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GO TO END ~女神は才能を逃してくれない~  作者: しぐれのりゅうじ


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6話 霜月三葉

 日曜日は三葉と合うことになっていた。金曜の放課後に創作のネタ探しで彼女の家に行くと約束をしていたのだ。連日、彼女たちに会っていて、完全に俺の日常が彼女たちに侵食されている気がして頭が少し重い。

 午後三時俺は三葉の家のインターホンを鳴らした。

「はい」

「来たぞ」

「すぐ行く」

 その言葉通り、五秒くらいでドアが開かれた。玄関から顔を出した三葉は平静とした顔をしているが、少し息が上がっていた。

「別にそんな急がなくてもいいだろ」

「理由があるの。とりあえず入って」

「おう。お邪魔します」

 玄関に入ると手始めに靴と消臭剤の香りに出迎えられる。中は変化が少ないようち思えるが、木製の靴箱は昔よりも低く感じた。その上には何故か三つ葉のクローバーが額縁に飾られていたり、双葉さんが毛筆で書いた『自由』という文字が飾られている。その隣には姉が中学生で妹が小学生の家族写真があり、そこでは無邪気な笑顔の三葉がいた。時の流れは恐ろしい。

「今、失礼な事考えなかった?」

「いや? 別に?」

「……仕方ないでしょ。成長して変わったのよ」

 三葉はそれを眩しそうに、羨むように遠い目で過去の自分を見つめる。

「まぁ別に、今の感じでもいいと思うけどな」

「え……」

「王道から外れている方が味があるんだよ。ちなみに俺はそっちの方が好みだ」

「……変なの」

 肩をすくめて苦笑と微笑の間くらいの、気持ちを顔に出す。肯定されたからか寂しそうな感じはなくなっていた。

「こっちよ。まぁ部屋の位置は変わってないから覚えるでしょうけど」

 スリッパを貸してもらい二階へと上がる。右へと通路が伸びて、一番奥にあるのが三葉部屋。ドアの上には名前の札が書いてある。その手前がお姉さんの部屋となっている。

「そーっとでお願い」

「どうしたんだ?」

「双葉に見つかると面倒だから。急いできたのもそれが理由」

「りょ」

 絡まれてそれにため息をつきながら避けようとする姿は容易にイメージ出来た。俺にも女神とかいう双葉さんとタイプが近い奴を知っているので、その気持ちが痛いほどわかる。

 わざと音を立てて困らそうとする思考のノイズは取っ払って、三葉と共に忍者の如く息と気配を殺して進む。

 三葉の部屋まで三つ扉の前を歩く必要がある。一つ、二つと順調に通り抜けて最後の関門の前に。一度息を整えてアイコンタクトを取る。何だかそこに一体感があり、それは互いに認識しているのか同期するように口元が緩む。コソコソとして何かをしているのは、昔に戻ったみたいだった。

「……っ」

「……よし」

 難なく突破。だが、最後まで油断しまいと忍び足は止めず、目的の扉に。そして三葉が一度後方を確認。動きはない。ドアノブに手をかけてゆっくりと回し、そして慎重に開けていく。

