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カロン・ファンタジア 『オフ』ライン――鎌倉住みの裁縫士――  作者: 穂積潜
第Ⅰ部 第四章 邪竜プドロティス編
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第80話 最終確認

 俺たちが腰かけたのは、身体に吸い付く肌色の椅子だった。いや、椅子と言うのはあまりにも生物的で感触が生々しい。というか生きている。


 床から伸びだ触手が俺たちの身体に絡みつき、船体と身体を固定する。


「うわっ、なんかキモい」

「何とも言えないひと肌の温かさですね……」

「えぐいねー」

 女子陣からはおおむね不評だ。


「胎内にいるってこんな感じかもなあ」

 石上が絡みついた触手を撫でながら言った。


「バイオ科学を応用した技術のようですね」


「へ、へえ……」

 礫ちゃんが同意を求めるようにこちらを見てくるが、一応、理系の俺でも、こんな超文明に対する知識はない。仕方なく曖昧に笑って誤魔化した。


 前方の操縦席には、カニスとマオが並んで腰かけている。


「システムーオールグリーン、ですー」

 カニスが諸々の計器をいじり、そう報告する。


「了解にゃ。ゼルトナー号。リフトオフ! にゃ!」

 マオの掛け声と共に景色が一瞬で移り変わる。


 予想していたような重力の負荷はなく、気が付いた時にはゼルトナー号はあっという間に上空にいた。


 同時に四方の内癖が透明になり、まさに宙に浮いているような気分になる。下半身がひゅんっとした。高所恐怖症なら卒倒ものだろう。


「討伐に行く前に、奥多摩ダム周辺の自衛隊の戦力を確認したいんだけど、可能ですか? もっとも、発見される可能性があるなら、無理にとは言わないんですが」

 礫ちゃんの話を信用していない訳じゃないし、彼女に証拠として出してもらった鴨居さんとの会話記録も聞かせてもらった。それでも、ラスボスクラスのモンスターをMPKでぶつける以上、本当にそれに対応する戦力があるのかぐらいはこの目で確認しておきたい。


 もし万が一戦力が揃っていなければ、本当の『MPK』になってしまう上、ロックさんたちを救うための時間を稼ぐという目的も達せられず、作戦の根幹が崩れる。


「余裕にゃ。じゃ、早速出発するにゃ!」

 景色が線のように流れる。


 俺の動体視力では追えないような速さで、ゼルトナー号は移動しているらしい。


 時間にすれば十分ほどだろうか。


 風景を楽しむ余裕も、世間話をする時間もなく、俺がただ脳内で何度も作戦を復唱している間に、ゼルトナー号は奥多摩ダム上空へと飛んだ。


「で、戦力って具体的に何を確認するにゃ? 人数かにゃ? 武装かにゃ? あんな原始レベルの銃火器の類なら、パルスで一瞬で無効化できるにゃ」


「いや、自衛隊は敵じゃないから。とりあえず、現場の様子を見たいから拡大して貰えます?」


「にゃー」

 透けてると思っていた床面は、どうやらディスプレイだったらしく、そこに一瞬で画像が映し出される。


 ダム周辺には、臨時に設営されたらしい野営のテントがいくつも並べられ、多数の人間が哨戒の任務についていた。すでにカロン・ファンタジアの格好になっているため、制服などは着ていないが、おそらく自衛隊関係者だろう。もしそうでなくても、金で雇われた冒険者には違いないはずだ。


「『リベリュルの鎧』に、『ディスゲネスの剣』、間違いなくラストダンジョンに臨めるレベルの装備ですね」

 ダム周辺を、隊列を組んで歩く兵士の装いを見て、由比が呟く。


「他の人たちも全員、ほぼ最強装備だよ。あれなんか確か、ゲーム時代でも数人しかもってない廃装備だし」

 七里が呻くような声を上げた。


「本当にかなりの戦力が集まっているみたいだな」

 石上は重々しい口調でそう感想を述べる。


「にゃにゃにゃ。前見た時よりも全然数が増えてるにゃ! あれ全部が、神話クラスの英雄にゃ?」


「わふうー。おそらくー、そうでしょうー。私たちごときではー。すごすぎて装備すらお目にかかったことないレベルですからー。どれだけ強いかすらー、判断できませんねー」


「人間恐ろしすぎにゃ。こんな創世クラスの化け物がごろごろいるなんて、神話の安売りにゃ。信じられないにゃ」

 マオとカニスが口々にそう語り合い、居並ぶ人間たちに身体を震わせる。

 皆の言う通り、本当に奥多摩湖周辺には、プドロティスに対応できるだけの戦力が集められているらしい。


 これで俺は、本当に作戦の実行を回避する全ての言い訳を失った。


 もう戻れない。


 すっきりしたような、それでいて恐ろしいような。


 そう。ちょうど、冬の寒空にも似た、一抹の寂寥感を孕んだ晴れやかさ。


 この気持ちを、人は『覚悟』と呼ぶのだろうか。


「鶴岡さん。これで……納得して頂けましたでしょうか」

 礫ちゃんが、その静かな闘志の宿る漆黒の瞳でこちらを見つめてくる。


「うん。じゃあ、行こうか。――最後の冒険に」

 俺は微笑を浮かべ、皆に呼びかけた。


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