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第45話 ボス

 轟音が耳をつんざく。


「……っつ」

 ロックさんが声もなく大きく腕を広げて、俺を含む列に並んだ人たちを、押し倒すように突き飛ばした。


 俺の視界が、スローモーションのように空転する。


「岩尾兄さん!」

 レキちゃんの悲鳴にも似た声が響いた。


「俺は大丈夫だ! 礫はギルドの指揮を!」

 ロックさんが口にメガホンのような形にした手を当てて叫ぶ。


 俺は反射的に首を動かして、七里たちの方に視線を向ける。


「よかった……!」

 俺は心からの声を漏らした。


 七里たちのいるテントは何とか崩落の直撃を免れていた。


 驚愕に目を見開きながらもすぐに立ち直った腰越に率いられ、こちらへと駆けてくる。


「そうでもないみたいだぜ」

 ロックさんが焦りを滲ませた声で呟いて、俺を助け起こしてくれる。


 俺は素早く立ち上がり、周囲を見渡した。


「……分断された?」

 俺はコマンドを起動して、身体に武装を纏う。

 言うまでもなく、ロックさんもすでに装いを戦闘形態に移行していた。


「ああ。そういうことだ」


 空間は、見事に三等分されていた。分割された左のスペースには、後詰めとして控えていたロックさんを除く、『石岩道』のギルドメンバーがいるはずだ。右のスペースにいるのは、先行者を中心とした高ランクの冒険者たち。そして……真ん中に取り残された、俺たちのような無力な運び屋の集団。


 崩れた瓦礫は厚い壁となり、頭上遥か高くまで積み上がっていた。


「止まれ! 早く『転送の宝珠』を使うんだ!」

 俺は脇目も振らずに走ってくる七里たちを、鋭い声で制する。


 ボコッ!


 俺の視線は、すでに物言わぬ床に釘づけになっていた。


 ボコココッ!


 こちらの意図に気づいた腰越が、七里と由比の首根っこを掴んで止める。


 ズザアアアアアアアアアアア。


「ゴオオオオオオオオオオオオ」


 風鳴りをひどくしたような腹に響く重低音の咆哮が、世界を支配する。

 槍でも傷つかないほどの硬さを持つ床を易々と突き破って、『それ』は姿を現した。


 哀れにも突出地点にテントを張っていた名前も知らない冒険者を冠代わりに、人型の体躯は限度を知らぬように伸びに伸び、天井ぎりぎりでやっとその成長を止める。


 その背の高さは十階建てのビルを優に超え、横の幅は50mプールにも収まらぬほどの巨大さを誇っていた。


 その肌は冷たく光る青みがかった金属で、いかなる生命の輝きをも否定する無機質の光沢を放つ。非人間的な外見の中で、くり抜かれた頭部に付属したモアイ像のような目鼻が、それの不気味さを際立たせていた。


「エルドラドゴーレム……だと。ミスリルゴーレムじゃないのか! こいつは――」

 ロックさんが、そこではじめて狼狽を顕わにする。歴戦の彼をして言葉を詰まらせ、唾を飲み込ませるほどの意味が、このモンスターにはあった。


「ボスモンスターじゃないか!」

 ロックさんの声や、辺りに飛び交う悲鳴が、俺にはどこか遠くに聞こえていた。


 俺はただ壊れた機械のように、コマンドのアイテム欄を連打する。


『ボス戦突入のため、該当アイテムを使用することができません。ボス戦突入のため、該当アイテムを使用することができません。ボス戦突入のため、該当アイテムを使用することができません。ボス戦突入のため、該当アイテムを使用することができません。ボス戦突入のため、該当アイテムを使用することができません。』


 無慈悲なシステムメッセージが、俺のコマンド画面ただひたすらに埋め尽くした。



 ゲームはユーザーのために作られている。


 だから、ボス戦は盛り上げるものと、太古の昔から相場が決まっている。


 意味深な大きな扉。


 おどろおどろしいBGM。


 もしくはセーブポイント。


 そんな演出が、当たり前のはずだった。


 だけど、現実で俺たちが初めて遭遇したボスに、そんな配慮は微塵もない。


 奴がゲームから引き継いだ設定は、ただ一つだけ。


 冒険者を滅ぼすというモンスターの本能だ。

 

 


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