表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カロン・ファンタジア 『オフ』ライン――鎌倉住みの裁縫士――  作者: 穂積潜
第Ⅰ部 第四章 邪竜プドロティス編
79/162

第78話 邂逅

 告白のことは省き、瀬成の不参加の可能性をメンバーに伝えたから、俺はすぐに床に入った。四時間程の仮眠を取った俺たちは、目覚めると同時にそそくさと準備を整え、丑三つ時に家を出た。


 寒風が頬を刺す。


「寒いね」

 七里が時折爪先立ちになり、身体を小刻みに上下させながら、ぽつりとこぼした。


「奥多摩はもっと冷えるかと思います。山が冠雪しているかもしれません」

 礫ちゃんが白い息を吐きながら答える。礫ちゃんに与えた七里のお下がりの防寒着は、さすがにちょっと丈が余っていた。それでも、中二の服が小学生にも普通に着られてしまうのは、やっぱり七里が小柄だからだ。


「でも、私は温かいですから大丈夫です。だって、兄さんから貰った手袋がありますから」

 由比はそう言って、手袋をつけた手で、握ったり開いたりを繰り返した。


「有効活用して貰えて嬉しいよ。それじゃあ、行こうか」

 そうして、俺たちは出発した。


 道中は無言。


 余裕を持って出たおかげで、集合時刻の十五分前には目的地の公園につくことができた。


 広場にて残りのメンバーを待つ。


 LEDライトが、俺たちの影を長くする。


「よお。さすがに早いな」

 五分後に石上がやってきた。この寒空の下、着衣は紺色の僧服一枚のみなのにも関わらず、全く寒がる様子もない。むしろ、見ているこっちが冷えてきそうな装いだ。


「……後は、腰越さんだけですか」

 礫ちゃんが現状を確認するように呟いた。


「そうだね」

 俺たちは、言葉少なに瀬成を待つ。


 俺はデバイスを開いて、止まらずに時を刻み続けるデジタルの時刻表示とにらみ合った。


 二分、五分、七分、九分。


 もうだめかもしれない。


 カッ、カッ、カッ。


 俺が諦めかけたその時、鋭い靴音が耳朶に響いた。


 俺の心臓が早鐘のように脈打つ。


「来ましたか」

 由比がどこか嬉しそうに口元を歪め、音の方を見る。


「さすがに速いな」

 石上が感心したように言った。


「はあ、はあ、はあ。間に合った? ぎりぎりセーフ?」

 全速力で俺たちの下に駆け寄ってきた瀬成が、肩で息をする。


 よっぽど余裕がなかったのか、上着などは羽織っておらず、石上ほどではないが寒そうだ。


「うん。セーフだよ! これで全員揃ったね」

 七里が俺たち全員を見渡して頷く。


「親御さんの方は納得されたんですか?」

 礫ちゃんが瀬成に心配そうな視線を遣る。


「ううん。多分、今頃むっちゃぶちきれてる。結局、説得しきれなかったんだけど、じいちゃんがウチを逃がしてくれたから。『男にも女にも、一生に一度は命をかけて勝負しなきゃいけない時がある』って」

 瀬成は、礫ちゃんの質問に首を振ってから、俺の方に意味ありげな視線を送ってきた。


 確か、瀬成が鍛冶屋を目指したのも祖父がきっかけだったはずだ。どうやら瀬成は、両親以上に、祖父との結びつきが強いらしい。


「瀬成。とにかく、間に合って良かったよ」


「う、うん」

 そう俺が声をかけると、瀬成はぎこちなく頷いた。


「え、っと。寒いだろ。とりあえず、これ上着。俺、厚めに着てきたから」


「……ありがと」

 俺が脱いだコートを、瀬成が袖を端を掴んで受け取った。


 それきり、俺たちの間に微妙な空気が流れる。


 さすがに今、ここで告白の返事をする訳にはいかない。と、いうより、今はこれから実行する作戦のことで頭が一杯でそんな余裕はない。


「な、なんなんですか。このラブコメ的な雰囲気は。あなた! 兄さんとの間に何かあったんですか! 答えなさい!」

 目ざとくその雰囲気を察した由比が、すっと俺の腕を取り、瀬成を詰問する。


「ひ、秘密」

 瀬成が顔を背ける。


「そんなの認めません! 最終決戦を前にメンバー同士で隠し事なんか許されると思ってるんですか?」

 由比が瀬成に詰め寄る。


「今回の作戦とはなんも関係ないことだから。大丈夫だし」


「ふざけないでください。なお悪いです!」

 由比はそう叫びながら、瀬成の肩を揺さぶった。


「や、やめろし!」



「こんな時に痴話喧嘩にゃんて、さっすが勇者様たちご一行は違うにゃ。大物にゃね、カニス?」


「わふー、仕方ないのですよー、マオ。人間さんたちはー、私たちと違ってー、年中発情期なのですからー」

 突如割り込んで来た二つの声。


「だ、誰!?」

「な、なんなんですか!」

 由比と瀬成は諍いを止め、俺たちは一斉に飛び退く。


 その二人は闇に紛れ、音もなくいつの間にか俺たちの近くに立っていた。


「異世界……人」

 七里が神妙な声で呟き、俺の背中に隠れた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