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第64話 大物狙い

「なるほど。理屈はわかった。お前は大仏を海に沈めたい。で、大仏を頭の上まで海水に浸けることができりゃあ、額の穴から水が流れ込むと思ってる。だから、そのために、大仏の首に糸を巻きつけ、反対の端に巨大な海のモンスターを引っかけて、深海まで潜らせたい。それであいつの浮力を相殺するつもりだ。でかいモンスターを見つけるのは、俺のソナー。つまりはそういうことか?」

 漁師の人はおもしろい冗談でも聞いたかような薄ら笑いを浮かべて、俺のした説明を繰り返した。


「その通りです」

 俺は頷く。


「じゃあ聞こう。モンスターの膂力(りょりょく)に耐えられるだけの糸はどこにある?」


「ここにあります。俺は裁縫士ですから」

 俺はスキルの『縫い止め』用に使うアダマンタイト製のロープを漁師の人に見せた。


 『拡大』のスキルの補正は絶大だ。複雑な網状にせずに、一本の縄を射出するだけなら、相当な飛距離と効果時間の持続が期待できる。


「じゃあ、針は? 縫い針でも曲げて作るか? チ○コ程度の長さの針でよう」

「そうです。曲げて作りますよ。ただし、巨人並のアレですがね」

 俺は手にした『豪突』を一振りする。


 一から巨大な針を作るのは難しいが、今ある物を曲げるくらいならできるだろう。


 俺が本気だと悟ったのか、漁師の人の目がすっと細まった。


「……それで? 餌はどうする。モンスターが食いつくのは冒険者だ。まさか、お前が人身御供になるってか?」


「さすがにそこまで悟れてはいませんよ、俺は。使うのは、人形です。重りは……バラスト用の砂袋を一つ貸して頂けますか?」

 俺はアイテム欄から『身代わり人形』を取り出して、次いで無造作に詰まれた砂袋を一瞥する。


「なるほど。確かに必要なものは最低限そろってらあな。だが、裁縫のあんちゃんよお。おめえ、もっとも大事なことを忘れちまってるんじゃねえか?」


「なんでしょう? 不備があるなら教えてください」

 俺は首を傾げた。


「とぼけんじゃねえよ。この俺がそんなアホみたいな博打に協力したくなるような『理由』だよ。わかってんだろ?」

 漁師の人はにやりと笑う。


 この人が何を要求してるかはもちろんわかる。約束した以上の仕事をお願いしているのだが当然と言えば当然だ。


「……もちろん、追加の報酬をお支払いします」


「ほう? いくらだ」

「何でもお金で解決するというのも無粋でしょう。俺はあなたの漁師としての技術を借ります。だから、俺も技術で返すというのはどうでしょう」


 俺はそう提案した。


 金を支払うのはやぶさかではないのだが、正直、こういう場合の相場はよくわからないから困る。ふっかけられたら落としどころがわからない。


「スキルってことは『裁縫』か。だがな、見ての通り、漁師にはごてごてした服は必要ない。あんちゃんに活躍する余地はねえよ」


「何も俺が縫えるのは、服ばかりじゃありませんよ。そうですね……例えば、大漁旗とかはいかがですか? もちろん、ただの大漁旗ではなく、『アイテム』としての効果があるやつです。多分、これを持っている漁師さんはそう多くないですよ」

「『大漁旗』か――」

 漁師の人は腕組みして考え込む。


 『大漁旗』は大抵個々の船の名前が入った固定アイテムのため、市場に出回るタイプじゃないから貴重だし、向こうとしても相場がわからずふっかけにくいはずだ。逆に俺としては、加工賃はただなので、材料費だけを考えればよく、コストの試算がしやすい。


「わかった。あんちゃんの粋な提案に免じてそれで手を打とう。しらすも獲り飽きたし、たまにはでかい獲物を狙うのも悪くない」

 そう言って漁師の人ははちまきを締め直す。


「ありがとうございます!」

 俺は深く頭を下げた。



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