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GO TO END ~女神は才能を逃してくれない~  作者: しぐれのりゅうじ


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11話 壊れていく関係と告白

 三葉の一件から一週間が経った。三葉や天堂さんの絡みに進展はなく停滞していたが、クラスの噂問題は俺の悩みと同期するようにエスカレートしており、陰口や無視が増加し完全孤立状態になっていた。

 それと逆行するように三葉は俺に関わるようになっていてた。一人でいる時は寂しそうにこちらに視線を向け、休み時間になると縋るように寄ってくるようになって。しかも俺に対する悪口が聞こえてくると、そいつに絡みに行きそうになり、氷の女王から狂犬に成り果てている。何とか暴走を止めているが、正直時間の問題と頭を悩ませていた。

 放課後となり俺は速やかに立ち去ろうと必要なものをリュック詰めていく。俺が物音を立てるとこちらに注目がいく事が多々あり、面倒だった。

 だが今日は一つ進展がありそうだった。それは天堂さんから放課後に会えないかと呼び出しがあったためだ。待ち合わせの場所は同好会の教室。花も三葉も、そして俺も休む予定になっているため、空いているのだ。

 そして支度を整えていつものように後ろのドアへと歩みを進める。ドア横には三葉の席であり、こちらを見つめて話しかけようと口を開いた。そんな時、駆け寄ってきた花から声をかけられた。

「あの……師匠……」

「……何だ?」

「えっと……その……あ――」

「花ちゃん、止めなよ」

 彼女が何かを言おうとした矢先に、宮藤さんが割って入り止められる。さらにもう一人の女子、一之瀬さんも勝気な性格を表すように、花を守るように現れた。

「もしかしてこいつに脅されてるんじゃない?」

「ち、違います。そんなんじゃ……」

「は、花ちゃん、怖がらないで。私達がいるよ」

「怖がってなんか、誤解なんです。師匠は、そんな人じゃなくて」

 俺から止められているからか、それとも関係を壊したくないからか、花はオロオロとしている。そしてそれを聞いている三葉は、また感情をこらえるように震えていた。ここは足早に立ち去る必要がありそうだ。

「用がないなら俺は帰る。じゃあな――」

「花、いい加減にしてよ!」

 だが遅かった。三葉は椅子を軽く弾いて立ち上がり花をキッと睨んだ。

「み、三葉さん……」

「あんた主人公になるんでしょ!? こんなふざけた噂を流されて、孤立させられてる英人を見て何も思わないわけ!?」

「そ、それは……」

 その剣幕には花はおろかその取り巻きも気圧されて、大声に反応して何事かとクラスの注目が集まる。

「おい、三葉。そこまでに」

「英人は黙ってて! 花、どうして何もしないの!? こんなのいじめじゃない! 主人公なら、どんな理由があっても助けるんじゃないの!? それともあんたもそういう人間だったの?」

「何、花を責めてんの? あいつのせいでしょ!」

「そうだよ! あの人が花を怖がらせてるんじゃん!」

「ふ、二人共止めて。ボクは……ボクは……」

 花は痛みをこらえるように右手で強く握って、詰まった言葉を出そうと必死になっていた。だがその先が続く事はなく。

「見損なったわ花」

 そう吐き捨てて三葉は荷物も持たず走って出ていってしまう。花は茫然自失といった様子で、三葉を目で追うだけだった。

「おい、三葉!」

 急いで廊下に出るが、もうそこに姿は無かった。追いかけたいのだが、天堂さんとの約束もある。少し考えた後、三葉は後回しにする事にして階段へと向かった。

「英人!」

 三階へと登ろうと階段に足をかけた時に、後ろから純に呼び止められる。

「何だ……悪いが俺は――」

「ごめん、こうなったのは僕に原因があるんだ」

 そう言われ頭を下げられれば急ぎたい足も止まってしまった。

「どういう意味だ?」

「……クラスにいる七海くん。彼に友人になりたいから君の事を聞かれたんだ。僕は、英人に友達が増えると思って嬉しくて、つい君が神童と呼ばれた事やどういう人かを教えてしまったんだ。それから噂が流れてこんな結果になってしまった……本当にごめん」

