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GO TO END ~女神は才能を逃してくれない~  作者: しぐれのりゅうじ


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エピローグ GO TO END

「四週目も終わったか」

 パソコンの画面上に幸せそうに微笑む赤髪のミディアムボブの美少女の一枚絵が表情され、しばらくすると、優しげな曲調と共に見るのが最後になるであろうエンドロールが流れる。

「悪くなかったな」

 遊んでいなかったラストのメインヒロインルートを終わらせた。悪役好きの俺からすれば、主人公的な性格のこの子は好みではないのだが、最近はその良さも理解しつつあって、普通に感情移入をして楽しめた。これもあの同好会にいた影響だろう。

「これが……トゥルーエンドか」

 エンディングの後、また別の世界線のちょっとしたエピローグが挟まる。四人のヒロインのそれぞれの問題が解決していて、その子達と主人公が共に明るい未来を進んでいく、そう予感させてくれる話が展開された。そして最後にヒロイン達の個性溢れる表情でいる可愛らしい集合した絵が表示され、スタート画面に戻った。

「終わったか」

 誰かを選ぶと他の子が何かしら不幸になっていたため、このトゥルーエンドは完全なハッピーエンドでスッキリとした終わり方を見せてくれ、達成感が凄い。遊んで良かったと思わせてくれる作品だった。

 ただわからないのは、あのエンディングだと主人公はどのヒロインと恋人になったのだろうか。それともしないという選択をしたのかもしれない。解釈の余地が残っているが、俺の考察だとメインヒロインと付き合ったと見ている。

「さてと、そろそろ行かなきゃな」

 俺には約束があった、俺の恋人と会って遊ぶという。だがその前に一つ寄る所があった。確かめなくてはならない。

「もうすぐ大学生か」

 クローゼットに仕舞われた制服を見て改めてそう思わされる。俺はそれを横目に、デートのために、ある程度の服を取り出して身に着ける。鏡で確認してから、斜めがけのバッグを持って出掛ける。

 外に出て下を見るとちょうど純が家へと戻っていたところだった。彼は俺に気づくとにこやかに手を振ってくる。手を上げ軽く挨拶しつつ下に降りた。

「よっ、プロサッカー選手」

「や、止めてよ。内定はしたけど、正確にはまだなんだから」

 純はそう恥ずかしそうにしつつも嬉しそうにしている。こいつは全国大会で大きな活躍をして、国内のトップリーグのいくつかのチームからスカウトがあった。そして、その中の上位争いをするチームの一つに入る事が決まっている。

「にしても、高校卒業後にプロ入りするなんてな。お前なら大学に行ってから決めるかと思った」

 彼が高校生の段階でプロから声がかかるという展開は、今まで無かった。そもそも、うちのサッカー部が全国に行く事も俺が入部してからだ。サッカーを再開した影響が大きく出ている。

「自分でもらしくないって思ってるさ。けど、すぐ近くにとんでもない天才がいたから、もっと頑張らなきゃって思わされたんだ。だから、君に負けないために、早めにプロの世界に入るって、そう決めた」

 相変わらず穏やかな顔をしているが、その中に強固な意志と覚悟が滲み出ている。少し気圧されてしまいそうなほどに。

「英人こそ意外だったよ。今年は、僕達のチームを準優勝に導いた上に大会MVPを獲得。アンダー世代の代表でも一つ上の世代の主力で次の五輪の出場も期待されてる。だから、日本どころか海外のクラブからもオファーがきて、その中には昔トレーニングを受けたビッグクラブもあったんだろ? それなのに大学に進学するなんて。ネットでも海外に行くべきって意見が吹き荒れていたよ」

「はは……ビビってるとか、安定志向じゃ大きくなれないとか書かれてたな。お前らはビビらずリスク取って行動してんのかって話だよな」

 やはり才能は、自由きままに生きる事を否定してくる。行動の一つ一つに注目されてしまう。もちろん、批判があれば擁護してくれる人も沢山いた。中には苛烈なファンもいたが。

「あんまりエゴサはしない方がいいよ?」

「わかってる。その時はたまたま見ちゃっただけだ。それに、その程度は大した事ないしな」

 八回も同じ高校三年間を過ごさせられた時間的な苦痛と比べれば大したことはない。

「ま、俺はまだプロの世界でやれるメンタルを作れていないんだ。とりあえず大学でやりながらゆっくり慣らしていくつもり」

 変化の薄い予測可能な時間を長く過ごしていた俺にとって、プロの荒波の中に飛び込むというのは、温室育ちのお坊ちゃんが突然サバンナのど真ん中に放り込まれるようなものだ。

