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第4話 新たなる日常

 一ヶ月はあっという間だった。

 初夏は盛夏に代わり、日々熱量を増す陽光がアスファルトを焼き尽くす季節が訪れる。


「やだあああああああ。いやあああああああ」

 俺は七里の脚を両脇に挟み込み、家のフローリングを引きずっていた。

 反重力でもない彼女の制服のスカートは捲れ、パンツが丸出しになっているが、俺は全く気にしない。


「お兄さん。バス来ちゃいました! 早く乗らないと!」

 先に玄関先に出て道路を確認していた由比ちゃんが、急いた声で言う。


「ほら、由比ちゃんもこう言ってるだろ! さっさと学校に行くぞ」


「いやああああああ、そこに冒険が広がってるのにいいいいい。なんで学校なんかいくのおおお。モンスター狩れば一攫千金なのにいいいいい」


「危ないからだよ。さっさと行くぞ」


「ああ、らめええええええええ。そこはアウツ。兄妹でもアウツなライン! わかったわかったから放して!」

 俺の下半身への飽和攻撃に、七里は遂にギブアップした。俺が解放してやると、気だるそうに起き上がり、玄関へと向かう。


「やっと諦めたか。せめて今日一日は、冒険したいとか言い出すなよ」


「ちえっ、糞つまらん。カロン・ファンタジアが現実になっても、現実の方が現実とか、この世界ブラックすぎ」

 七里が言葉遊びじみた不満を漏らす。

 そう。世界はガキの俺らが考えるよりずっと頑丈で、そして柔軟だった。


「そう? 私はちょっと、安心したな。こうして、みんなで学校に通える『普通』ってやっぱり大切だよ」

 由比ちゃんが七里の手を引いて、バスへと導く。


「ああ。俺も由比ちゃんに同意」

 俺のその後に続いて乗り込む。

 一番後ろのシートが空いていたのをいいことに、三人並んで腰かけた。


 あらゆる国の諜報機関が、やっきになってカロン・ファンタジアの運営者を探したが、犯人は見つかることすらなく、徒労の末に得たものはクレジットされていた開発者が地球上に存在しないという事実だけだった。


 だけど、悪いニュースばかりじゃない。確かに俺らはカロン・ファンタジアから締め出された。だけど、それはゲーム内に入れないというだけで、なぜか公式ホームページで新規登録だけは受け付けていたらしい。


 わけがわからない。しかし、そうしている間にもモンスターは出現し続け、苦慮の末世界各国がやむなくとった措置が国による「ギルド権」の買い取りだった。


 カロン・ファンタジア内ではゲーム内通貨を使うことで、ギルドを設立する権利を得ることができる。払う額によって人数制限があり、例えば俺らのギルドなんかはせいぜい八人そこらが限界だが、大規模ギルドになるとその人数は無制限だ。


 後は簡単な話だ。国民全員を強制的にカロン・ファンタジアに登録させ、国の作ったギルドに加入させる。それから、国全体を本拠地に設定する。実際、カロン・ファンタジア内では擬似国家がいくつも存在していたから、そんなに突飛な話でもない。要するに俺がチワワをぶっ殺した後に咄嗟にやったやつの拡大版だ。


 ただ、それで『安全地帯』として判定されたのはあくまで居住区域だけであり、街路も含めた郊外は『戦闘可能』区域として丸々残された。ぶっちゃけ、モンスターが出る可能性があるってことだ。


「えー、少なくともバス通学しなきゃいけないくらいは不便じゃん。夜はコンビニだって気軽に行けないしさー」

 七里がいまだ不満そうにバスの窓に身体を預けた。


 確かに七里の言う通り、世界は少しだけ不便になった。


 輸送コストの増大で物価はあがり、気軽に散歩もできなくなった。


 でも、俺らが受けた実害なんて、せいぜいその程度のものだ。


 それに、実は、世界にとっていいこともいっぱいあるのだ。

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