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異世界版でデスゲーム  作者: 妄想日記
第一章 幼児編
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Sideセフィリア 戦いの神

 それから数日後、さらに驚く事件が起きました。


 まだ一歳になったばかりのヴァレリア様がなんと魔法を覚えたいと言いはじめたのです。

 いくら何でもまだ無理というもの。

 魔法を覚えるためにはまずスキルを習得する必要があります。

 スキルの習得に必要なものは『ことわりの理解』。

 つまりそのスキルがどういう理によって発現するかを理解しなければスキルを習得することはできません。

 そしてそれをもっとも簡単に成し遂げるものとして『技能書』というものが存在しています。

 しかし周囲より覚えの早く、勉強漬けであった私でさえも技能書を読めるようになったのは6歳の頃でした。

 それを僅か一歳で読もうとするなどという話は未だかつて聞いたこともありません。


 しかし、アンネリーゼ様は私に技能書を持ってくるように指示されました。

 だから私は魔法の入門者がまず覚えるとされる『元素魔法』の技能書を用意しました。

 そして技能書を王女様方にお渡ししたのですが、やはりまだお二人には読むことができなかったようで、アンネリーゼ様に読んでもらうことになりました。

 ほっとため息が出ます。

 もしここで王女様方が『元素魔法』を習得されてしまっていたら、私が今まで培ってきた常識が壊れてしまったことは想像に難くありません。


 アンネーリーゼ様がお二人に本を読んでさしあげています。

 絵本でないことに目を瞑りさえすれば、実に年相応な微笑ましい光景です。

 しかしアンネリーゼ様が本を読み終えると、お二人が今度は自分で読んでみると言われました。

 最初はそういう遊びなのかと思って黙って見ていると、何と技能書が確かに消えてしまったのです!

 技能書が消えたということは、王女様たちがスキルを覚えたということの証明に他なりません。

 どうやら王女様たちは私の想像を遥かに超える天才だったようです…………。


 そしてそれに喜んだアンネリーゼ様が、国王陛下に報告し、さっそくステータスカードで確認してみようという話になりました。

 もちろん私もステータスカードを持っています。

 ついこの間転職を終えたばかりで、職業はメイドマスターLv70となっています。そして各種スキルレベルは60~70ほどになります。


 王女様たちが『アナライズ』の呪文を唱えるとステータスがステータスカードに浮かび上がってきました。

 この年でそんなことができるだけでも驚愕に価するのに、その中を見せていただいてそれまでの出来事が何でもなかったと言えるほどの衝撃を受けることになりました。


 まず異常だったのがリーゼロッテ様のステータスの高さ。筋力、敏捷、体力、器用は普通ですが、魔力、魅力はダークエルフの歴史上最高値にまで上り詰める可能性を秘めています。夜の女神シャールによる祝福を異常なまでに受け、まさに女王になるべくして産まれてきたようにすら思えます。

 しかし、その反対に姉君であるヴァレリア様は、女神による祝福を受けられていなかったようです。過去王族にそのような『見放された子』が生まれたという事実はありません。これの意味するところは一体…………。

 ヴァレリア様は確かに天才です。天は二物を与えずと言いますが、神は本当に酷いことをなされます。


 その事実にショックを受けるヴァレリア様をお慰めするアンネリーゼ様。アンネリーゼ様もダークエルフの一般的な女性に見られるような冷酷な一面を持っていますが、やはり自分の子は可愛いようです。


 しかしそれでもヴァレリア様は完全に女神に見放されているわけではありませんでした。なぜならヴァレリア様はエクストラスキルをお持ちになられていたからです。

 エクストラスキルとは女神が無作為に与える力ではありません。

 戦士として才があるものに戦士特有のエクストラスキルを、メイジとして才があるものにメイジ特有のエクストラスキルをお与えになられます。

 ならば、女神は何らかの意図を持ってヴァレリア様にこのエクストラスキルをお与えになったということになります。


 『戦神化』…………初めて耳にする名前です。

 名前から推測するに人が戦神と化すスキルなのでしょうか。

 それが比喩なのか、本当に神となるのかは分かりません。

 ヴァレリア様を慰めたアンネリーゼ様はヴァレリア様にそのスキルを使ってみるよう促しました。

 そしてヴァレリア様がアンネリーゼ様の言葉に従いスキルを発動すると、信じられない現象が起こりました。



「『しぇんしんか!(戦神化!)



 スキルが発動した瞬間、一瞬にしてヴァレリア様が暗い闇へと飲み込まれてしまったのです。


「ヴァレリア様!ぐっ!」


 咄嗟にヴァレリア様に向かって手を伸ばすものの、強い力によって弾かれてしまいました。


「ヴァレリア!」

「おねえしゃま!」

「危険です!」


 それに気付いたアンネリーゼ様とリーゼロッテ様が駆け寄ろうとしていましたが、アンネリーゼ様の専属メイド……テラ様によって止められました。


「離して、テラ!離しなさい!」

「なりません!」


 アンネリーゼさまは必死にヴァレリア様を飲み込んだ闇へと手を伸ばすものの、テラ様がそれを許しはしません。

 その間にも肥大化していく闇…………しかしやがて肥大化が収まり、実体のなかった闇が黒い翼へと実体化していき、その翼がゆっくりと開かれていきました。

 そして私たちは信じられないものを目にすることとなったのです。


 透き通るように美しい漆黒の髪。そして男を、いや、女すらも魅了するであろう均衡の整った身体。髑髏の入った眼帯と闇の中でも光を失わうことがないであろう真紅に輝く左目。そしてその美しすぎる顔の頭部には黒い悪魔のような角が生え、肌には複雑な黒い文様が浮かびあがっています。

