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GO TO END ~女神は才能を逃してくれない~  作者: しぐれのりゅうじ


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13話 主人公

「さてと」

 二人が去って扉が閉じる。すると、また一人の教室に戻る。あの日同じように。そして五時のチャイムが鳴った。

「……」

 閉じたドアを見続ける。開かれること想像をしながら。呼吸の音が鮮明に聞こえて、緊張しているのだと自覚させられる。

 そのまま、一分二分と時間はゆっくりと確実に過ぎていく。まるでこの空間だけ時の流れが遅くなっているように、体感は数十分経っていると錯覚するが、時計の針はまだ五分を指していた。

「花……」

 十分過ぎてもまだ来る気配はまだなかった。しかし諦めるような時間でもない。俺は一旦リュックや紙袋が置いてあるいつもの机に座って足を休ませる。

「暇だしやってみるか……」

 紙袋の中を覗き込みそれを見ると、少しやってみたい事を思いつく。壊れないように慎重にそれを取り出す。

「誰もいないよな……」

 ここに来る可能性があるのは花か顧問くらいだろう。まぁ顧問は、まれに様子を見に来るだけでほぼ形だけだ。放任とも言えるし花が信頼されているとも言えるだろう。そういうわけだから、事故的に訪れる事は限りなくゼロ。それに、近づけば隠していない限り足音で気づける。

「やるか」

 俺は椅子から立って、手に持った花の手作りベルトを腰に巻いていく。全体的にチープな作りで雑に扱えばすぐに壊れる強度だが、ベルトを止められるようには出来ていて、体型にも説明されていた通りちゃんとフィットする。

「意外と悪くないな」

 特撮好きの性なのか、ベルトを身に着けるとこのクオリティでも少し興奮してしまう。それに、ダンボール製という事で、小学生の工作の授業をつい思い出してしまい懐かしさを感じた。

「せっかくだし」

 当然、ベルトを装着すればやる事は一つ。俺は作中の変身ポーズを完コピして、最後に言葉にする。

「変……身――」

「し、師匠……お待たせしま……し……た」

「あ」

 変身完了と同時に教室の扉が開かれる。そして、入ってきた花とばっちり目が合ってしまう。彼女は口を軽く開けながら何度も瞬きをする。

 しまった、完全に油断していた。ちょっと楽しくなってしまって周囲に意識が向いていなかったのだ。だが後悔するには遅く、もう事態は動いてしまっている。

「……」

「……」

 花も俺もフリーズしたまましばらく見つめ合う。次第に現状に対する感情が追いついて、顔の温度が上昇していくのを肌で感じた。次に何を言えば良いのだろうか。思考を回すと段々と熱暴走を起こして、どんどん何を言えば良いのか分からなくなってしまう。だが、何かしないといけない。

「はっはっは! よ、よく来たな花! 俺は貴様を待っていたぞ!」

「し、師匠……」

 言ってしまった。バグった頭では、もうキャラクターっぽくなりきって突き進むしかないとしか結論が出なくて。悪役っぽいセリフが勝手に出てしまった。

 さらに最悪なのは、花がこのノリについて来なくて普通の人のように固まってしまっているのだ。いつもの調子で乗ってくれればソフトランディングに心を落ち着けたのに、現実はただただ痴態を晒しているだけになっている。

 初めて花と会った時の彼女も同じような気持ちになったのだろう。からかってしまったが、今更ながらに謝りたくなる。というか謝罪するから、助けて欲しいマジで。

「師匠……師匠ぉ……うぅ……」

 すると突然花が泣き出してしまう。そんなに見ていられなかったのだろうか。

「な、何で泣くんだよ。そんなに俺が哀れに見えたのか?」

「ち、違くて……安心して、嬉しくて、でも申し訳なくて……色々ブワって飛び出してきて……」

 花は目に涙を溜めてそれがサラサラと流す。それを腕で拭う。でもすぐには止まらないようで、何度も目を擦る。

「そ、そんなに思い詰めていたのか」

 三連続で女子を泣かせてしまうとなんて。それに、花のそんな姿を目の当たりにすると、ひとりでに体が動いて、ベルトを巻いたまま歩み寄る。

「呆れられて……き、嫌われちゃったんじゃないかって……怖かったんです」

「花……」

 いつも見せる明るく無邪気な姿の裏に弱さがあるのは知っていた。人を信じきれないと悩んでいたから。だが、どうやら俺は彼女の見せる光によって本質を見失っていたようだ。しかし、その面を知れば噂が起きてからの行動に納得がいった。

「支えになるって言ったのに、主人公になりたいって言ったのに、ボクは周りの子と同じように師匠を一人にしちゃったんです。他の子から嫌われたくないから。ボクは師匠に……酷いことをしてしまいました。だから……」

「そんなに自分を責めないでくれ。俺は何もしないでくれと頼んだんだし、それで嫌いになんてならない」

「駄目なんです……本当なら、主人公なら味方だって寄り添わなきゃいけなかったんです。でも裏切りを恐れておきながら裏切った。それもいじめを受けたボクが、今度は加害者になって。最低なんです……ボクは」

