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第1話−1〜修行と勉強と、ときどきテスト〜

大変長らくお待たせいたしました。ファトシュレーンシリーズの第3弾、今ここに開幕です。作者が就職活動なため第3弾の執筆が大幅に遅れてしまい申し訳ありませんでした。これからも以前までのペースとまではいきませんが何とか更新していくのでよろしくお願いします。

 いつも通り天気のよい朝。

 今日も暑い一日が始まりそうだ。

 さぁ、今日も勉強頑張るぞ!


「おはよーっす…」


 洗面所で一人気合を入れている僕のところに、だらしないジャージ姿でまだ半ば夢の中をさまよっていそうな顔をした級友のウェスリーがやってきた。

「あのねぇ、ウェスリー。せっかく人が気合を入れているところにそんな格好で入ってこないでほしいんだけど?」

「朝っぱらからそんなテンション高くしてられるかっての。だいたい、俺達大魔導士はもう学校の定期試験は関係ねぇのに、何で学校に行かなきゃいけないんだよ」

「今まで何回もやってきたことに今更文句言うのはどうかと思うけどね」

「こればかりは何度文句を言っても言い足りねぇよ」

「とにかく顔でも洗って目を覚ましなよ」

 僕はかけてあったタオルをウェスリーに投げるが、まだ頭のエンジンが回転していない彼はそれを顔面に受けてしまう。そして、こともあろうか視界が暗くなったことでその場で倒れこんで寝てしまったではないか。

「もう勝手にしなよ…」

 呆れた口調でそう言い、僕は洗面所を後にした。

 食堂に行くと、既に寮長のアキト先輩がおばちゃん達と一緒に食事の準備をしていた。

「おはようございます」

「あらセシルちゃん、おはよ」

「おはよう、セシル」

 キッチンの向こうからアキト先輩と食堂のおばちゃん達の声がする。

「セシル、皆の分の食器をカウンターに並べてくれ」

 珍しくアキト先輩が厨房に立っている。そういえば以前、料理が趣味だと言っていたっけ。

「アキト先輩、今日の朝食は何ですか?」

 カウンターの外側から問いかける。

「今日はサンウオの塩焼きと味噌汁、あとは漬物とご飯だな」

「ずいぶん変わったメニューが多いですね」

「ラウナに教わったんだよ。東の大陸ではパンの代わりに白米を主食にしているらしいんだ」

「へぇ〜」

 ラウナちゃんはアキト先輩と同じく、生徒会役員の一人で剣道や茶道といった東の大陸の文化に詳しい女の子だ。何度か一緒に戦ったこともあるけどとても強かった。少し前からノエルちゃんの実家が営んでいる銘菓店でアルバイトをしている。街が壊されたときは彼女と一緒に中央通りでクッキーを配っていることもあった。

「ほい、一丁上がり」

 アキト先輩は焼きあがった魚が入ったフライパンを持ち上げ、カウンターに並べられた皿に手際よく焼き魚を置いていく。

「はいはーい、皆さんご飯だよぉ!」

 食堂のおばちゃんが寮全体に聞こえるような大声で叫ぶ。

 一日の食事はおばちゃんのこの声から始まる。これを機に、ここ男子寮に入っている全ての教師、生徒が食堂に集まってくるのだ。

 一番にやってきたのは僕の仲間(パーティ)の一人であるギルバートだ。彼はもともと戦士養成所という規則に厳しいところにいたためか、時間規則はきっちりと守る。

「おはよ、ギルバート」

「うむ、よい朝であるな」

 ギルバートは僕の挨拶にそう返すと、静かに食卓についた。その後も次々と寮内の男子達が眠そうに、気持ちよさそうに降りてきて食卓についていく。

 僕とアキト先輩は全員が来たのを確認してから、最後に食卓につく。最初は特に会話もなかったが、ふとアキト先輩が話を切り出してきた。

「テスト勉強のほうはどうなんだ?」

「え?いや、その……僕は」

 口ごもる僕の表情の奥を察したのかアキト先輩は乾いた笑みをこぼした。

「そう言えばセシルはもう大魔導士だったんだよな。学校での定期試験はもうないんだったよな」

「………」

「気にするなよ。別に今更お前に劣等感なんか抱かないから」

 アキト先輩はおかしそうに笑う。

「あっという間に抜かれてしまったな。生徒会に入ってからは特にあっという間だったよ」

 アキト先輩は懐かしそうに話す。

 そう、僕がファトシュレーンに入学した頃のアキト先輩は十四歳ながら、既に上級魔術士の一級だった。

「確か、僕が入学した年の最後に生徒会に任命されたんですよね」

「その頃は確か、俺が高等魔術士の七級でお前が初級魔術士の三級だったね」

「よく覚えてますね」

「忘れるものか。俺にとって君は良き飛び級仲間であり、ライバルでもあったんだから」

 そうだった。生徒会からお声がかかる前まではアキト先輩も僕と同じで、飛び級の常連としてファトシュレーンでは有名だったんだ。

「生徒会に入ってからはマジで今までの生活バランスが崩れて、元に戻るようになっていた頃にはすっかり同じ階級にいたんだものな」

「生徒会がなかったら、僕はアキト先輩にはかなわなかったですよ」

「そうかもな。だけど、俺は生徒会に入ることが嫌だったわけじゃないんだぜ?前の生徒会長から生徒会への勧誘を受けた時ほど、自分を誇りに思えた時はなかった。すごく嬉しかったよ。自分がこの学校の治安に携われるんだって浮かれていた」

「先輩らしいですね」

「だから、その代償として勉強の時間が失われても悔いはなかったよ。何度か降級した時は悔しかったけど」

 アキト先輩は本当に懐かしそうに語る。

「そういえばセシル、特訓のほうはどうなんだ?お前のことだから勉強はたっぷりやっているんだろう?後は……」

「魔法力の問題ですね。自分では以前より力はついてきていると思うんですけど、こればっかりは実際に道具か何かで計ってみないと安心できませんね」

「別に道具で計る必要はないじゃないか。同じような実力者と模擬試合をしてみればよくわかるぞ」

「ドクターエックスの魔物達……ですか?」

「いや、対人同士での戦いかな。相手と同じ条件下で戦えば、自分の戦い方を再確認できるし、弱点も補強できる」

「考えたことなかったです…」

「そうだろうなぁ。そんなこと考えていたらドクターにたちまちお仕置きされるよ。『わしの研究に協力してくれるんじゃなかったのか!?打ち切りじゃ!』とか言ってさ」

「確かに…」

 ドクターエックスは意外と子供っぽいところがあって、すぐにすねてしまうこともあるんだ。

 僕達は怒っているドクターの姿を想像して思わず笑ってしまう。

「セシルちゃん、アキトちゃん!いつまで食べてるの!片付かないから早く食べてちょうだい!」

 おばちゃんの声にハッと辺りを見回してみれば、僕達以外の皆はすっかりご飯を食べ終えて食堂を後にしている。

 僕達は喋るのをやめ、無言でご飯とおかずを口の中に押し込んだ。



「ものは相談なんだけどさ、セシル…」


 何とか食事を食べ終え、食器の片づけをしながらアキト先輩が言う。

「さっきの対人戦の話、できれば終業式後に俺達とやらないか?」

「終業式後に先輩達と……ですか?」

「さすがにテスト週間中にやるのは問題だからその後で。今までの功績ぶりに値するかどうか見てみたい」

「……いいですよ。ただ、僕の一存では決められません。少し待ってくれませんか?」

「わかった」

 アキト先輩は小さく頷き、そのまま食卓を拭くために布巾を持ってテーブルに行ってしまった。


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