 手には純白に染まった巨大な剣を携え、機動性を重視したかのような露出度の高い漆黒の鎧を身に付け、背中からは闇色の巨大な一対の翼が広がり、足首に付けられた足枷はまるで罪深き咎人とがびとであることを示しているかのようです。


 恥ずかしながら私はその姿を見て一歩たちとも動くことができなくなってしまいました。

 全身から溢れ出る死の気配。

 かつて感じたことがないほどの恐怖に包まれ全身の震えが止まりません。

 対面していると嫌と言うほど分かります。

 この相手は自分より遥かに上の存在だということが。

 国王陛下よりも……いえ、伝説で語り継がれるどの英雄たちよりも遥かに上の。

 そしてその相手がついに口を開きました。


「一体……どうなってるんだ?」

「おにいしゃま!」


 リーゼロッテ様が嬉しそうに駆け寄り、その足に抱きつきました。


「もしかして…………ヴァレリアなの?」

「母さんの背が小さく…………え!あれ!?なにこれ!?」


 ヴァレリア様を飲み込んだ闇より突如現れたその人は酷く驚いているご様子でした。


「せ、戦神化ってこういうことだったのか!」


 なんというか、所作がヴァレリア様と非常に似ています…………。

 し、しかし成長したというには髪の色まで変わられて完全に別人にしか見えません。


「本当に……ヴァレリア様なのですか?」

「あ、うん。はい、ヴォルドシュミット家のヴァレリアという者です」


 そう言ってその人はお辞儀をしながらステータスカードを両手で差し出してきました。


「あ、これはご丁寧にどうも」


 思わず私もお辞儀をしながら両手で受け取ってしまいます。


 そしてステータスカードに目を落とすとあまりの衝撃にカードを落としそうになってしまいました。



名前 ヴァレリア・ヴォルドシュミット

種族 ダークエルフ

性別 女

職業 神殺しのベルセルクLv315

 筋力 33(+15)

 体力 6(+1)

 器用 11

 敏捷 14(+4)

 魔力 13

 精神 12

 魅力 5

スキル

 覇王剣Lv312

 神脚Lv301

 武人の太刀Lv318

 舞姫まいひめLv314

 ダッシュLv343

 回復魔法Lv4

 心眼Lv120

 神隠れLv120

 Exチェンジウェポン

 Ex死を司る女神の慟哭

 Ex始祖巨人ユーミルの呪詛

 Exヘルブレス

 Ex神化解除

 Cs鬼神化



 な・ん・で・す・か・こ・れ・は!?


 明らかに異常な値を示すレベルとステータス。

 神殺しの称号。

 聞いた事もないスキルの数々。

 しかもその全てが戦闘スキル。

 ダークエルフと書かれている文字がもはや詐欺にしか思えません。

 この方は一体何と戦うつもりなのでしょうか?

 普通ならレベルが100を超えれば英雄となって歴史に名を残すと言われています。

 この見たこともない高レベルのスキルたち……恐らくスキルレベルが上がりすぎて未知の領域までランクアップしているだろうことは容易に想像が付きます。

 さらにその下にはどう見ても危険な匂いしかしないエクストラスキルの数々。鬼神化……既に戦神と化しているのにこの上まだ強くなるというのでしょうか?



「ア、アンネリーゼ様!こ、これを……」


 私は慌ててアンネリーゼ様にヴァレリア様のステータスカードを渡しました。

 アンネリーゼ様もそれを見て息を飲むのが分かります。

 そしてその様子を見ていた国王陛下もステータスカードを覗き込んで一言。


「あれ、スリーサイズはどこだ?」


 馬 鹿 で す か こ の 人 は !


 このような人が国王であることが非常に悲しくなってきます。

 仕事の手腕は非常に優秀な国王陛下ではあらせられますが、こと女性関係に関して非常にだらしがないことは王城でも有名な話です。


 しかし、だからと言って自分の娘……しかもまだ1才になったばかりの幼い娘にセクハラ発言をするなど、良識ある大人のすることではありません。


 当然のように急激に低下する部屋の温度。

 さすがに二度目ということもあり私も慣れてきました。


「ヴァレリア。この人の処理は私に任せて?」


 アンネリーゼ様が満面の笑みを浮かべています。青筋を立てて。


「じゃあ、ご一緒に」


 ヴァレリア様もそれに笑顔で返しました。青筋を立てて。


「そうね、それがいいわ」


 そういって、二人は陛下に向かって構えを取られました。

 このお二人からの同時攻撃を捌ける人が果たしてこの世にいるのでしょうか?


「「一回死んで来い!!!」」


 ヴァレリア様が国王陛下を扉に向かって蹴り飛ばすと、そこへアンネリーゼ様が魔法を放ち、氷によって造られた鎖で国王陛下を扉へと縫い付けられてしまいました。

 さすがは親子。素晴らしいコンビネーションです。


「うう、ただ娘の成長を知りたかっただけなのに……」


 いえ、どう見てもセクハラです。本当にありがとうございました。



 ヴァレリア様。



 このお方がダークエルフの世界だけではなく、世界全土に影響を及ぼすような存在になることは想像に難くありません。


 このような素晴らしいお方にお仕えできる奇跡をお与えくださった神に感謝致します。

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