゃんが僕達の足元で唸っている。そして、今回もそんなリプルちゃんを優しく肩車するギルバート。

本当にこの二人って面白いペアだよな。

「おい、セシル…」

 大道芸にずっと夢中になっていた僕はウェスリーに背中を突かれ、後ろを振り返る。

「何?」

 僕の問いに対してウェスリーは人差し指で小さく、クルツさん達とは違う方向を指した。

あれ?あそこで立っている女性はもしかして……。

「カエラさん?」

 僕の声にノエルちゃんも大道芸を見るのをやめて僕のほうを振り向いた。そして、ウェスリーにしてもらったようにクルツさん達の舞台から少し離れたところを指差した。

そこにはクルツさん達の舞台を利用して、お菓子を販売するノエルちゃんのお母さん、カエラさんの姿があった。

「うぅ、恥ずかしいなぁ…」

 ノエルちゃんは顔を真っ赤にしてつぶやいていた。


大道芸が終わり、人だかりがすっかり途絶えると、僕達はクルツさん達のところへ挨拶に行った。

「よぅ、やっぱり見に来てくれてたか」

 クルツさんは嬉しそうに笑う。

「相変わらずの人だかりでしたね」

「まぁな。この辺じゃあまり大道芸なんてやる奴なんていないからな」

「レアードの人達の気持ちを少しでも和らげてあげようと思って」

「そうですね。活気は戻ってきても、やっぱりまだ敵に関する不安が消えきってはいないんです」

「ファトシュレーンの先生達ですら、恐怖したっていうくらいなんだから余程なんだろうな」

「ええ…」

「皆、その話はまたいずれするとして――」

 張り詰めた空気を一掃するようにメリッサさんが僕達を見てにっこりと微笑む。

「今日は終業式だったそうね。皆、成績はどんな感じだったのかしら?」

 メリッサさんの一言の後、暗黙の了解で皆が通知表を開かされたのは言うまでもない。

「俺が言うのもなんだが、飛び級連中は問題なしだな。マリノは実戦意外がもうちょいってところか?」

「うぅ…」

「でも、決して悪くないわ。グラッツ先生やセリカ先生から貴方達が中心になって戦っていることが多いと聞いていたから、その分成績が下がっているのではないかと少し心配していたのよ」


 ギク。


 あぁ、痛いなぁ。平均が九点をきったのは…。今まできったことなかっただけに少し今の一言は痛いかも。

「どうしたの、セシル君?」

 リプルちゃんが心配そうに顔を覗き込んできたので、僕は慌てて「なんでもないよ」と少し早口で言った。

「さて、だいぶ路銀も稼げてきたことだし飯でも食いにいくか」

 クルツさんは投げられたおひねりをにんまりと笑いながら袋にしまいこんでいる。彼らとバージェの森で再会してから一週間ほどしか経っていないのに、もう旅に困らないほどのお金が溜まっているなんて。正直少しうらやましかった。

 一学期が終わった。

 とんでもない事件が起きて、とんでもない敵が現れた。

 これから夏休みに入るけど、どうなるんだろう。今の僕達には先生達の判断を固唾を呑んで見守るしかできなさそうだ。


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