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第44話 ダンジョン四日目(2)

 俺の危惧に反して、道中は大した被害もなかった。


 俺たちが辿り着いたのは、一際大きなドーム状の広間だった。その広さは東京ドーム一個分はあろうかという巨大な空間で、視界を遮る者はなく見通しも良い。周囲の壁も床も磨き上げられた螺鈿のように美しい。見る角度によって、七色に表情を変えるこの空間にいると、まるでオーロラに包まれているかのような神秘的な気持ちになる。


 壁の一部に空いた穴からは小さな滝のように水が流れだし、ちょろちょろと言う水音と共にドームの円周上に小さな川の流れを作りだしている。


 俺たちはテントの近くに円陣を組み、たわいもない話に花を咲かせていた。


「全然、上手く掘れなかった……」

 採掘から戻ってきた腰越が、手にしたつるはしをアイテムボックスにしまい、粉で真っ白にした手を払う。


「腰越さん。ここらへんから一気に採掘の難易度が上がるから、厳しいと思いますよー。たぶん、ここミスリル鉱床ですけど、ゲーム時代は採掘スキルのレベルの条件を満たしていたとしても、本物のミスリル鉱石が出る確率は一割くらいでしたから」

 床に腰かけた七里が槍の穂先で床に落書きをしようとするが、ミスリルを含んだ硬質の床にほとんど傷はつかない。


「本物とか偽物とかあるの?」

 腰越は近くにあった小川で手をすすぐ。


「ああ、ミスリル鉱石だと思って鑑定するとただの『粘土』だったっていうのはよくある話だ。高レベルの鉱石アイテムになればなるほど、入手難易度は上がってく。ミスリルはレア鉱石の中ではまだマシなドロップ率だな」

 俺はテントからタオルを引っ張り出して、腰越に投げる。


「ん、ありがと。とにかく、ウチはまだまだ修行が足りないってことね。夕飯食べたら、もう一回行ってこようかな」

 腰越が左手でそれをキャッチして頷く。


「すごい体力ですね。嫌味抜きでびっくりです」


「私も疲れたー」

 だんだんと疲労が蓄積してきているのか、由比と七里は互いに体重を預け合うようにくっつき合う。


 俺はさすがにダレる程疲れてはいないが、それでもちょっと太もものあたりが筋肉痛だ。


「ウチの体力がすごいんじゃなくて、あんたらが運動不足なだけ。今度から、あんたらもウチの道場の朝練くらいは参加すれば?」

 腰越が床に脚を広げて、ストレッチを始める。


「確かに。本気で特訓を考えた方がいいかもな……」

 これからも冒険を続けるなら、基礎体力を上げておいて損はないだろう。


 俺は大きく伸びをして、首を鳴らす。


 心地良い疲労と共に、今日も一日が終わろうとしている。荷物持ちの俺たちのアイテムボックスも、大分埋まってきた。


 冒険の予定は一週間。帰宅に要する時間も考えれば、後、二日と半日もすれば冒険も終わりだ。


「……なんか、思ったよりも簡単だね。冒険って」

 七里がぽつりと呟いた。冒険を侮っているというよりは、思っていたようなスリルがないのを残念がっているような口ぶりだ。


「私も、もっとトラップとか、謎解きとか、そういうのがごろごろあるのを想像してました」

 ゲーム時代は、プレイヤーを楽しませるためか、クエストにもそれなりのギミックが用意されていた。だけど、現実のクエストにそんなものはなくて、事態は淡々と進行するだけだ。


「先行者の人たちが、モンスターとかを全部引き受けてくれているからそう感じるだけだよ。きっと」

 俺はそう答えたが、確かに拍子抜けした感はあった。ぶっちゃけていえば、トラップとは言わないまでも、フォッレマジロの奇襲みたいな異常事態が、もっと頻繁に起こると思っていたのだ。


「えー、あんたらそれは絶対おかしいって。こんな訳のわからないきらきらした空間が普通に地球に存在してるなんて、ウチはかなり不気味なんだけど」


「それは……そうだな」

 俺ははっとして頷いた。


 いつの間にか、俺も正常の感覚が麻痺しかけているのかもしれない。腰越の言う通り、この空間は常識に照らして考えれば異常な空間で、何がおこってもおかしくないのだ。


「とにかく、ご飯を取りに行こうよー。食べれる時に食べるのが冒険者の鉄則でしょー?」

 七里が知ったようなことを言って、緩慢な動作で立ち上がる。


「私も、今日はお腹が減りました」


「ん。ウチも」

 由比と腰越が頷く。


「じゃ、俺がまとめて取ってくるから、みんな待っていて」

 俺はやおら立ち上がり、鴨居さんたちが運営する配給所に向かう。


 横長のテーブルに3列程の受け渡し所が設けられている。


 冒険者たちの食事を取る時間はまちまちだ。例えば先行者はもうすでに支給を受け、食事を終え、この空間の出口辺りに陣取ってなにやらミーティングをはじめていたし、未だ採掘作業に勤しむ冒険者たちは、まだ食べる気はさらさらないといった様子だ。


 結果、俺のようなそのどちらでもない冒険者が、こうして受け渡し所に列を成すことになる。


「よう。元気か?」


「あ、ロックさん。こんばんは――っていうのもなんか変な感じですね」

 肩を叩かれた俺は、振り返って頭を下げる。


「太陽みないと時間の感覚が狂うからなあ。時差ボケみたいになりそうだ」

 ロックさんが自分に気合を入れるように頭をシェイクする。


「ですねー。ロックさんも、みんなのご飯を取りに?」


「まあな、ギルマスっていっても、所詮はみんなのパシりみたいなもんだよ。わかるだろ?」

 ロックさんは苦笑して、親指で空間の入り口方向を指す。レキちゃんが、「早くしろ」とでも言うようにこちらに顎をしゃくっていた。


「ははは……」

 俺は乾いた笑いを漏らす。深く考えたことはなかったが、そう言われれば、指揮している時間よりも雑用に費やす方が長いかもしれない。



 それは、もはや日常になりかけていた些細な一コマで。



 冒険の合間の、ささやかな休息で。



 だから、簡単に壊れる。



 気まずくそらした視線の先――


 ファンタジーじみた虹色の天井が。



 唐突に崩れ落ちてきた。


やっと話が動きます。

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