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GO TO END ~女神は才能を逃してくれない~  作者: しぐれのりゅうじ


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3話 同好会の日々

 三葉もメンバーとなった数日後、ついに同好会設立が正式に認められ、その日の放課後からついに俺達の活動がスタートする事になった。といっても何か特別な事をするわけでもなく、それこそレポートや何らかの成果物を出すわけでもなかった。同好会の活動と銘打っているが、実態は空き教室を使って友達とだらだらと過ごしているだけだ。まぁ、一応主人公に関連したものを見たり読んだりはしているのだが。

 ただ、だからだろうか、俺は毎日三人と一緒の時間を送っている。天堂さんと三葉もすぐに打ち解けていて、和やかなムードで。何周もしている中で友人と放課後を過ごすのも飽き飽きしていたのだが、花達といるこの空間は新鮮で居心地が良かった。なので今のところはフェードアウトする予定は延期して、同好会のメンバーで居続けている。

 もちろん、いつも同じような事を花達がするわけでもなく、時々彼女達は面倒なイベントを起こす事があった。

 それはいつものように部室で各々が適当な席に座って、活動の準備をしているある日の事。

「あのあの。霜月さん、今日は何をするか決まってます?」

「少し思いついた事があってね、小説を書くわ」

「いいですね! ボクは、『メタルマスクグライダー』シリーズの設定集を持ってきたので、それを読み込もうかと」

 耳にそんな話が舞い込んできて、瞬間的に花の隣へ座る。

「まじか。それ、俺にも見せてくれ」

「もちろんです。けど、その代わりと言ってはなんですけど」

「な、なんだ?」

 ひどく嬉しそうに口角を上げる花を見ると嫌な予感がして撤回したくなる。

「ボク、一つやりたい事があって。師匠を取材させてください」

「なんだそりゃ」

 斜め上の提案で感想がつい口から出てくる。

「ふふーん。師匠を研究して主人公を知るのです!」

「俺は主人公じゃないんだが」

 意味がないと分かっていてもそう否定する。研究というのは主人公同好会っぽいが、その対象を俺にしないで欲しい。

「あたしも先輩の観察をします!」

「天堂さんまでかよ」

 花を挟んで天堂さんが席に座って、参戦してくる。ちなみに、三葉は少し離れたところで、こちらに気を取られることなく、頭を捻りながらスマホで小説を書いていた。

「……で、取材って何するんだ?」

「まずは普段の師匠を見たいので普通にしてて良いですよ」

「あたしもそれで!」

「あ、ああ。それなら……」

 だが、俺はその後すぐに肯定した事を後悔したのだった。活動時間中、二人の女子から常に至近距離で見られ続けるのだから。

 それも、その日だけじゃなくて、その日からずっとなのだ。この時だけは、少しだけ時間を戻して欲しいと女神に祈ってしまった。

 観察されるだけの日々は少しの間続いた。だが、それだけ終わるはずもなくさらに俺に対する負担が増える事になる。その日は、いつものように両隣に観察者の二人が座っており、身動きを封じられて観察をされていたのだが。

「じー……」

「えっと、天堂さん?」

 花から借りたメタルマスクグライダーの設定集を読んでいると、左隣からスマホのカメラがちらついていた。

「もしかして撮ってる?」

「はい!」

 元気よく悪意なく、純度百パーセントの返事だった。

「……なぜ?」

「推し活兼同好会の活動です」

「いや盗撮!」

 天堂さんは意外そうに瞳をパチクリさせる。

 全く、ただただ観察をしているだけの先輩を見習って欲しいものだ。そう振り返ると、花の顔の前にもスマホがあった。

「……あ」

「お前もかよ」

 こいつらはやはり駄目だ。また離れたところにいる三葉を見ると、スマホは持っているもののやはり小説を書いている。だが、順調ではなさそうで眉をひそめて画面とにらめっこしていた。

「八鬼先輩、撮影の許可ください。もちろん個人で楽しむだけなんで!」

「ボクからもお願いします!」

「……ち、近い」

 両側から乗り出してきそうな勢いで迫られる。何度もこの手で了承させられてきているのだ、今回こそは否定しなくてならない――のだが。いつもの二倍の期待と不安で揺れる子供のおねだりのような訴求力はあまりに強くて。

「……わ、わかったから。まずは離れてくれ」

 そう言うと素直に離れる。俺は大きく息を吸って酸素を体内に取り込んだ。

「先輩、いいんですか!」

「ただし変な風には使うなよ」

「もちろんです! ありがとうございます先輩! これ、お礼の『天堂』の割引券です!」

 やはりそう素直に喜びを表現されてしまうと、もっと断りづらくなる。だが、今回はお願いを聞くだけでなく割引券を得た。これは等価交換をしたということ。つまり決して彼女達のおねだりに負けたのではない。

