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第10話 休日の予定

 今日は土曜日。

 それは、俺と由比ちゃんが掃除や洗濯など一通りの家事を終わらせ、ソファーでお茶を飲みながら一休みしている頃だった。


「お義兄ちゃん。今日は由比と横浜へ買い物に行くから」

 今頃になってやっと起きだしてきた七里がリビングに顔を出すなり、開口一番そう言った。


「え? あ、そうなの、由比ちゃん?」

 俺はきょとんした顔で彼女を見遣る。


「え? あの……」

 由比ちゃんが困ったように眉を潜め口ごもる。


「馬鹿だなあ、お義兄ちゃんは。由比は引っ込み思案で内気なんだから、行きたいなんて言い出せないんだよ」

 七里がそう勝手に断定する。由比ちゃんも内弁慶の七里だけには、引っ込み思案などと言われたくないと思う。


「あ、あの、私、特に欲しいものないよ? 七里ちゃんたちにも手伝ってもらって、一回家に帰って必要なものは大体取ってきたから」

 由比ちゃんも小首を傾げる。やっぱり、七里の独断か。


「またあー、無理しなくてもいいよ。私はちゃんとわかってるから。由比は家に来てから何か遠慮してるもん」

 七里よ。当たり前だ。世の中の大抵の人間はお前のように図々しくないのだ。


「大体、何か欲しいものがあるなら、ネット通販でいいだろ」

 IT技術が発展したこの時代だ。一歩も外に出なくてもほとんどのものは揃う。食材は言わずもがな、服などはホログラムで疑似的な試着もできるくらいだ。発達した流通網とITを基盤にしたシステムがあるからこそ、騒動以後も多くの人間の生活はその根本を崩すことなく成り立っているのである。もちろん、食べ物屋や、俺でいう所の編み物用品店みたいな、実際に触ってみないとダメな玄人好みの専門店は、未だに実店舗を構える価値を有しているとは思うが。


「お義兄ちゃんー、女の子には色々あるんだよー」

 七里が呆れたようにため息をつき、こちらをジト目で見てくる。


「そ、そうか……」

 俺は思わず頷いてしまった。


 七里が女の子の代表面するのにはかなり違和感があるが、そう言われると男の俺は強弁に反論はできない。


「な、なにもないですよ。七里ちゃん、本当に私は大丈夫だから」


「わかった。わかった。じゃあ、私の遊びに付き合うってことでいいから。行こ」


「う、うん」

 由比ちゃんが気圧されたように頷いた。


「そっか。じゃあ、気をつけてな。横浜なら治安は大丈夫だと思うが、何が起こるかはわからないし」

 俺はそう送り出しの言葉を述べる。


 まあ、かなり強引だが、七里は七里で由比ちゃんのことを気遣っているのだろう。家だと俺がいるから、気を遣って思いっきり楽しめない部分もあるだろうし、親友の二人で出かけたいという気持ちも理解できる。


「は? 何言ってんの? お義兄ちゃんも来るに決まってんじゃん」

 七里が当然のようにそう言ってのけた。


「ん? お前ら二人で行くって話じゃないのか?」


「うん。実質的にはそうつもりだけど、虫除け+荷物持ちは必要でしょ? だから、お義兄ちゃんも来なさい」

 七里がこちらに断る選択肢があることなど微塵も想定していない口調でそう命令してくる。


「いや、でもなあ……俺は今日中に編み上げたいニット帽があるし」

 俺はそう渋ってソファに沈む。半分は本音だが、もう半分には二人の遊びに水を差したくないという気持ちもあった。


「お義兄ちゃん。正気!? こんな美少女二人と一緒のデートを断って、部屋で一人シュコシュコ棒を行ったりきたりさせる方がいいなんて、インポなの? 死ぬの?」

 七里が全力で煽ってくる。


「ああん? バッキバキのもっこもこだわ。何なら見るか? このクソ妹が」


「昔、お風呂に入った時に散々みたからもういいよ。どうせ、まち針くらいの長さでしょ?」


「神聖なる裁縫用具を罵倒語として使いやがったな。お前と違って俺のかぎ棒は成長しとるんじゃこのペチャパイが……あ、っとごめん。由比ちゃん。ついいつものノリで」

 売り言葉に買い言葉で、舌戦に突入しかけた俺は、すぐ隣に由比ちゃんがいることを思い出し慌てて口を噤んだ。ああ、案の定ものすごく怖い顔で由比ちゃんがこちらを見つめている。


「見た!? 由比、これがお義兄ちゃんの本性だよ。由比の前では紳士ぶってるけど、中身はただの性獣だよ。歩く種付け装置だよ。幻滅したよね?」


「ううん……仲の良い兄妹って感じで羨ましい」

 由比ちゃんが小声で囁くように言う。


「えー、お義兄ちゃんと仲がいいなんて心外だなー。でも、まあいいや。由比だから許しちゃう。それよりもさ、由比もお義兄ちゃんについてきて欲しいよね?」


「うん……私もお兄さんがいた方が安心かな。あ、でも、やりたいことがおありならそちらを優先したもらった方がいいと思うけど」

 由比ちゃんが微笑みと共にそう告げる。


「じゃ、決まりだね」

 そういうことになった。


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