 涙が止まる。顔を上げる。だが、自身を傷つけるような言葉が増えていく。罪を犯した自分を罰するように。そして救いを求めるように。

「いじめ。裏切られたというのはそういう事なのか」

「ボクは昔クラスの一部の女子にいじめを受けました。その頃は、地味で暗くて人の顔色を伺ってばかりの子だったんです。だから狙われたんでしょうね」

 今羅列された特徴は、今の花とはまるで別人だ。

「エスカレートしていく中で、参加する人も増えて、その中に親友がいたんです。ボク的にはそれが一番堪えました。最終的には、誰かが告発してくれたみたいなんですけど……関係は戻る事はありませんでした」

 目を腫らしながらそう苦笑する。三葉の時もそうだが、ここまで傷ついた素顔を見ると、こちらまで辛くなる。それと同時に、手を差し伸ばしてあげたい、そんな欲求が出てくる。

「そんな苦しい時、ボクは『メタルマスクグライダー』に救われたんです。とてもカッコよくて、勇気を貰ってそんな主人公になりたいって思いました。そこから自分を変えようと努力して、このボクっていう一人称もその一環なんです」

「頑張ったんだな」

 俺はつい花の頭にポンと軽く手を置いて、軽く左右に撫でる。それに対して嫌がる素振りは見せず、されるがままで。

「でも、結局本質は変わっていませんでした。普段はそう装えても、異常事態になったら……それが剥がれてしまう。今回の事でわかりました、ボクは……ボクは主人公になんてなれない人間なんです……!」

 身も心も震えている事が手から伝わってくる。それに呼応して再び瞳から雫がポツポツと零れた。俺はそれを止めるように頭に乗せた手に少し力を入れる。

「なれるよ」

「……え」

「だって、お前は今俺に会いに来てる。他の奴らの制止を振り切って。その時点でお前は変われてる」

「ここに来れたのは、さっき三葉さんと紗奈さんに背中を押して貰ったからなんです。それにもう遅すぎますよ」

 どうやら彼女達もあの後にサポートしてくれたみたいだ。皆同じ想いを持っている。

「仲間に支えられるなんてまさに王道だ。それに、遅れてやってくるのが主人公だろ?」

「それは……そう、ですけど」

「裏切ってもないし、主人公になれないなんて事もない。信じられないかもしれないが、俺は花の存在に救われてるんだよ」

「ボ、ボクが師匠の?」

 本当に信じられないといった、驚きの顔を見せ軽く横に首を振る。

「俺はずっと、退屈で色褪せた日々を送っていたんだ。そこでお前に出会って……人生が本当に楽しくて充実した時間になったんだ。俺にとっては、花はもう主人公だ」

「師匠……師匠ぉ……!」

 決壊したように泣きながら俺の胸に抱きついてくる。それを受け止め、片腕を彼女の背中に回して包み込みもう一つで頭を撫で続けた。

「主人公がいるからこそ悪役が存在するんだ。もう花は俺の支えになってくれていて、おかげで踏み出せるようになった。サッカーを再開するという一歩を」

「ボクのおかげ……」

「ああ。だから俺が信じるお前を信じてやってくれ」

「わかり……ました」

 しばらく抱きしめていると、徐々に震えは止まり、呼吸が安定してきた。そして花は一度深呼吸を挟むと、俺の腕の中から出て、少し離れるといつもに近い花の顔を見せる。

「師匠は悪役って言いますけど、やっぱりボクから見たら師匠は主人公で師匠です」

「俺は主人公でも師匠じゃない」

「ふふっ。そういうところも含めてです」

 クスクスと微笑みを浮かべる。今この瞬間は、その発言への反論を抑えた。

「少しは元気出たみたいだな」

「……師匠のおかげです。ボクの事を肯定してくれて、大切に想ってくれてて、主人公って認めてくれて。欲しい言葉沢山貰っちゃいました。それに、師匠の役に立てていたってわかって本当に嬉しかったんです」

「……そうか」

 花は自分の胸に両手を当てていて、まるでそれは心に触れて確かめているようだ。

「サッカーやるんですよね。ボク、応援してますし、何かあれば力になりますよ」

「サンキューな。そう言ってもらえるだけでパワーになる」

「それに、きっと師匠は遠くに行っちゃうかもしれませんけど、近づけるようにボクも頑張りますから! 皆から主人公って思われるように!」

「やれるもんならやってみな」

 そう挑発的に笑うと、花はそれを霞ませるような満面の笑顔を見せた。その中には確かな覚悟とエネルギーが垣間見える。それが、彼女が俺に迫ってくるという確信に変わった。

「それと……ですね。もし……ボクが自分は主人公なんだって思えた時には……師匠に伝えたい事があるんです」

 花は、少し恥ずかしそうに赤らんだ頬を指で触れている。それからその手を俺の方に出して小指を立てて。

「だから待っててください、必ず言いいますから。約束です」

「わかった、約束だ」

 花の小指に俺の小指を絡ませ指切りをする。そうしている時の花は、まるでヒロインのように見えた。

 窓から差し込んだ夕焼けの光は、俺の中に灯っていた炎のように、赤く燃え上がっている。そしてその炎は彼女に触れて青に染まった。

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