Side恋する男の子 けっとうじょう 3
入学してから一ヶ月。
遂に俺はいてもたってもいられなくなってしまい、言ってしまった。
「お、俺が勝ったらけ、け、けけけけけ、結婚!結婚してくだひゃい!」
「は?」
不思議そうに俺を見上げる彼女。
やばいやばい!可愛すぎて心臓が爆発してしまいそうだ!
いや、顔は可愛いというより美人なんだが、性格が可愛すぎるんだ!
なんていうか天然系?美人なのに天然が入っているとか最強過ぎる!
その証拠に彼女はクラスを挙げて保護すべき対象となっている。
その絶対的支持力は男女問わず、クラスメイト全員が魅了されている。
つまりこんな発言をしてしまえば……。
ガシッっという音と共に両腕が拘束される。
彼女に抜け駆けして話しかけた者はクラスの影の支配者の支持によって連行され、矯正されることになるのだが……。
「ちょっと待って」
しかしそれは彼女によって止められた。しかもその綺麗な手で俺の腕を掴んで。
こんなことは初めてだった。
今まで誰が連行されようが何事もなかったかのようにスルーしていた彼女が何と今回に限っては止めてくれたのだ。
否応にも胸が高鳴っていく。
何がよかったのか。
結婚という言葉がよかったのか。それとも俺個人がよかったのか。
俺個人のスペックとしては自分では悪くないと思っている。
容姿だって人並み以上だし、頭だって悪くない。魔法の才能もあるはずだ。
しかしその全てが彼女と比べてしまうと平凡以下になってしまう。
クラスの外では無能なんて揶揄されることもあるが、そう言った者は一様に影の支配者によって適度に矯正される。
なぜ適度かというと、矯正が過ぎれば彼女に心酔してしまう恐れがあるからだ。
彼女の本当の魅力を知っているのは俺たちのクラスだけでいい。
それが影の支配者の考えであり、その意見に反対するものはいない。
話が逸れてしまったが、どういう理由か彼女が俺を止めたのだ。
その事実だけで俺は天にも昇る想いだった。
「勝負って何の?」
彼女からしてみれば当然の疑問だったのだろう。
ここでなんで結婚?とか、なんでそんな勝負しなきゃならないの?って話にならないところが実に彼女らしい。
とにかく彼女は『勝負』というものに興味を持ってくれたということだ。
その事実に自然と顔が綻ぶ。
「な、何の勝負でもいいです!」
勝負は何でも良かった。
いや、むしろ勝負なんて口実だ。
例え勝負で勝ったとしても、彼女はそんな取り決めに縛られるような人じゃない。
真に彼女から好意を持たれようとするならば、彼女が彼女自身の価値観で俺を見極めてもらう他ないのだ。
だから俺はそのチャンスが欲しかった。
「身体を餌に勝負……負けなければいいだけ……負けても所詮口約束……決闘入れ食いじゅるり……ふふ、ボクって天才……」
崩れ切った顔でぶつぶつと呟く彼女。
内容が丸聞こえである。
だけどそんな君も可愛い!
「チェーンデスマッチ」
「「「「え!?」」」」
そんな彼女の口から零れた言葉にこの場にいる誰もが耳を疑った。
「チェーンデスマッチがしたい。ルールは時間無制限ありあり。ハンディキャップは力5魔力5速度5視力5」
な、何それ?
チェーンデスマッチ?時間無制限は分かるけど『ありあり』って何だ?ハンディキャップって?
「あの、それってどういう……」
俺の疑問は彼女の仕えているメイドによってすぐに明らかにされた。
「チェーンデスマッチとは、お互いの手首を鎖で繋いで行う決闘です。時間無制限ありありとは武器有り魔法有りの時間無制限完全決着勝負。片方が戦闘不能に陥るか、降参するまで決闘は続行します。そして今回ヴァレリア様にはハンディキャップとしてパワーダウン威力レベル5、マジックダウン威力レベル5、スロウ威力レベル5、ブラインドネス威力レベル5の呪いが掛けられます」
手首を鎖で繋いで戦うってまるで剣闘士みたいじゃないか。
武器あり、魔法あり、ってことはつまり何でもありってことなんだな。
しかも提示されたハンディキャップが尋常じゃない。
そんな状態でまともに闘えるっていうのか?
いや、闘えるんだろうな、彼女なら。
普段彼女の妹と繰り広げられている戦闘行為は誰の目から見ても学生の域を遥かに超えている。
しかしこれは俺にとっては最高のチャンスだ。
勝ったところで彼女を縛ることができないのは分かっているが、それでもそれが何かのきっかけになるかもしれない。
それに。
「ダメか?」
こんな縋るような視線を彼女に向けられて断ることのできる男がこの世にいるだろうか!いやいない!
大人っぽい表情の中に幼子のようなあどけなさを感じる。
か、可愛い!可愛すぎる!
彼女のためならば世界を敵に回したっていいくらいだ!
「ば、ばっちこいです!」
と、彼女の期待に応えると、彼女は無邪気に笑顔を浮かべて良く通る声言った。
「その心意気や良し!」
やばい。この表情を見れただけでもうこの世に悔いがなくなってしまいそうだ。
だけどここで満足しちゃダメだ。
彼女に認めてもらうまでは。
それから彼女とともにクラスメイト全員という大勢のギャラリーを引き連れて簡易決闘場へと向かった。
クラスメイトたちから殺意がバシバシと飛んでくる。
決闘が無事に終ったとしても俺はもう駄目かもしれない……。
決闘場に着くと彼女の妹によってチェーンの付いた手枷が嵌められる。
そのチェーンを視線で辿ると、彼女の腕がそこにはあった。
彼女と鎖で繋がっている。
そのことにこの上ない喜びを感じてしまうほどに彼女のことが好きだ。
そして彼女のメイドから彼女へとステータス低下の呪いが掛けられる。
彼女は呪いが掛かったのを確認すると、彼女の愛鎌『デスサイズ』を召喚魔法によって呼び寄せ、俺の方へと突きつけてきた。
彼女が『デスサイズ』と痛々しい名前で呼んでいるそれがただのシルバー製の大鎌であるということは周知の事実である。
そして何の冗談か、彼女は自分をサマナーと名乗っている。
いや、彼女のことだからきっと本気なんだろう。
世間一般のサマナーとは明らかに一線を画しているが。
でもそんなところも彼女の魅力をより引き立てている一因なのかも知れない。
「ボクの名はヴァレリア・ヴォルドシュミット!誇り高きダークエルフとして誰からの挑戦であろうと受けて立つ!ボクが欲しいと言うのであれば自らの力で掴み取れ!!!」
凄くノリノリである。
恐らくこのシチュエーション、そしてこれから始まる決闘が嬉しくて仕方ないんだろう。
そんな子供っぽいところも魅力的だ。
ならば俺も空気を読もう。
彼女に少しでも気に入られたいという打算を胸に。
「お、俺はダレル・マックフリース!ヴァレリア様は俺の嫁を合い言葉に、いざ尋常に……勝負!!!」
ちょっと噛んでしまったのはご愛嬌。
だってこんなに注目されて、しかも彼女を目の前にして平静を保てるほど俺は経験を積んでいるわけじゃない。
そして、俺にとって初めての決闘が彼女のメイドの合図とともに始まった。