 それにこの道に決めた以上、女神のお墨付きを貰っている才能を殺すわけにもいかない。

「なるほどね……けれどもう一つ理由あるんじゃない?」

「もう一つ?」

「同じ大学に行く君の恋人と長くいられるから」

 ニヤニヤとしながら、からかう口調でそんなふざけた事を言ってくる。

「は、はぁ? それは……理由のほんの一部でしかない」

「目が泳いでいるよ英人」

「うっさい」

「でも良かったね。互いに勉強が出来るから良い大学に一緒に行けて」

 彼女もそうだが俺も一般入試でそこを受けた。せっかく七回ループしたのだ、そこで得た学力を使わないのはもったいないだろう。

「って、もしかして今からデートかな?」

「まぁ、野暮用を済ませてからだが」

「そっか、足止めしちゃってごめん。デート、楽しんできてね」

「ああ」

 どうやら俺の服装で気づいたらしく、純は話を切り上げて、別れの合図に手を左右に振った。

「そうだ、英人」

 去り際に呼び止められて振り返ると、純は微笑みながら大きく手を上げて。

「僕は生き残って待ってるから、必ず来てね。そしていつか日本代表で一緒にプレーしよう!」

「はいはい」

 俺もそれに応えて軽く手を上げた。俺がいつでもサッカーを始められるように誘い続けた男の言葉は、夢物語ではないのだと説得力があって。その光景は容易に想像出来た。

 俺達は背を向けてまた歩きだす。いつかまた交わる日を想いながら。



 慣れた道のりを歩いて辿り着いたのは『天堂』だった。今日は定休日なので、女神とちょっとした会話をするにはちょうど良い。扉を開けようと手に触れると、向こう側から女神と女性と男性の声が聞こえてくる。そして、その三人はこちらに近づきつつあった。

「二人共、ありがとねー。おかげで助かったよー」

「いいよいいよ。結構面白かったしさ」

「これは貸しだからなぁ、覚えておけよ!」

「りょーかい!」

 そしてドアが開けられて俺は横に避け、中から出てきたのは声で察していたが、双葉さんと七海だった。そして店には女神がいる。

「わわっ! 英人くんじゃーん! やっほー」

「どうも」

「ふん……お前か」

「それにしても随分珍しい組み合わせですね」

 双葉さんは朗らかに左手をひらひらとさせて挨拶してきて、七海は反対に態度悪く、鼻を鳴らすだけだった。

 この二人が一緒にいるのを見るのは、今までのループを含めて初めてだった。関係性があるような雰囲気もなく、繋がりがあまり見えない。三葉という存在はあるが、七海と特段仲が良いわけでもない。

「ふふん、私は顔が広いからね。それよりも、英人くんの活躍いっつも見てるよ! なんか、弟が大きな舞台で頑張ってるみたいで、私も嬉しくなっちゃったりしててね。だからアンチコメントしてる奴を論破して回ってたりしてるんだ! これからも応援してるよ!」

「……あ、ありがとうございます。でも論破はほどほどで」

 まさか俺が見つけた苛烈なファンはこの人だったのだろうか。普通に止めて欲しい。

 最近でも双葉さんとは、そこまで関わりがあるわけではなく、三葉の部屋で遊ぶ時に会えば話す程度の関係だ。そして姉妹の関係性も双葉さんの狙い通りのままになっている。

「はーい、それじゃまたね。それと三葉の事もよろしくねー」

 双葉さんはそれだけ言い残して家の方へ帰っていく。妹との距離が離れたとしても家族として想っているみたいだ。

「八鬼、お前はあいつらとの関係を終わらせなかった。お前の勝ちだ」

「いつの話をしてんだよ。もう一年も前だぞ」

 七海は不貞腐れても悔しそうにもしておらず、淡々と勝利認定をしてくる。

 こいつとは、あれから特に何も起きる事なくクラスが変わって接する事も無くなった。噂に関しても、時間が経てば薄れていき、サッカーを始めてからはその活躍が上書きしていき、手のひらを返すようにクラスメイトから称賛されるように。花達はそれに不満を持っていたが、それこそサッカーなら手のひら返しはよくある事で、俺は気にしていなかった。