「師匠、ボクもオーケーですよね? ……って何で手を出すんですか」

 天堂さんだけとはいかず、俺は花に何かを出すよう掌を出した。しかし、何を渡すでもなく花は俺の手を優しく握りしめてきて。

「今出せるものはないんですけど……その可愛い可愛い一番弟子のワガママという事で……」

「駄目です。撮影は天堂さんだけという事で」

「そんなぁ! じゃ、じゃあ何か欲しいものとか」

「『電神』の限定ベルトくれるなら考えても良いぞ」

 通販の限定品で、サイトにアクセスが殺到して、買うことができなかったベルトだ。それなら話は変わってくる。

「持ってますけどそれは流石に……うぅ残念です」

  結局撮影は天堂さんのみとなった。流石に二人はうっとおしい。それに、しっかり断った事により、チョロい人間でもないのだと示せた。次の日から、観察に撮影が加えられる事になる。そしてすぐに、また一つ付け足されるようになって。

「師匠、では約束の取材をさせてもらいますね」

「あ、ああ」

「姉弟子、カメラの準備オーケーです」

「マジの取材みたいになってきたな……」

 観察だけは飽きたのか、花が唐突にそう告げた。エアマイクを向けて、花の後ろから天堂さんがカメラを構えている。

 そこから一問一答が開始された。

「えっと、まず好きな食べ物を教えて下さい」

「そんな初歩的なところから行くのかよ……肉じゃがかな」

「ふむふむ。では、好きな教科とかは?」

「まぁ体育だな。体を動かす方が性に合ってる」

「じゃあ将来の夢ってあったりしますか?」

 普遍的な質問ではあるが、俺は少し答えに窮してしまう。

「……特にないな」

 高校の三年間をリピートする中で、先の事を考える思考力は衰えていた。それに絶望感はなく、変わらないという安寧、ぬるま湯に浸かった結果だ。

「こういう人になりたいみたいなのとかは?」

「このままでいい」

「つまり、既に完成されてると」

「いや、そういうわけじゃないんだが」

 自分は完成されている、なんて今の状態でなくても軽はずみに言えなかった。上には上がいる、そんな世界を俺は見てきた。

「……じゃあ今のまま成長するって事ですか?」

「まぁ、それでいいや」

 これ以上深掘りされたくなくて、俺は適当な結論を出した。

「か、カッコいいです! 強い自分があって、さらに向上心も持っているなんて!」

「あたしも尊敬です! 神童と皆から褒められてたのに驕らず上を目指して。……やっぱりあたしの憧れです」

「……っ」

 二人から火傷しそうな程の熱い視線を浴びせられる。それが、現状の俺にはあまりに寒暖差があり、耐えられそうになかった。あの周囲から注がれる期待のようで、逃げたくなふ。

