サンタさんには、どうしたらなれるの?
「サンタさんには、どうしたらなれるの?」
大好きなキャンディがたくさん入った袋に手を入れて、今まさに食べようとしていたお父さんに小さな男の子は尋ねます。
我が子の思いがけない質問に、お父さんのキャンディを食べようとする手が止まります。
「……サンタさんになりたいのかい?」
「うん!僕、大きくなったらサンタさんになりたい!」
そんなことを聞かれても、お父さんには分かりません。
「うーん……お父さんには分からないなぁ。」
「じゃあ、サンタさんに会って聞いてみる!」
お父さんは、もうキャンディどころではありません。
お父さんはお母さんに相談しましたが、お母さんも困ってしまいました。
その後何も解決しないまま、クリスマスプレゼントの届く夜がやって来ました。
男の子は部屋で起きてサンタさんを待っています。サンタさんに会うまで寝ないつもりのようです。
けれども、眠気には勝てません。男の子はウトウトして、いつの間にか眠ってしまいました。
「坊や。坊や。」
男の子はその声に飛び起きます。
「えっ?!ここはどこ……?おじさんは、だれ?」
男の子が目を覚ますと、そこは真っ白な雪の広がる家の近くの公園でした。
「私は、サンタクロースだよ。」
そして、真っ暗な空とは対照的に、真っ赤な服を着たサンタさんがいたのです。
「うわあ!本物なの?!」
「本物さ。坊や、今時間はあるかい?」
男の子は驚きながらも、その問いに大きく頷きました。
「そうか。では、ひとつお願いをしよう。
これから私はこの街でプレゼントを配らないといけないのだが、どうにもこの街には詳しくない。
そこで、坊やに一緒にソリに乗って道案内をしてもらいたいのだが……お願いできるかな?」
「え!!いいの!?やったー!!」
男の子は大喜びです。まさか、サンタさんのソリに乗れるなんて夢のようです。
「いいかい、落ちたら危ないから しっかりつかまっているんだよ。」
そういうと、サンタさんはトナカイに繋がれた縄を引っ張り、トナカイを走らせました。
パカッ、パカッ……。
トナカイが走り出すと、ソリはだんだん宙に浮いて行きます。
見る見るうちにソリは地上から離れて行き もう雲と同じぐらいの高さまで来ています。
「うわあ!すごい、すごい!」
「見てごらん、あれが坊やのお家だよ。米粒ぐらいの大きさに見えるだろう。」
空から見た街は 家の光がきらきらと
星のように輝いていて 素晴らしい夜景が広がっています。
「あっちがヒロシくんの家でね、こっちがマイコちゃんの家だよ!」
「ほいほい、さすが坊やは詳しいね。これはとっても助かるよ。」
サンタさんと男の子は、いろんなことを話しながらプレゼントを配って回ります。
「どうやってみんなの欲しいプレゼントを調べているの?」
「調べてなんかいないよ。調べなくてもわかるんだ。」
「煙突が無くても大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。サンタさんは、いつも傍にいるからね。」
「どうしてサンタさんは、みんなにプレゼントをくれるの?」
「サンタさんは、みんなの喜ぶ姿を見るのが一番好きなんだ。」
「みんなサンタさんを見たことがないっていうけど、それはどうして?」
「いいや、みんな見たことはあるはずさ。
ただ、それがサンタさんだと気が付いていないだけ。」
――楽しい時間というものは あっという間に過ぎてしまうもの。
サンタさんと男の子は すべてのプレゼントを配り終わりました。
「坊や、ありがとうね。おかげで助かったよ。」
「ううん。いいんだ。でも、最後にもう一つだけ質問をしてもいい?」
男の子はサンタさんをじっと見つめて尋ねます。
「サンタさんには、どうしたらなれるの?」
その質問に、サンタさんは目を丸くさせます。
「なんだ、そんなことか。」
サンタさんはフフっと男の子に笑って見せます。
「サンタさんにはね、誰だってなれるんだ。
君に 大切な人ができればね。」
サンタさんがそういうと、男の子はだんだん意識が遠退いて行きました。
気がつくと、そこはお家のベッドの上でした。
枕元には、クリスマスプレゼントがありました。
翌朝のことです。男の子はサンタさんからのクリスマスプレゼントで嬉しそうに遊んでいます。そして、もうあの質問をしてくることもありません。
そんな男の子を見て不思議に思ったお母さんが、お父さんに話しかけます。
「あなた、一体何て言ったの?
あの子、あんなにサンタさんになりたいって言っていたのに……。」
「ああ……いや、もう解決したらしい。でも……なあ、母さん。
サンタさんって、本当にいるんだな。」
「え?」
「どうやら、おれらのところにも サンタさんが来たらしい。」
お父さんが、机の上にある二粒のキャンディと、手紙を指さしてそう言います。
その手紙には、汚い字でこう書かれていました。
「おとうさんとおかあさんへ
メリークリスマス
クリスマスプレゼントです。
サンタさんより」