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第145話 カロン・ファンタジア(2)

「俺はまずはあのプドロティスもどきを倒す! みんなは、残りのモンスターを自動人形で足止めしてくれ!」


『了解です! 兄さん!』


『じゃあウチはあの狼みたいな奴らと戦う!』


『お手伝いします!』


 手早く作戦を決めた俺たちは、早速行動を開始する。


 まずはモンスターの一団に、ファイアボールの封じ込められた試験管を放り投げ、注意を引く。


 カロン以外の、爆風をくらったモンスターたちが、怒り狂って一斉にこちらに押し寄せてきた。


 GRYYYYYYYYYYY!


 プドロティスの上半身を持ったエルドラドゴーレムが、急降下し、俺めがけて助走をつけた蹴りを繰り出してくる。


 一見威圧感のある光景だが、しかし、その動きは純正のプドロティスに比べれば幾分鈍重だった。


 俺は頃合いを見計らって、その足に飛びつく。


 鬱陶しそうにプドロティスもどきが口から吐き出してきたブレスを建築スキルで造成した壁で防ぎ、同時に鍛冶スキルで下半身のエルドラドゴーレム部分を溶かした。


 半分を金属として採集し、もう半分はそのまま流れるに任せる。


「瀬成! 避けて!」


 ウェアウルフもどきと対峙し、足止めをしていた瀬成が飛び退く。


 ほぼ同時に、ドロドロに溶けたエルドラドゴーレム由来の液体金属が床に流れ出し、こちらに迫りつつあったウェアウルフもどきのスライムの足と混ざりあって同化する。


 俺はその瞬間を見逃さなかった。


 眼下のウェアウルフもどきに向けて、ブリーザードの封じ込められた試験管を投げつける。


 たちまち冷気が周囲に飛散し、急激な温度低下により液体金属は再び凝固を始める。それに伴い、スライムの足も巻き込まれ、プドロティスもどきの一部となったウェアウルフの動きが停止した。


「仕上げだ!」


 完全に液体金属が固まりきるその寸前、俺はプドロティスの足から跳び降りた。


 空中を落下しながら、採集した金属から全長五メートルはあろうかという長槍を作り出す。


 落下速度の物理エネルギーを加えた強烈な一撃が、液体金属を貫通し、プドロティスの身体を大地に刺し止める。


 反動で俺の手に伝わる、痺れるような衝撃。


 それを逆らうことなく受け入れた俺は、跳ね飛ばされ、宙を舞う。


 浮遊感を感じながら、俺は裁縫で瞬時にクッションを作り出し、落下地点に撒いた。


 やがて、背中を柔らかい感覚に包まれ、ノーダメージで着地した俺は、さらにもう一発、ブリザードの封入された試験管をぶん投げる。


 二度目の冷却により、もはや液体金属は完全に凝固し、長槍により刺し止められ、地面と下半身が一体化したプドロティスもどきは、飛行の自由を喪失する。


 こうなれば、後は簡単。


 ブレスを食らうことのないプドロティスもどきの背中へと回り、ひたすら攻撃を続けるだけだ。


 プドロティスもどきの外皮はさすがに硬いが、俺自身も英雄として基礎能力が向上してるから、ダメージは通る。武器のレベルも奥多摩の時とは段違いだから、壊れることもない。


 やがて、その皮を貫き、肉を貫き、臓器を屠る。


 GUOOOOOOOOOOO!


 プドロティスもどきが断末魔の悲鳴を上げて絶命し、ワンサイドゲームで勝利を得た俺は、残ったウェアウルフをアウトレンジから一匹ずつ確実に刺し殺した。


「こっちは終わった! 由比、そっちはどうだ!?」


「強くはないんですが、数が多くて! 救援お願いできますか!?」


「わかった!」


 俺は返す刀で、ゴブリンもどきの方に足を向けた。


 口と股から休むことなくクックを生み出し続けるそれは、ただでさえ醜いゴブリンを、さらにおぞましくした何かだった。


 まだ痛覚は残っているのか、クックを身体からひりだすのはかなり苦しいことらしく、苛立ちを紛らわせるように手当たり次第に暴れまくっている。


 その八つ当たりとゴブリンに生み出させたクックによって、すでに自動人形が何体かやられたようだ。


 命のない人形とはいえ、ここにくるまでに相当な数を失っている。このまま貴重な戦力が減るのを放置している訳にもいかない。


『縫い止め!』


 俺は走りながらスキルを発動する。


 発射された網は、ただの時間稼ぎではない。


 糸の一本一本に鋭利なのこぎり状の刃がついた、アグレッシブな攻撃兵器だ。


 飛び回るクックと一緒に、一網打尽になった身重のゴブリンたちは、成す術もなく一瞬でサイコロ状の肉片へと成り果てた。


「ひとまず、目の前の敵、全て処理完了したよ」


『さすがは兄さんです! 楽勝でしたね』


『なんか、思ったよりも強くなくない?』


『生物というものは、機能上の必然があってその形をしています。種類のことなる生き物を、児戯のごとく弄んでも、上手くいくはずはありません』


「まあ、見た目がグロい割には大したことなかったね。数が多いし、予想外の攻撃もあるだろうから、油断はできないけど――」


 俺たちが目の前の脅威を処理できたことに安堵し、声を掛け合っていたその時――


「クソがあああああああああああああああああああああ!」


 ダイゴの怒声が俺の鼓膜をビリビリと震わせる。


 やおら声のする方に視線を向けた俺の瞳に映ったのは――なんとあのダイゴが肩で息をしている衝撃の光景だった。


「どうしました? 早く私を倒してごらんなさい」


 そんなダイゴを睥睨し、余裕の表情で微笑むカロン。


 その身体には、未だ傷一つない。


「ダイゴさん! どうしました」


「……ダメージが、通らねえ。近接、遠距離、魔法、あらゆる攻撃が、無効化されやがる!」


 ダイゴが途切れ途切れに言葉を紡ぐ。


 その声色が、事の深刻さを証明していた。


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