表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/162

第27話 由比のお願い

「そろそろ寝るか」

 自室の机に向かってやる編み物に一段落ついた俺は、あくびを一つして作業を中断する。デバイスのアプリで明日の目覚ましを設定した。最新のアプリで、起きたい時間をセットすると、俺の睡眠の深さを測って寝覚めの良いところで起こしてくれるやつだ。七里には……なぜか効かないが。


 コンコン。


 俺がベッドに向かおうと椅子を立ち上がった時、控え目なノックの音が聞こえてきた。


「どうぞー」


「失礼します……」

 パジャマ姿の由比が静かに戸を閉めて、中に入ってきた。モスグリーンのパジャマを着て、胸に棒状の枕を抱いている。


「どうかした?」

 俺はそのままベッドへと進み、弾力のあるそれに腰を下ろす。


「え……と、その。ちょっと、兄さんにお願いがありまして……」

 由比はそこで言葉を区切り、脚をこすり合わせてもじもじとしだす。


「うん、なに?」

 俺は頷いて先を促した。


「その――私と寝てください!」

 由比は意を決したように目をぎゅっと瞑って言う。


「ふぁっ!? ……え、あ、その、俺と一緒のベッドで眠りたいってことだよね? ははは」


 俺は乾いた笑みを漏らす。『寝る』という単語に脳内をいくつかのピンク的妄想が駆け巡ったが、慌てて平静を取り戻した。


「? それ以外にどういう寝るがあるんですか?」

 由比が首を傾げる。


「いや、その、でも、どうして? ベッドが壊れでもした?」


「いえ……そういう訳ではないんですけど。お姉ちゃんから、昔の話を聞いて羨ましくなってしまって」

 由比はそう呟いて頬を染める。


「昔の話?」


「はい……昔は兄さんと一緒に寝てたって、言ってました」


「ああ……うん、そういえばそんなこともあったかな。でも、それ、冬の間限定だよ?」

 昔といっても、つい数年前の、七里が小学生の時分の話だ。七里は寒がりな癖に「エアコンは身体に悪い」とか年寄りみたいなことを言って、俺のベッドに潜り込んできていた。どうやらあいつは俺を湯たんぽか何かと勘違いしている節がある。それが止んだのは、俺が七里のあまりの寝相の悪さに、部屋から叩き出したからだ。


「でも、寝てたんですよね?」

 由比が一歩こっちに歩み寄る。


「うん……だけど、それは七里が小学生の時の話だし……」


「でも、寝てたんですよね?」

 由比が繰り返してさらにこちらに詰め寄ってきた。


「え、と、その……」

 俺は言葉に窮した。七里ならともかく、由比と一緒にベッドに入るというのは、やばい。理性的にも倫理的にも。


「お姉ちゃんが一緒に寝てたんだったら、妹の私は当然、兄さんと一緒に寝る権利があるはずです……だめ、ですか?」


 ついに俺の眼前まで迫った由比が、顔をぐいっと近づけてくる。潤んだ瞳に長い睫毛が瞬いていた。

いちゃいちゃ。

続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