「……!」

 ガチャリ、前から聞こえるはずだったその開閉音は背後から鳴った。瞬間的に振り返るとそこにはドヤ顔の双葉さんがいて。

「ざーんねんでしたっ。私のみっちゃんセンサーからは逃れられないよっ」

 お見通しと指差してくる彼女は白の生地の上に『妹愛』と書かれたシャツと黒の短パンというラフな格好でいた。

「……チッ」

「でもまさか、君といるなんて。二人で隠れて何をしようとしてたのかなー?」

 双葉さんは何を想像してるのかニヤニヤと疑問を投げかけてくる。

「お邪魔してます……一応言っておきますけど、変なあれじゃないんで」

「本当かなー? やっぱり付き合ってたりして」

 完全に俺達をからかうモードに入って、こちらの反応を楽しんでいた。

「いや、違くてですね」

「その動揺した感じ怪しいなー。本当の事を言っちゃいなよ!」

「マジでないんで。これは、同好会活動でですね……」

「という理由で二人きりになろうとしてるんでしょ」

「ああもう!  うっさいわね! 付き合ってようが付き合ってなかろうが、あんたには関係ないでしょ!」

 我慢の限界が来たらしく三葉が声を荒げた。顔は真っ赤で、それは羞恥なのか怒りなのかわからない。

「姉としては大好きな妹の男女関係は気になっちゃうんだよー。変な男だっているからね。まぁ英人くんなら安心だけど」

「もういい。ほら、さっさと入って」

 もう部屋の扉を開けていて、中に行くよう彼女の細い手に掴まれ引っ張られる。

「彼氏を連れ込んで何をするのかなー?」

「……お前からも否定をしてくれ」

「別にいい。話すだけ無駄」

「え」

 何故か否定しない三葉に、双葉さんは面白そうにする。

「何かあっても、聞こえないふりするからあんし――」

 言い終わる前にバタンと強く閉め、鍵をかけた。そうすると、三葉は大きなため息を一つ。

「……何で付き合ってないって否定しないんだよ。絶対俺までいじられるじゃん」

「ちょっと頭に血が上っていたの。それにあれ以上話したくなかったし」

 そう言って一日が終わったレベルに疲れたように、バッグを置いてベッドの端に腰掛けた。

「遠慮しないで寛いで。今日は親も出かけてるから」

「ああ」

「……い、一応言っておくけど今の変な意味で言ってないわよ?」

 さっきの姉の発言のせいか変な妄想したらしく焦ったように忠告してくる。

「わかってるって。そんな警戒しなくてもいいだろ。昔とかお前の部屋で遊んだりしてたわけだし」

 三葉は言葉を補足すると、ドツボにはまってさらに顔を赤くさせていく。こちらまで変な意識をしてしまいそうだ。

「……ねぇ、それって私の事、小学生の頃と同じ風に見てるってわけ? 女として見てないって事?」

 今度はいきなり怒り出した。甘ったるい空気感が一変する。

「いやいや、そうじゃないが」

「じゃあ、そういう目で見てるって事? ……変態」

「どうしろってんだ」

 一体どういう選択肢が正解だったのか。問の時点でキレられるか軽蔑的な目で見られるかの二択しかなかった。

 俺は気まずさを和らげるように、部屋を軽く見回す。昔とは少し変わっているものの、綺麗に整理整頓されているのは同じ。壁は清潔感のある白で、床はフローリング。部屋の入口のすぐ左手には勉強机があり、その対岸にベッド。その二つの真ん中には小さめでふわふわしているラグが敷かれている。ベッドから右手にはクローゼットがあり、その向こう側には本やアニメ系のグッズが置かれた棚があった。入った瞬間にはミント系の爽やかな香りを感じたのだが、ベッドの頭部分にリードディフューザーがあり、それから発生しているようだ。

 俺はとりあえずそのラグの上にあぐらの姿勢で座る。

「それで、ネタ探しって何をするつもりなんだ?」

「その前に飲み物を持ってくるわね」

「双葉さんと会うんじゃ?」

「それでもよ。さっき声出して喉乾いたし」

 そう力のない足取りで出ていった。他人の部屋に一人きりにされると、昔は頻繁に来ていたとはいえ、居心地の悪さがあった。

「……これは」

 手持ち無沙汰に耐えきれず、棚の方を眺めていると、一つの漫画が目に止まる。それは『メタルマスクグライダーエックス』の小説版だった。映像作品の未来の物語が描かれている。七年前くらいに出たもので、手に入れられていなかったので、思わず取り出してページを開いた。

 ラグの上に再び座って早速読む。一ページ目から、急展開で一気に物語に引き込まれて、どんどんページをめくっていく。姿勢も無意識に長期戦のためにうつ伏せの態勢になっていった。

