第5話 一才 ステータスカード
「ヴァレリアたちが『元素魔法』のスキルを覚えたっていうのは本当か!」
「ええ、セフィが持ってきた技能書が綺麗に消えたわ。ねぇ?」
「はい、確かに私もそのご様子を確認致しました」
「凄まじい才能だ……!これなら二人には次の王位を任せられるかもしれん!」
「え?おうい?(うえ!?王位?)」
思わず聞き返してしまった。だって俺たちは第四王妃であるお母様の子供ですよ?
第一王妃から第三王妃にも確か腹違いの兄さんやら姉さんやらがたくさんいたはずなのに……。
「そうだぞ。この国じゃ一番力がある奴が王様になるからな」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!(はああああああああああああ!!!!)」
何その戦闘民族?ダークエルフってそんな種族だったの!?
あれ?でも待てよ…………冷静になって考えて見たら…………。
「とうしゃまより、かあしゃまのほうがちゅよくないでしゅか?(父さんより、母さんの方が強くないか?)」
何となくそんな気がする。
母さんから感じる魔力は父さんよりも大きい。
それに家庭内のパワーバランスを考えても間違ってないはずだ、うん。
「うぐっ……よく気付いたな。実は言うと王族は強い者ほど将来好き勝手できるようになっている。そして俺はこの国で最強だった姉貴に無理やり王位を継がされたんだ……」
なんだろう、父さんの背中に哀愁が漂っている。もしかすると触れてはいけない過去に触れてしまったのかもしれない。
「とうしゃま、しょのおかげでかあしゃまとけっこんできたんだから、しあわせものでしゅ!(父さん、そのおかげで母さんと結婚できたんだから、あんたは立派なリア充だよ!)」
そうだよ。いくら仕事が忙しいからってこんな美人の嫁さんを四人も貰ってるなんてどう考えても勝ち組じゃないか!
「だろ!!!」
一瞬にして立ち直る俺の父さん。
ああ、今ようやくこの言葉の意味が分かったよ。
リア充爆発しろ!!!
それにしても不思議だ……。俺は神月忍の人格を受け継いでいるはずなのに、どうもこの人とは精神的にも他人の気がしない。
「でも、おうしゃまになるのは、や!(でも国王になるのは嫌だ!)」
「りーぜも、や!(リーゼも嫌です)」
俺たちは揃って王様になることを拒否した。
「おおきくなったらせかいじゅうをたびちたいでしゅ!(大きくなったら世界中を旅したいんです!)」
「りーぜも!(リーゼも!)」
「あらあら」
そうだ。俺には世界中の魔法を掻き集め、日本に戻って姫と結婚生活をおくるという崇高な使命があるのだ。
国王なんてやっている暇はない。
「お前たち……姉貴と同じことを言うんだな。よし!それなら俺みたいに王位を押し付けられないよう強くなるんだぞ!」
「「はい!」」
俺みたいにって王様なのに随分と自虐的な人だな。目から涙まで流してるし、何だか可哀想に思えてきた…………。
あまりにも憐れなその姿にせめて慰めてあげようと手を出そうとした瞬間、俺の身体はただならぬ妖気に反応して硬直した。
ギギギッと首を動かして妖気の発生源を見ると、嗜虐心を触発されて瞳をガーネットのように妖しく輝かせ、にんまりと笑み浮かべる母さんの姿が目に飛び込んできた。
どうやら俺たち両親の相性はすこぶる良好らしい。
俺は差し出そうとした手をそっと引っ込め、父さんに向かって手を合わせた。
な~~む~~。
「じゃあさっそくステータスを見てみるか!」
「しゅてーたしゅ?(ステータス?)」
父さんはそんな母さんに気づきもせず、我が道を逝く。
ステータスってRPGとかにあるレベルとか能力値とかだよな。アレって見れるものなのか?
「そう、ステータスだ。お前たちが『元素魔法』を覚えたって言うのを確認できる便利なアイテムがあるんだ」
「もう用意していたの?」
「当然だろう!ヴァレリアとリーゼロッテが産まれたその日に造らせたぞ!ほら!ステータスカードだ!王族のは黒いんだぞう。どうだ?格好いいだろう?」
そう言って父さんから黒いカードが手渡された。縁取りには銀の装飾が施されている。
こ、これじゃあまるで最上位グレートのクレジットカードじゃないか!
どこの世界でもブルジョアの考えることは同じと言うことなのか…………。
カードを渡されたものの、特に何も書かれていなかったので裏返して見たり振ってみたりもしたがカードは特に何も変化も示さなかった。
これはどうやって使うんだ?
「それを持って『アナライズ』って言えば、カードに文字が浮かび上がってくるのよ」
なるほど。解説ありがとう、母さん。
そしてカードを渡すだけ渡してにやにやと俺たちを観察している父さん、マジキモイっす。
まぁこの際キモい父さんはどうでもいい。
俺たちはカードを持って母さんから教えてもらった言葉を唱えた。
「「『あならいじゅ(アナライズ)』」」
するとお母様が言った通り、上から順に文字が浮かび上がってきた。
わくわく。
名前 ヴァレリア・ヴォルドシュミット
種族 ダークエルフ
性別 女
職業 ぷりんせすLv1
筋力 2
体力 2
器用 2
敏捷 2
魔力 2
精神 2
魅力 2
スキル
元素魔法Lv1
Ex戦神化
Csかりちゅま
よっわっ!ステータスひくっ!
返せよ、ボクのわくわく返せよ!
しかし一体何なんだこのステータスの低さは。
もしこれがヴァルキリーヘイムなら筋力が低すぎて装備できるアイテムもないし、魔力が低すぎてMPが足らずに魔法も使えないだろう。
しかもゴブリンの一撃で消し飛んでしまいそうな貧弱さだ……。
これは幼児だからか?
もしかしてヴァルキリーヘイムと違ってこの世界では成長に伴ってステータスが増えたりするのか?
ありえる……というかそうじゃなきゃさすがに困るんだけど……。
そしてステータスの下にはスキルが載っている。
元素魔法Lv1。これはいい。しっかり覚えられていたようだ。
だけどその下の…………Ex戦神化ってなんですか?
Ex鬼神化なら分かる。一定時間魔力と魅力が0になりアイテムと魔法と人間の言葉が使用不能になるものの、筋力、体力、敏捷、精神が1.5倍になって全てのSP消費が0になるスキルだ。
だが戦神化なんていう名のスキルはヴァルキリーヘイムの世界でも聞いたことがない。
もしかしてこの世界特有のものだったりするのだろうか?
名前からすると戦闘スキルみたいだけど効果が分からないな……。
それから……か、かりちゅま?Csってことはクラス特有のスキルってことだよね?
カリスマの幼児語ですか?
逆にカリスマが失われれてしまいそうに見えるのは気のせいだろうか。
やれやれだ……赤子のステータスに期待した俺が馬鹿だったよ。どうせリーゼも同じような感じなんだろう。
リーゼの方へと目を向けると、眉をひそめて無言でカードを見つめている。
分かる。分かるぞその気持ち……。
ヴァルキリーヘイムをやっていた俺たちからしたら、このステータスは弱すぎるもんな。
トントンと肩を叩くと、リーゼがこちらを振り向いた。
俺たちは無言のままお互いのカードを交換する。
どれどれ……。
名前 リーゼロッテ・ヴォルドシュミット
種族 ダークエルフ
性別 女
職業 プリンセスLv1
筋力 2
体力 2
器用 2
敏捷 2
魔力 14
精神 10
魅力 8
スキル
元素魔法Lv1
Ex竜化
Cs王族の気品
俺は目の前の現実に言葉を失った。