第26話 十二才 父、最期の抵抗
「父さん」
「嫌」
「とうさ…」
「ダメ」
「と……」
「イ・ヤ・だ!」
「子供かあんたは!」
国王陛下の座する玉座の間。
今日も父さんは臣下たちの前だというのに人目も憚らず子供のように駄々をこねている。
その原因はボクたちの進路にあった。
「いい加減諦めて認めてくださいお父様」
「ダメなものはダメ!絶対ダメ!そんなことされたらお父様死んじゃう!」
リーゼが援護するも、完全に駄々っ子になって暴れている。いい大人がそんなことをしても気持ち悪さが際立つだけで可愛さの欠片すら見当たらない。
これはもうシルヴィアに頼んで浄化して貰った方がいいんじゃないか?
いや、シルヴィアが言うにはエカテリーナ様ですら浄化できないほどの変態らしいからな、父さんは。
ほんと、こんな父親がいてよくまともに育ったものだよボクたちは。
「リア姉さま」
シャルがくすくすと無邪気に笑みをこぼしながら言った。
「何だい?」
「今のお父様、リア姉さまにちょっと似ています」
「なん……だと……!」
そう言って再び口元に手を当てて上品に笑うシャル。
ハァハァ……。
こんなに可愛く育ってくれて、お姉ちゃん嬉しいよペロペロ。
でも、でもね。こんな変態と一緒にされたらお姉ちゃんショックで死んじゃう!
「シャルは人を見る目がありますね。お姉様は安心しました」
「えへへ」
「うぉい!」
「シャル。見て分かる通り、お父様とお姉様ではまともな話し合いにすらなりません。では、どうすれば良いか分かりますか?」
「お母様にお願いします!」
「正解です。しかしお姉様を手に入れたければ、いずれはお母様にように自分で調教できるようにならなければいけませんよ」
「はい!」
ちょっ!教育的指導!
お前はシャルに何を吹き込んでるんだ!
「というわけで、お母様お願いします」
リーゼに言われてボクたちのやり取りを後ろで見守っていた母さんがゆっくりと前に進み出た。
さすが母さん、一挙一動に無駄に凄みが感じられる。
「あなた」
「ダ、ダメだぞ!今回だけは絶対ダメだ!いくらお前の願いであろうとも聞くことはできないからな!」
母さんの威圧を受けて狼狽してしまった父さんを見て母さんは嘲笑う。
ひぃ!こわい!
「願い?どうして勘違いしてしまったのかしらこの雄は。今まで私があなたに何かをお願いしたことが今まであったかしら?」
「あ、え……」
「これはお願いじゃなくて命令よ。そもそも私がいちいち口を開かずともあなたは私の望みを汲み取って叶える義務が理解していると思っていたのだけれど…………、それを怠ってわざわざ私をこんなところへまで出張らせるだなんて、ね」
そう言って目を細める母さんから異様な怒気が漂ってくる。
もう完全に雌雄は決している。
もういい。あんたは十分立派に戦ったよ父さん。
だというのに無謀にも立ち向かおうとする父さん……。
「ええっと……だ、だけどだね!」
この無謀さだけは素直に尊敬できる気がする。凄いぞ父さん!そういうのを地球の日本ではカミカゼって言うんだぞ!バンザーイ!!!
「だけど……ですって?私は口答えする雄と番った覚えはないのだけれど」
分かります。燃料切れの特攻だったわけですね。
それ以上口を開けば、容赦なく切り捨てられると言うわけですね。
「あぁ……うぅ……」
「あら、可愛い鳴き声ね。何か言いたいことでもあるのかしら?」
父さんがぶんぶんと必死に首を縦に振る。
「私は二度も同じことを言わせる無能がエルフの次に嫌いなの。それが理解できたのなら口を開くことを許可してもあげてもいいわ」
「サーイエスサー!」
玉座から直立し、敬礼をする父さん。
それを見ていたリーゼたちは関心した様子だ。
「いいですかシャル。これが私たちの目指す形です」
「はい!シャルもお母様みたいになりたいです!」
そう言って目を爛々と輝かすシャル。
これはよくない。この流れは非常によくない。
ボクにはこの流れを断つ義務がある!
「リーゼ!シャルに変なことばっかり吹き込むな!」
「お姉様。それを言うなら私じゃなくてお母様にでしょう?」
ははっ、そんなこと口が裂けても言えか。
母さんを前にすれば、ボクの義務なんて裸足で逃げ出すこと請け合いだ。
「で?」
ボクたちのやり取りを余所に母さんは父さんに言葉を促した。
「最高品質の生活環境を整えさせていただきます」
「よろしい」
涙を流しながら苦渋の決断をする父さん。
満足そうに微笑む母さん。
これが母さんたちの……いや、ダークエルフの標準的な夫婦関係というものだそうだ。
「あの……たまにはみんなに会いに行ってもいいでしょうか?」
「外交的な問題を失くすことができれば、ね」
「よ、よし!外交官!今すぐ周辺国へ圧力を掛けるぞ!全力でだ!そのためには戦争も辞さないと先方にも伝えておけ!」
む、無茶苦茶だ。
だが、こうしてボクたちの自由都市アムンへの引越しが決定した。
世界最大の学校機関『シルフィード』へと入学するために。