「お待たせ……って寛いでとは言ったけど、く過寛ぎ過ぎでしょ」

「ちょっと借りてるからなー」

「どうぞ、ご勝手に。麦茶持ってきたから」

「サンキュー」

 緑のプラスチックのコップには氷と麦茶が入っていた。一口飲むと、スッキリとした味わいが喉を通れば、昔と同じような味に懐かしさが蘇った。

「はぁ……」

「どうした、また絡まれたのか?」

「そうよ。一階に降りたらあいつもいて、あのムカつく顔で『邪魔なら出かけようかとか』言ってきて」

「肯定したらいない間何していたのか、からかわれるもんな」

「そう。本当は出て行って欲しかったのだけど、無視するしかなかったわ」

 どっちにしろ遊ばれるという、二択があるようでない選択肢の出し方だ。そういや、さっき三葉に似たような事されたような。これも血の繋がりだろうか。

「何を読んでいるの?」

「これだよこれ。どうして持ってるんだ?」

「中一くらいの時にね。あんた、そういうの昔から好きだったでしょ。古本屋で偶然見つけて、気になって何となく買ったの」

 その時期はまだ三葉との関わりがあった。その話は初耳だが。

「って、結局俺を部屋に連れ込んで何をしたいんだ?」

「あ、あんたまで……止めてよね。かなりストレスが溜まってるのにこれ以上されたら、しばらく口を利かなくなるから」

「そ、そうか」

 思ったよりも可愛らしい発散だった。暴れるとか発狂とかすると思ったのに。

「じゃあ本題に戻してってと。やる事を聞かせてくれ」

「……別に特にないわ」

「え」

「帰る時間まで自由に過ごしていて。その、昔みたいに」

 よくわからない提案だったが、きっと彼女なりに考えがあるのだろう。実際、この本の続きも読みたかったし、丁度いい。

「それでいいなら……わかった」



 部屋には紙が捲られる音と微かに聞こえるスマホのフリック音、たまに動画の音が響いていた。

 俺と三葉は一緒の空間にいるだけで、一人の世界に入っている。俺は本に集中する事にしていて、最初こそ、何を目的としているのか考察をしていたのだが、もう一度本の世界に引き込まれ、ひたすら文字を追っていった。

 それは昔も良くあった状態で、一人でもいいはずなのに、何故かどちらかの部屋にいながら、ソロで遊んでいた。その緩い繋がりは、懐古補正も相まってとても心地良い。物語と同じで終わって欲しくないとさえ思えて。

 やはり俺は安定と安寧を求めているのだ。高校から先の人生も不安だらけのサッカーもいらない。

 そんな時間を過ごしていると、ふと三葉が俺に声をかけてきた。

「ねぇ、久しぶりに一緒にゲームしない?」

「いいけど、何やるんだ?」

「これで」

 三葉は俺を跨いで机にあったゲーム機を手に取った。一つの画面と左右に二つのコントローラが付いている人気のやつだ。

「はい、こっちを使って」

「りょ」

 右側のABボタンがある方のコントローラを手渡される。

「じゃあちょっと横に行ってくれる?」

 右の机側に寄ると、俺と同じ体勢で隣にやってきて、前を向く視線の先に画面を置いた。このゲーム機の裏側には立たせる支えが備え付けられている。

「何か変な感じがするな」

「……私も少しわかるかも」

やはり同じ感覚を持っているらしい。こんな風にしていたのは小学生の頃で、次にそうなったのは高校生。時間を跳躍した、そんな感じがあった。

「それじゃあ、これをするわよ」

「昔のリベンジしてやる」

「うふふっ、意外とゲームは下手だものね。同じくボコしてあげるわ」

 そうして、俺達はまずレースゲームをする事になった。コースにあるアイテムを取りながら一位を目指しレースをする。

 俺と三葉の力量差は結構あり、ほとんど彼女には勝てていない。だが、それは過去の事だ。特に練習をした訳では無いが、年齢を重ねて成長をしていた自分を見せる時。俺は全神経を集中してスタートした。

