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第23話 回想 まどろみの中で

 夢を見ていた。


 まどろみの中、俺は幼い頃の俺を俯瞰している。


 ああ、これは明晰夢ってやつだ。

 中途半端な意識の中で、俺はそう気付く。


 まだ、俺は小学校の低学年で、七里は幼稚園で、しかも、親同士が再婚したばっかりで、すごく気まずかった。


 当時の七里もやはり人見知りで、いきなり同居することになったまだ他人の俺の姿を見かける度、小動物のようにどこかに隠れていた。


 二人の親は両方ともいつも忙しく、ろくに家に帰ってきやしない。当然、俺たちの仲を取り持とうなんて気はさらさらないようだった。自然に任せ解きゃなんとかなる。そんな感じのネグレクト一歩手前の放任主義だったように思う。


 いや、それは今もか。


 俺の方から歩み寄ってやれば良かったのかもしれないが、それまで一人っ子だった俺は、いきなり出来た血のつながりのない年下の義妹への対処法なんて知るはずもなかったし、小学生の男子にありがちなシャイさは、俺だって持ち合わせていた。


 結果、会話もなく、せいぜい、親のいない時に買ってきた惣菜飯を提供してやるくらいしか、七里との交流がなかった。


 そんな俺が、どうして七里と仲良くなったんだっけ。



 俺の疑問に応えるように、夢が切り替わる。



 幼い七里の満面の笑み。


 手にしているのは、ほつれだらけで、持ち手の長さが不揃いな、布の手提げバッグ。


 思い出した。ああ、そうだ。バッグだ。


 七里が通っていた幼稚園で、バッグを持って来いってなったんだ。親はいつも通り、既製品を与えとけばいいやって感じで投げ遣りで、でも、俺は数年前に同じとこに通ってたから、知っていたんだ。それなりに、裕福なマダムの子どもも多い鎌倉の幼稚園で、既製品のバッグはすごく浮くってことを。手作りのアップリケとかがついたかわいらしいバッグを持った他の奴らの前で、自分は何も悪いことをしてないのに、何だか劣等感に苛まれる、あのいたたまれなさ。


 案の定七里は、既製品のバッグを持っていったその日、どこかしょんぼりとしていた。


 あの時、何で俺は、バッグを作ろうと思ったんだろう。


 今となってはよく思い出せない。


 単純な七里への同情だったかもしれない、幼いながらに家族は仲良くしなければいけないとぼんやりと思っていて、何かきっかけが欲しかったのかも。


 とにかく、俺は一念発起して、親の電子マネーで一番安いミシンを買った。子どもながらに必死で、眠い目をこすりながら一夜漬けで作ったバッグはそれはもう酷い出来で、一日で使い物にならなくなるような代物で、それでも七里は、嬉しそうに笑っていた。


 何だか俺も嬉しくて、次はもうちょっとまともな物を作ってやらなきゃと思って練習して――、何となく七里との会話も増えて言って、ああ、そうだ。それで、俺は裁縫とか編み物とかが好きになったんだったな。


 そうこうしている内に、いつの間にか、俺が七里の面倒を見て、七里が俺に甘えるっていうのが、俺たちの家族としての構図になって、それからはずっとこんな感じだ。


 でも、七里のわがままは、今思えば、俺たちが家族になるのに必要なことだったんだ。


 血の繋がりがある家族なら、別に家ではお互いを無視し合っているような冷戦状態でもいい。暗黙の前提として、どんなに嫌い合っていても、血の繋がりだけはなくならない。


 でも、血の繋がりのない家族でそれをやっていれば、一生他人のままで終わってしまう。だから、きっと、七里が俺にわがままを言うのは、コミュ障な七里が俺と家族になろうとする不器用で精一杯な社交術で、まだまだ子どもの俺が大人ぶってそのわがままを許容するのもきっと、同じ理由だ。


 くだらない夢だ。


 本当にくだらない夢だ。


 でも、何となく、今日の寝覚めは、悪くない気がする。


今更ながら、主人公と義妹の関係性とか、裁縫士になったきっかけとか。

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