第7話 一才 捨てられないもの
この姿…………どう見てもヴァルキリーヘイムを攻略したときの俺のキャラクターデータだ。
右手に握られているのはクリスの作ってくれたエンドオブザワールド。
それに加えてジークの作ってくれた防具と数々のファッションアバター。
一体どういう仕組みになっているのか分からないが、実体化して確かに存在している。
多分この姿のまま世界中を周り魔法をかき集めることが、姫の下へと戻る最短の道のりになるだろう。
だけど、それは何か違う気がする。
間違えのような気がする。
多分そんなことをすれば、全てを置き去りにして世界を駆け抜けてしまうことだろう。
そう、母さんたちの気持ちさえも置き去りにして。
そこまでして戻ってきた俺を姫はきっと黙って受け入れてくれる。
だけど、それはさせちゃいけない。
自分のために何かを捨ててきたなんて重荷を背負わせてはいけない。
たった一年。されど一年。
母さんは姫に紹介しなければならない人の一人だ。
ならばこそ俺は母さんの子供でなくてはならない。
「『神化解除』」
ファッションアバターであるはずの黒い翼が俺の身体を包み込む。
そしてガラスが砕け散るかのように翼が舞い散ると、そこには母さんの子供であり、ようやくよちよち歩きのできるようになった俺の姿があった。
「ヴァレリア!」
母さんが駆け寄ってきて、抱きしめられる。
「よかった、本当に無事でよかった!」
涙で服が濡れていく。
いつか母さんには全てを話さないといけないな。
「おねえしゃま、よかったのでしゅか?(お姉さま、よかったのですか?)
「ん、だいじなものてきたから(うん、大事なものができたから)」
この世界は広い。魂の状態でも周りきれないほどに。
ならばじっくりと探そう。
俺と姫……そして母さんが幸せになれる魔法を。
「わたちもわしゅれないれね(私も忘れないでくださいね)」
ああ、もちろんお前も入ってるよ。
「そ、その家族団らんに父さんも混ぜてくれー!」
いや、あなたのことはちょっと考えさせてください…………。