「はい、私が一位。あんたは?」

「五位……だが?」

 普通に負けた。アイテム運とかじゃなくて、シンプル実力で。

「もう一回だ。少し腕が鈍ってたんだよ」

「いいわよ」

 全四レースで最終順位が決定する。ここから挽回すればいい。俺は気を取り直し、次のレースへと臨んだ。

「余裕ね。独走状態でつまらなかったわ、七位さん」

 しかしながら歯が立たず、結局全レースで三葉に負けて、その上ほとんどが下位でコンピューターにも勝てなかった。

「はい、終わり。残念だったわね、最下位で」

「あぁぁぁ! って痛え!」

 悔しすぎてつい右にゴロンとしてしまって、思いきり椅子に体をぶつけてしまった。

「あははっ。もう、笑わせないでよ」

「そんなつもりはねぇよ……」

「本当、馬鹿ね」

「うっせ」

 非常に腹が立つのだが、三葉が心の底から笑っていて、そんなレアでくしゃっとした表情に毒気が抜かれてしまう。

「……そんなに見つめて私の顔に何かついている?」

「いや、何でもない」

 普段は無表情で元々持ち合わせている棘のある美しさが全面に出ているが、笑顔は無邪気でどこか幼さがあり、とてもギャップがあった。その落差を味合うのは初めてで、少しドキッとさせられる。

「他にもやらない?」

「いいぞ。次は負けない」

 様々な理由で三葉に負けっぱなしなのは納得できない。俺はそれを了承して再戦する。

「……はい、全戦全勝」

 それから様々なソフトをプレイしたのだが、どれも三葉の圧勝で、段々と闘争心が失われていき、ついには諦めた。

「私の完封勝利ね」

「そうだな」

「……何か嬉しそう?」

「気のせいだよ」

 悔しさを感じている中で一つ思い出したのだ。彼女といるのは何が楽しかったのか。サッカーというゲームにおいて敵なしだった俺にとって、勝てず挑戦し続けられるというのが面白かったのだ。その魅力は、ループによって全てが想定通りの世界で生きていた俺にとって、強い光を放っていて、手放したくないと思ってしまった。

「……ねぇ今度は協力しない? このゲームで」

「いいぞ、やろう」

「ふふっ足を引っ張らないでよ?」

 それから俺達は仲間として遊べるゲームをいくつかプレイした。競争とはまた違う楽しみがあり、穏やかな時間が高速で流れた。




「……そろそろ帰る?」

「だな、暗くなってきたし」

 夢中になっていると辺りは藍色に染まっていた。後ろ髪引かれるが終わりの時間だ。幸せな疲労に浸りながら、俺は帰り支度を済ませ、見送ってくれるというので三葉と部屋を出る。道中は、双葉さんとエンカウントする事なく、無事に玄関まで来られた。

 外に出る前にふと、三つ葉のクローバーが目についてその疑問を彼女にぶつける。

「そういや、三つ葉のクローバーが飾られてるんだ?」 

「私が好きだからよ。これ、まだあんたに見せてなかったわね」

「……マジか」

 そう言うと、三葉はポケットから緑色がぎっしり詰まったビニール袋を取り出す。それをよく見ると、全て三つ葉のクローバーで、その量と密度に思わず引いてしまう。

「どう凄いでしょ? 私、三つ葉のクローバーを集めてるの」

 その緑の群集が詰まったものを誇らしげに見せつけてくる。その子供っぽさを隠さない様子の彼女は久しぶりだった。

「三葉だけに?」

「ちょっと腕出して」

「え……って痛い痛い!!! つねるな!」

「あんたが悪い」

 一瞬で表情が凍りつき殺気をまとって、ついその圧に負けて右腕を差し出すと思い切り肌をつまんでねじってきた。痛みから解放されると少し赤くなっている。

「いっつ……俺も悪かったけどさ……何でつねるんだよ」

「本当はスネを蹴ってやろうと思ってたんだけどね。流石に足にやるのは気が引けたわ」

「そ、その配慮が出来るなら……痛めつけるのも止めて欲しいんですけども」

「馬鹿な事を言わなければいいのよ」

 まぁ正直、この未来は口にした時にはわかってはいた。気遣いを含んでつけられるのは意外だったが。どうやら、俺が骨折して苦しんでいた件もしっかり覚えていたらしく、微かな嬉しさが込み上げた。痛いけど。