 しかし、二人は気づいていないのだろうか、俺の矛盾に。冷静に考えれば向上心があるような奴が、未だにサッカーを再開していないのはおかしいだろうに。

「それじゃあ……師匠って恋愛経験ってあります?」

 花は少し言いづらそうにしながらもそんな質問をしてきた。その瞬間、空気感が変わり三人から一斉に視線を送られる。

「……なくはないな」

「え……ちなみにそれはいつ頃で?」

 さらに浮ついたような変な感じになってくる。

「去年くらい」

「ま、マジですか八鬼先輩! そ、それはどこの女ですか!」

「お、女って……まぁ他校の奴だよ。もう別れたし、覚えてないだろうけどな」

 本当はループしていた世界線の話だ。繰り返しの中で、たまに付き合うという事もあった。当然言えるはずないが。

「嘘ね」

「っ」

 いつの間にか近くにいた三葉の鋭い指摘が入り、肩が少し跳ねてしまう。

「昔から嘘を言う時、左腕をしきりに触るのよ」

「余計な事を……」

「ほほう、つまりこの高校の人……というわけですね。どうして嘘をついたんですか?」

「いや……それは……」

 何か、本格的に尋問めいてくる。三人の気迫が凄く、追い込まれてしまう。

「誰とお付き合いしていたんですか?」

「の、ノーコメント」

「教えて下さい……むむむっ」

「嫌だ……」

 また強引に俺の言葉の引き出しを開けようと顔を近づけて迫ってくる。だが、今度は負けないと目を瞑ってその攻撃をガード。

「あ、あの。先輩方、めっちゃキスしようとしてる感じになっちゃってますけど」

「「はっ……!」」

 そう言われ反射的に体を後ろに引いた。花も同じく顔を引っ込めていて、羞恥に顔が真っ赤だ。それに俺の頬も熱くなっている。

「この質問は飛ばしますね……」

「お、おう」

 生ぬるい気まずい空気が流れる。俺の対策は、どうやら自爆行為だったらしい。ついさっきの場面のその先を想像しそうになって、頭を振って落とす。

「え……と。次の質問なんですけど……」

「あ、ああ」

 それからいくつか質問されて答えるものの、俺も花も、変なテンション感のまま好転することもなく最後までやり続けた。

「じゃ、じゃあ今日はここまでにしましょうか」

 そして、質問の終わりと同時に活動も終了となった。時刻は五時半で、まだ最終下校時間ではないが俺達は早く帰ろうと、荷物を手早くしまっていく。

「……」

 ただ、三葉だけは浮かない顔をして動くことなくスマホを眺めて首をひねっていた。

「どうかしたか?」

「い、いえ。なんでもないわ」

 俺の呼びかけにハッとしてから、帰り支度を始める。その三葉のおかしな様子の答えは数日後に訪れた。

「ねぇ英人。今日、あんたの家に行ってもいい?」

 この日の同好会の活動は三葉の呼びかけから始まった。

「おおっ、ここが師匠のお家ですか!」

「ヤバっ推しの部屋に来ちゃった」

「どうしてこうなった」

 本当は突き返したかったが珍しく彼女からの熱烈なオファーで断りきれなかった。

 その結果、三葉とその他二名が俺の部屋の中を踏み入れている状況に。それを求めた本人は冷静でいるのだが、オマケ達はテンションが高い。せめてこいつらは拒否すべきだった。

 花は想像通り俺の特撮コレクションに釘付けになって、三葉はメモをしながら全体を歩き回り、天堂さんはベランダに出て景色を眺めている。

「……お前ら少しは遠慮しろよ」

 普通人の部屋に入って、いきなりフリーダムに動かないだろう。しかも異性の部屋で。

 そう言いながらとりあえず、机に人数分の麦茶を出す。

「いいなー。このベルト買えなかったやつだー」

「この麦茶美味いですね。あ、来た記念に撮っておこ」

「思ったより普通の部屋ね」

「普通で悪かったな」

 少しすると天堂さんと三葉がゆったりと座って麦茶を呷る。内一人はまるで店に来たようにスマホのシャッター音を鳴らしていた。

「でも意外、結構片付いていて。足の踏み場もないかと思ってた」

「一人暮らしの序盤はそんな感じだったけどな。流石にヤバいと思って片付けるようになった」

 ループする前の初めての高校生活の話だ。その時は慣れない高校生活と一人暮らしに余裕がなく、散らかっていた状態を後回しにしていた。二年生になってそれが解消され、ループしてからはある程度綺麗にしている。

「いいわね、それ」

 それを聞くと三葉は高速でフリック入力しだした。

「それ、どっちの意味で言ってる?」

「どっちでもいいでしょ。それよりも、今日の夕食は何か作るのかしら」

「うーんと、ペッパーランチだな。簡単に作るやり方を動画で見つけて、作ろうって思ったんだ」

「いいわね、それ」

 再び熱心にメモる。それをしている彼女は、表情は薄いものの楽しそうにしていた。

「それ、どっちの意味で言ってる?」

「どっちでもいいでしょ。それじゃあ、日頃やってる事ってある?」

「そうだな、まぁ筋トレやランニング、ストレッチなんかは意識的にやってるな」

「いいわね、それ」

 全肯定される。少し前の孤独な彼女からは考えられない事だ。今までのループでもこんな事は一度もなかった。

「っていうか、もしかして俺をモデル書こうとしてるのか?」

「まぁ、参考程度に」

 参考だとしても普通に恥ずかしいから止めて欲しい。

「師匠をモデルに!? ぜひぜひ読みたいです!」

「あたしも、楽しみにしてます」

 俺達の会話を聞いた二人が案の定反応して、期待の眼差しを三葉に注ぐ。

「……え、ええ。頑張る……わ」

 それを受けると、恥ずかしそうにしつつも前向きな言葉を呟く。その表情からは喜びが見え隠れしていた。

 だが、俺としてはやる気を持たれると困るし、一致団結感のある空気で、断りづらくなってしまう。

「そういうわけだから今後もアイデアのために、色々なシチュエーションを取材させてもらうから」

「……はぁ、わかったよ。それよりも、今日は暗いしそろそろ帰った方がいいんじゃないか?」

 窓を見れば空は藍色に色づいて、夕陽はもう姿を隠し、一日の終りが近づいていた。

「ヤバっ、もうこんな時間だし」

「そうね。時間も時間だし今日は帰るわ」

「もうちょっといたかったですけど……」

 帰る流れとなり、三人は俺の出した麦茶をごくごくと飲み干し、荷物を手に抱え立ち上がる。

「送ろうか?」

「いえ、ボクは家近いですし」

「あたしも大丈夫です」

「私も。途中まで彼女達といるから」

「了解。また明日な」

 俺は玄関先で三人を見送ってから、また一人になった部屋に戻る。

「ふぅ」

 騒がしいのがいなくなって一気に力が抜ける。やはり静かな一人は気楽だ。だが、今は俺だけだと思うと、胸が少しざわついた。きっと、藍色になる夕焼けがそう思わせていたのだろう。そう結論づけてまずは出したコップを片づけた。

 こんな風に同好会が始まってからの六月は、色々とあったが退屈を忘れたように時間の針が倍速で流れた。圧倒的や密度を持って。そんな日常が当たり前になっていくと、俺の中で強い光とそれに伴って濃くなる影をひしひしと感じていた。

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