「だが、同時にお前は俺達に負けた。つまり引き分けだな」

「はぁ? 何に負けたんだよ」

「さぁ、自分で考えるんだな。あばよ、天才。せいぜい、守ったものを大切にするんだな」

「お、おい……」

 俺の質問に答えることなく、捨て台詞を吐いて去ってしまう。その感じが、和解した悪役っぽくてちょっとカッコいいと思ってしまった。

「ふっふっふ。良く来たね」

「ちょっと話がある」

 気を取り直して俺は店内に入り扉を閉める。女神はお母さんらしい落ち着いた服を着ていたが、相変わらず若さと美しさを保っていた。そしてその鬱陶しい性格も。

「っとその前に。さっきの二人とはどういう関係なんだ? 随分親しそうだったが」

「まぁ、簡単に言えば家族みたいなもの……かな」

「か、家族? そんなになのか?」

 この三人がそんな関係性だなんて、紗奈にも三葉にも聞いた事がないし、見た事もない。だが、少し考えてみると一つ共通点があった。

「そういえば、俺達の関係にヒビを入れた三人が、家族みたいに仲が良い。とんでもない偶然だな」

「偶然って怖いねー。こういうのを小説より奇なりって言うのかな?」

「女神が偶然っていうのは面白い冗談だな」

 女神はわざとらしくとぼける。多分、聞いたとしてもはぐらかされるだけだろう。しかし、こいつが女神という存在で、それに協力する家族みたいな関係の二人。その正体の輪郭が少し見えた気がした。

「でもさーもう終わった話でしょ? 気にしない気にしない」

「ま、そうだな。もうどうでもいい事だ」

 話すつもりもなさそうだし、今になれば深く知る必要性もない。俺は本題を進める事にした。

「それで何かな? もしかしてやっぱり止めたくなったり? それはすごーく困るんだけど」

「んなわけないだろ。本当にもうループはしないのか聞きに来たんだ」

「それなら安心して良いよ。君はその才能を活かすように動き出した。ループさせる理由はない」

 そう明言されて安心する。論理的に考えればそうなるが、女神の性格を考えると不安な面があった。もうこれ以上高校生活は送れない。やり直しは勘弁だ。

「それに、私上から追放されちゃったしね」

「つ、追放?」

「うん。目的を達成したけど、下界に干渉し過ぎって怒られちゃって。罰として死ぬまで普通の人として生きろって言われちゃったんだ」

 中々深刻な状況だと思われるが、女神はあっけらかんとしている。ムカつく存在だが、不幸に見舞われても嬉しくはない。

「大丈夫なのかよ」

「余裕余裕。そもそも、紗奈と十綺を作った時点でそのつもりだったし、こっちの世界も楽しいしね。これからは女神じゃなく人間の天堂照美として生きてくよ」

「流石だな、そのポジティブさは」

 というか、照美っていう名前だったのか。会話の中で聞いたような気がするが、頭に入っていなかった。

「そうでしょー! そういう事だから、これからもよろしくね。君のファンとして応援とサポートをこれからもしていくよ。食べたいものがあれば、いつでも好きな料理を振る舞ってあげるよ、半額で」

「金取るのかよ」

 しかし、ループが終わればこいつの顔を見なくなると期待していたのだが、現実はままならない。だが美味い食事をこれからも食べられると考えれば悪くない。それに、ここが無くなってしまえば、彼女達も悲しむだろう。俺も少しは寂しいとは思う。

「食べ物系のインタビューがあれば、是非紹介してくれると嬉しいなー」

「前向きに考える事を善処するよ。……話ってのはこれだけだ。邪魔したな」

 もうここにいる理由はない、店もやっていないし。俺は背を向けてドアノブに手をかける。

「ありがとね、その選択をしてくれて。そして長い時間苦しめてごめん。君が日本を元気にしてくれる事を期待しているよ」

「……また来る。じゃあな、女神――じゃなくて照美さん」

 店先に出て、俺はそのまま立ち止まる。待ち合わせはここだった。スマホで時計を確認すると、約束の五分前だ。

「……来たか」

 顔を上げると彼女がいた。俺を見るなり微笑んで、軽やかな足取りで近づいてくる。

「先に言っておくが待ってないぞ。今、来たところだ」

「ふふっ」

 結構な割合でそんな会話をしているから、時短のために、先に答えておく。

「それじゃ行くか」

 彼女は隣りに来て、互いに顔を見て笑い合い、それから恋人繋ぎをして互いの体温と手の感触を感じる。その温もりだけで心が満たされて前進するエネルギーになっていく。


 そして俺は彼女と共に歩み出す、終わりの向こうへと。

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