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第106話 特訓の成果

「おー、すごいにゃー!」


 マオが感嘆の声を漏らす。


 三体の等身大の人形が、縦に繋がっている。


 地面に逆立ちした人形の足に手を置いて、さらに別の人形が逆立ちし、その上に三体目の人形が逆立ちし、絶妙なバランスを保って一本の木のようになっている。


 一番上の人形は、その場で片手立ちになったり、宙返りしたり、見事な軽業を決めていく。


 祭りの準備の邪魔にならないよう、会場の隅に移動した俺に、瀬成たちが最初に見せつけてきたのは――曲芸だった。


「『肉体は魂の器にすぎざれば、永遠ならず。隣の芝生を青く見て、羨み妬むもまた虚し――』」


 礫ちゃんの読経のような詠唱が延々とループし、俺の隣には意識を失い横たわる瀬成がいる。


 ちょっと異様な光景だ。


「そろそろ崩れます。三、ニ、一」


 由比のカウントダウンが終わると同時に、一瞬、礫ちゃんの詠唱が止み、また始まる。


 一番上の人形の動きが突然精彩を欠いたと思ったら、真ん中の人形が機敏に動き始める。


 真ん中の人形はそのまま、前後に回転しながら跳躍して、一番上の人形と入れ替わった。


「よくわかったよ。由比が人形たちの指揮役で、瀬成はその内の一体に入り込んで操る。


そして、礫ちゃんが魔法を詠唱して、瀬成が宿る人形をスイッチングする。そういう役割分断なんだね」

 俺は拍手で三人の技を称えながら頷いた。


「その通りです。では、ここまでにしましょう。本当は兄さんに楽しんで頂こうともっと色々な演目を用意していたんですが、今は時間がないので、さわりだけということで」


 由比が手を叩くと同時に、礫ちゃんの詠唱が止まる。三体の人形が一斉に崩れ、地面に折り重なった。


「んっしょ。どう? 大和。今見せたのはただのサーカスだけど、ウチも戦えるよ。こっそり壁の外のモンスター相手に練習したし!」


 意識を取り戻し、起き上がった瀬成が自信ありげに微笑む。


「自動人形の一番低いグレードの物を使っても、藤沢さんは中級冒険者程度の実力を発揮されました。ご主人様にさらに高いグレードの自動人形を製作して頂ければ、上級冒険者と同等の戦力になると推察致します」


 礫ちゃんがそう付け加える。


「ありがとう。……色々、考えてくれたんだね。俺のために」


 思わず目頭が熱くなった。


 俺と一緒に戦うためだけに、三人は知恵を絞り、努力を重ね、この戦法を編み出してくれたのだろう。

 その優しさが、俺は素直に嬉しかった。


「セナたちがなんかすごく強くなったのはわかったにゃ。それで、具体的にどうやってスニークスネークを狩るにゃ?」


 マオが首を傾げて尋ねた。


「作戦は単純です。まず、ご主人様に大量の自動人形を用意して頂きます。後は、その自動人形で山の周囲に円形の包囲網を敷き、徐々に中心に向かってスニークスネークを追い込んで、一箇所に集めた計85体のスニークスネークをまとめて狩るだけです。スニークスネークはさほど強いモンスターではないので、用意する自動人形も木製の安い物で問題ありません」


 確かに、木材なら金属類に比べれば圧倒的に安価だ。自然に近い素材で作った方が、スニークスネークにも警戒されにくいだろうし。


「つまり、簡単に言うと、獣人たちの代わりに、たくさんの自動人形を使って山狩りを行うってことでいいのかな?」


 俺は確認するように問う。


「はい。しかも、私たちにはカロンファンタジアのアイテムが使えるので、より効率的にスニークスネークを追い込むことができます。前に、岩尾兄さんと共にこの近辺のモンスターを掃討した時のことを覚えていらっしゃいますか?」


「ああ。『魔除けの香』を使って、敵を戦いやすい地形に誘導したよね。まだ冬で雪とかがいっぱい積もってて、大変だったなあ」


 俺は『石岩道』のメンバーと一緒に、壁で囲った領地の内部に残ったモンスターを駆逐した時のことを思い出して言う。


 『魔除けの香』はその名の通り、モンスターが嫌う臭いを発して、敵を遠ざけてエンカウントをさけるためのアイテムである。効果範囲にモンスターが入ると、地形に擬態して隠れているやつも逃げ出すので、見つけにくいモンスターのあぶり出しにも使えるのだ。


 もっとも、強すぎるモンスターには効かなかったりするのだが、スニークスネーク程度の強さの敵にならば、問題なく通用するはずである。


「それと同じ方法を取ります。効果範囲を重複させれば、スニークスネークが包囲網の隙間から逃げ出すという心配もなくなるでしょう」


 礫ちゃんが俺の言葉に頷いて言う。


「確かにそれなら安心だね。でも、この辺りは、地形的に平坦じゃないから、『魔除けの香』の匂いが届きにくい所もあるけど、そこはどうする? 人間なら細かい部分にも対処できるけど、自動人形には『進め』とか『戻れ』とか、簡単な命令しかできないし」


 俺は懸念を口にする。


 専門職である人形使いとかだとまた違ったりもするんだろうが、スキルなしの門外漢では自動人形はひと昔前のブラウザゲームくらいの単純な動きしかできない。


「そこで私の出番です! 兄さん! これを見てください!」


 由比はそう意気込んで、ポケットから手の平サイズの小箱を取り出して蓋を開ける。


「それは――コンタクトタイプのウェアブルカメラ?」


 俺は箱の中身を見て呟いた。


「はい! 人形の全てにこれを取り付け、撮影した映像をデバイスにとばしてまとめて私が監視します! 今はそこにある三体の予備の分しか持って来ていませんけど、城には大量に同型のウェアブルカメラを保管してあるので」


 由比が微笑んで頷く。


「由比が見つけた怪しい場所は、ウチが直接人形に入って確認するから」


 瀬成がそうつけ足した。


「なるほど。それなら、完璧だね」


 俺は感心して言った。


 きっとあらかじめ、領地の防衛システムを構築するつもりで用意していたのだろう。


 これもまた、俺の王としての仕事を助けるために考えてくれたのか。


 改めて三人への感謝が募る。


「にゃー。作戦は大体わかったにゃ。それで、マオは何をすればいいのかにゃ?」


「マオさんにはゼルトナー号やモービルなど、『精霊幻燈』の技術を使って、周囲への人形の配置に協力してもらいます」


 礫ちゃんが淡々と告げる。


 そりゃそうか。


 マオたちの協力がないと、俺たちだけで人形の包囲網を敷くのは時間がかかりすぎる。


「おお、そういうことかにゃ! 了解にゃ! アルセたちも動員してぱぱっと済ませるにゃ!」


 マオがはりきって頷いた。


「お願いします。それと、マオさんの部下の方にもう少し詳しくお話を伺ってもよろしいですか? 卵が孵化した日を割り出し、そこからスニークスネークの最大行動範囲を算出する必要があるので」


「もちろんにゃ! ぶん殴っても吐かせるから安心してにゃ!」


 マオはそう言って胸を叩いた。


「話はまとまったね。じゃあ、早速、俺は『自動人形』の生産に入るよ」


「私は城に行って、ウェアブルカメラを取ってきます」


「あ、ウチも手伝う。人形一体一体にカメラをつけなきゃいけないし」


 阿吽の呼吸で、俺たちは動き出す。


 今ならどんな敵にも勝てる気がした。

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