第61話 ??才 偽者
「おめでとうございます、シノ!」
「ありがとうございます、お嬢様」
戦いを終えると三人が控え室で待っていてくれていた。
キキが腰に飛びついてくる。
「おっと」
「さすがお前様じゃ!全員瞬殺だったのじゃ!」
「まさかあの人数を相手取って服に傷一つつけていないとは……」
「お嬢様から戴いたこの正装を汚すわけにはまいりません。例えこの身に変えても服だけは守ってみせます」
そう言いながらキキの髪に手を入れてもてあそぶと、まるで絹糸のようにするりと手から零れ落ちていった。
「ふあっ、お、御前様、人前でやめるのじゃ」
さすがクイーンケットシーを自称するだけあって素晴らしい毛並みである。
これからもこの毛並みで是非お嬢様のお心を癒してもらいたいものだ。
「ふふっ、シノったらまた冗談ばっかり」
(いや、この男なら本気でやりかねん……)
お嬢様が口元に手を添え笑っているのに対して、アルマ様は呆れたような顔をしている。
なぜだ……。
「なにはともあれ後二戦だ。正直お前が負けるところは想像できないが」
そう。あと二回勝てばベスト4。つまりそこまでいけば個人の武の代表の一人として選ばれることとなる。
そして一回戦のバトルロイヤルが全て終了し、トーナメントに出場するメンバーたちが決定した。
俺がGグループだったから二回戦の相手は……Hグループの代表者。
もちろん俺たちも試合を見ていたがあれはなんと言えばいいか……。
できることならば関わりたくなかったというのが本心である。
「Gグループを生き残ったのはあの怒涛の総がかり戦を無傷で制した謎の男!リリス・エーベルハルト侯爵令嬢に仕える戦奴隷!シーーーーノーーーーー!!!」
司会者によって名前を呼ばれ、大きな声援に包まれる中、俺は再びリングへと入場した。
正直足取りが重い。話が盛りすぎである。
お嬢様やアルマ様、そしてあのキキでさえもが微妙な表情で俺を送り出していた。
「戦奴隷ではないのですが……」
しかし司会者は俺の言葉をスルー。
「そしてその対戦相手は……Hグループを生き残った自称最強!自称英雄!先の大戦を単騎で勝利へ導いたといわれるディープブラッドの生態兵器!シーーーーノーーーーブーーーー!!!というかかの有名な狂った女神が実は人間だったとか無理があるぞう!」
司会者の言葉とともに黒ずくめのローブを着た人がリングの中へと入ってきた。
その黒いローブには真っ赤な文字で『デス女神』とプリントされている。
正直見ているこっちが憤死しそうなほど恥ずかしい。
「クックック、今宵も我が魔剣が血に餓えておる!」
その人物はバッっと勢いよくローブを脱ぎ捨てた。
そして中から出てきたのは……、やたら露出の多い黒い鎧に身を包み、まるで閣下を髣髴とさせるような派手な化粧をした長い髪の……………………男だった。
おい、女神はどこへ置いてきた。
「おい!お前!」
派手な男が俺を指差して声をあげた。
「…………なんでしょう?」
俺は頭痛を抑えながらも、心底気は進まないがとりあえず返事を返した。
「お前のレベルはいくつだ!」
「1ですが」
「クックック、そうか。いや、これは悪いことを聞いてしまったかな。ん?私のレベルが知りたいだと?いいだろう。教えてやる。なんと私のレベルは200だ!!!」
誰も聞いていないのに大仰に言い切った男に会場は沈黙をもって答えた。
盛り過ぎにもほどがある。
これは……、俺が返事をしないといけないのか。勘弁してくれ。
「…………………………………………そうですか」
このままでは話が進まなさそうだったのでしぶしぶ返事をした。
「そうだ!つまり私はお前の200倍強い!それすなわちお前が199人いたとしても私には勝てないというわけだ!」
なんとこの男の中ではそういう計算式が成立するらしい。
どうやら算数はできるようだ。
「それではさらに問おう!お前の武器は何でできている!」
そう言ってニヤニヤとした目つきで俺の持つトンファーを見てくる。
どう見てもお嬢様が用意してくださったトンファーを馬鹿にしてくれている。
だから俺も大人気なく答えてしまった。
「お嬢様の愛で」
俺がそう言って観客席にいるお嬢様へと頭を下げると、その瞬間に観客たちが沸きあがった。
変に目立たせてしまって本当に申し訳ございません。しかし俺が馬鹿にされるのは我慢できても、お嬢様から戴いたものを馬鹿にされることだけは許せないのです。
「なん…………だと…………!?」
男が驚愕している。
一体何を驚いているのだろうか。俺がお嬢様の奴隷であることは先ほどのアナウンスでも分かるだろうに。
「ま、まぁ俺の魔剣もかの有名なミスリル銀で出来ているからそれは引き分けにしておいてやろう」
そう言って男は黒く塗られた大振りの両手剣を見せびらかすようにかざしてきた。
しかし残念ながら負け惜しみにしか聞こえない。
たかがミスリル銀ごときがお嬢様の愛に張り合おうなどと片腹が痛い。
最低でもアーティファクト級の神剣を持って来てから張り合って欲しいものだ。
「クックック。しかしお前のお嬢様もこれからの戦いを見れば真に強き者が一体誰なのかすぐに気づくことだろう!」
そう言って男がお嬢様の方をチラチラと見る。
この男まさか!お嬢様に色目を使おうというのか!
男がお嬢様を見る目がとても気持ち悪い。そしてお嬢様も男に変な目で見られてとても居心地を悪そうにしている。
この男、ゆるせん!
「無駄話はもう結構です。早く始めましょう」
「なんだお前、現実を知るのがこわ……」
「それでは第二回戦第四試合!はじめっ!」
男の言葉を遮って司会者が開始の合図をした。
ナイスだ司会者。
「さぁ、死ぬ気がかかってくるがいい」
俺は男に向かってトンファーを構える。
対する男は高々に声をあげた。
「お前には私が十年前に魔族供を殲滅した究極奥……」
なんだろうこの男は。隙だらけすぎる。もう終わらせていいのか?
「デンプシートンファー」
「義ぶぅ」
男が言い終わる前に俺の拳が男の脇腹を捕らえた。
そして脇腹は完全に露出している。
身体を振りこのように振りながら左右の脇腹にトンファーをしっかりと握りこんだ拳を打ち付ける。
トンファーの重みで反動が増し、拳が深く深くめりこんでいくようになる。
そしてその速度が頂点に達した瞬間、男の顎を狙って思い切り拳を振りぬいた。
骨を砕く感触が手に伝わってくる。
嫌な感触だ。
しかしこれでもう二度とこの男の目にお嬢様が映ることはないだろう。
偽女神 ────再起不能────