「そうっすね、すんません。それで、何でそんなに集めているんだ?」

「好きだから。それ意外に理由がいる?」

 確かに俺だって何か意味があって特撮グッズを集めている訳じゃない。野暮な質問だった。

「それじゃ、どんなところがいいんだ? だいたい四つ葉の方が主流だろ」

「わかっていて聞いてる? 当然、主流じゃないからだけれど」

「逆張りか、お前らしいな」

「端的に言えばそうね……って英人だってわかるでしょ」

 俺はノータイムで首肯した。それと同期するように満足げに三葉も頷く。そして、手に持つ収集物をしげしげと見つめる。

「この子達は沢山存在していて色々な所で目にする。けれど四つ葉は皆が高く評価していて希少性がある。だから視界に入った多くの三つ葉を手でどけて四つ葉を探そうとする。でもね、ありふれてるからといって本当の意味で三つ葉を見ている人はほとんどいないわ。こんなにも綺麗で可愛らしいのに」

 三つ葉のクローバーに注ぐ視線は、どこか儚げで確かな愛情がそこにあった。瞳の奥には深い悲しみのようなものが見て取れて。

「皆、光り輝くものばかり目で追っていくのよ。似ていても煌めいてなければ誰も見てくれない。……私だけでも目を向けてあげないといけないの」

 彼女は口にしないが、きっと自分自身の境遇を重ねているのだろう。姉妹揃って美人だが、姉の方が明るく愛嬌があり、多くの人の視線を奪っていた。それは家族も含めて。

「……つい話し過ぎたわ。そんなつもりなかったのだけど」

 はっとしたようにそう言って、クローバー袋をポケットに仕舞う。少し動揺しているのか髪の毛を弄りだす。

「好きだぞ」

「ほぇ?」

「お前の考え」

 三葉は裏返った声を出すと少しの間硬直し、腕もだらんと下がる。目を何度かパチクリしてから、再起動したかのようにプルプルと震えて、耳も赤くなっていた。

「へ、変な言い方しないでよ!」

「悪い悪い。でも、本当に良いと思う、ひねくれててさ」

「それ、褒めてる?」

「もちろん。最高、大絶賛、スタンディングオベーション」

「どんどん怪しくなるわね……」

 こんなにも素直に褒めているのに、どうして疑惑が深まるのだろう。実に不思議だ。

「けど、やっぱり私と近い感性を持っているのね」

「幼なじみだからかもな」

「それ関係ある?」

「似た環境で育てば、そうなるんじゃないか? 知らんけど」

「適当ね……」

 呆れたような苦笑をするも、どこか嬉しそうでもあって。俺もまた似た考えをしていると知り、心の距離がより近づいたような気がした。

「あ、長話してごめんなさい。今日は……ありがとね。色々参考になったわ」

「俺から聞いたからそれはいいんだが、そういや、そういう目的だったな。大丈夫だったのか?」

「ええ。求めていたものは得られた」

 とても満足そうでいる。それに一安心して、俺は靴を履いてドアを開けた。

「ねぇ、また遊びに誘っていいかしら。その……普通に」

「……暇ならな」

 本当はもっと前向きな言葉を言いたかったのだが、そのまま出すことはできなかった。三葉は素直になってくれたというのに。これもまた敗北だ。

「約束よ?」

「ああ、約束」

「また明日、英人」

「また明日な、三葉」

 そう言葉を交わして俺は外に出る。すると、夜のパリッとした冷気が体を撫でた。

 けれど楽しさの残滓はそれに消されることがなく、家に帰るまで残り続けた。

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