「だからと言って七海とは限らないだろ」

「噂が出てから、僕は周りの子を観察したりそれとなく聞いて回っていたんだ。そこで辿っていって七海くんだとわかった」

 確証を得たから俺に伝えたという事か。疑惑で終わらせない誠実で真面目なのは純らしい。

「おいおい、悪口なんてらしくないな六角。俺も噂で聞いてそれを話しただけなんだよ」

「な、七海くん」

 声の先を見ると、そこには七海が、フレームの大きな眼鏡の奥に怪しげに瞳を薄めて笑みを浮かべていた。

「なら……それは誰に聞いたんだい?」

「さぁ。風の噂っていうか、たまたま耳にしただけだ」

「だとしても、こんな酷い嘘を話すべきじゃないよ」

「何を話すかなんて自由だ。それに嘘とは限らないだろ? 噂話なんて誰でもする事で、俺だって広めようと思って話したわけじゃない。会話の流れとかあるだろ?」

 珍しく静かな怒りを見せる純に対して、挑発的な口調で余裕そうな態度だ。

「火のないところに煙は立たないっていうぜ? 今流れてる噂、実はマジなんじゃないのか? なぁどうなんだよ、八鬼」

「お前がそう思うんならそうなんじゃないか。捉え方は人それぞれだしな」

「ふん、つれない奴だ」

 嫌いという感情全力で煽ってくる。だが、こういう奴の対処はスルーに限る。俺は同好会の教室へと足を再び動かす。

「それにしても残念だったな八鬼。花と関係が悪くなってるらしいじゃねぇか。師匠、師匠って慕われてたみたいだが、こんな状況になって今どんな気持ちなんだ?」

「……まさか、七海くんはそれを狙って」

「何勘違いしてんだ。俺は事実を言っただけだ。それに、さっきの騒動でお前の同好会もヤバいんじゃないか?」

 ここまで戦闘民族だっただろうか。思わず足を止めて振り返ると、こちらの反応を楽しむように瞳をギラつかせていた。

「随分楽しそうにしてたみたいだが……お前終わったな。ゲームオーバーだ」

 追撃するように出た単語に、女神と双葉さんがチラついてプチッと理性の一本が切れた。

「勝手に終わらしてんじゃねぇよ」

「ああ?」

「関係を続けるのも終わらせるのも俺次第なんだよ。決めるのはお前でもなければ神でもない」

「続けられんのかよ、こんな展開になって」

 どうやら少しながら驚いたようで語気が弱まる。それだけで溜飲が下がった。

「その気になればな。悪いがこの程度大した事じゃない」

「……おもしれぇな」

 俺の返答に、七海は口元を勝ち気に歪ませた。

「英人、本当に大丈夫なのかい?」

「……ああ」

 もう止められる事はなく俺は黙々と階段を昇った。意識は、待っているであろう天堂さんに切り替える。時間を確認するとギリギリで、駆け足で向かった。

 五階はいつも通り薄暗く人の気配はない。だが、同好会で使っている教室からは光が漏れていた。

「悪いギリギリになった」

 天堂さんは開け放した窓から外の景色を眺めていた。風が吹くと彼女の髪が揺れて涼やか空気が入ってくる。さらには生徒の溌溂した声も一緒に乗ってきて、静けさが和らぐ。

 彼女とこの部屋で二人きりというのは新鮮だ。それに他の二人がいないと部屋が大きく見えて、中をつい見回してしまう。机と椅子は均等に並べられて、最前には綺麗に消された黒板があり後ろにはロッカーと掃除用具入れが窓際の方にあった。いつもの席には当然誰も座っていなくて、少し物足りなさがある。

「八鬼先輩、来てくれてありがとうございます。呼んだのは、大事な話があるからなんです」

 くるりと向き直り一歩ずつ慎重に近づいてきて、俺も同じように向かって、結果的に教室の真ん中で向かい合う形に。荷物をそばの机に置いて顔を強張らせている天堂さんに先を促す。

「……あたしは昔から八鬼先輩に憧れてきました。そのプレースタイルが格好良くて輝いていて、そんな風になりたいって思って」

 そう語りだした天堂さんは、眩しそうにそれでいてどこか懐かしそうに目を細めて俺を見上げる。

「でも途中で無理だって思い知って、それを弟が持っていて苦しくて……そんな時、この高校にお母さんが八鬼先輩がいるって教えてくれて、ここに入学しました」

「そのために高校選ぶのって、やっぱりどうかと思うけどな」

「その時は希望の光に思えたんですよ、まだ諦めきれてなかったから。それで八鬼先輩に会えて……それだけじゃなくてこの同好会で長く同じ空間に入れるようになりました。それはすっごく幸せな時間で、人生でもトップレベルに楽しかったな」

 天堂さんはその幸せを思い出し噛み締めるように微笑んだ。

「けれど、やっぱりサッカーは出来そうになくて、そしてあの弟の試合を見て砕け散りました。それで、この同好会に理由が無くなって……休む事にしました」

「ああ。それで、俺がお前に何か理由が見つかれば伝えて欲しいと言った。……見つかったのか?」

「はい……見つけました」

 だがその表情はどこか恥ずかしそうでいて、両手を後ろに回して顔を赤くさせていた。

「……八鬼先輩。あたしの……あたしの彼氏になってください。……あたしのものになってください!」

「……っ」

 彼女の態度でその可能性を感じていたが、告白され心臓が強く跳ね、その勢いのまま速度が上昇する。

「先輩が彼氏になってくれれば、同好会に行く理由になります。それに、あたしの先輩になってくれればきっと『八鬼英人』手に入れたいっていう気持ちも満たされる。だから……あたしと付き合ってください!」

 天堂さんは不安と羞恥が混じった表情と瞳で真っ直ぐ俺捉えて離さない。

「天堂さんは……本当にそれでいいのか?」

「これが……これがあたしの想いです」

 そう問いかけると顔が斜め下へと向く。体もきゅっと力が入っていて何かに耐えている様子だ。

「返事は……今じゃなくてもいいんで。あたし、待ってますから」

「わかった」

「……じゃああたしはこれで」

 天堂さんは軽くペコリとして、そのまま体を小さくしたまま教室を出ていってしまう。廊下からは走って帰ったのか強くて早い足音が響いて、それはどこか逃げているようでもあって。

「ふぅ……とんでもない展開に――」

 軽く息をつこうと体の緊張をほどこうとした時、掃除用具入れから物音が聞こえて。

「……!?」

 内側からドガタガタと激しい騒音を立て、扉が開かれるとそこから女子生徒が飛び出してきた。

「み、三葉……何してんだお前」

「あ、あ、あんた……! こ、こ、告白され、されてなかった!?」

「ま、まぁそうだな」

「ううう、嘘でしょ……。というか何でそんなに平然としてるのよ!?」

 壊れたロボットのような喋り方になり、足が錆びついたみたいにカチカチと歩み寄ってきた。

「そんな事より、お前こそ何をしてたんだよ? 一人でかくれんぼでもしてたのか?」

「そんな馬鹿な事をするわけないでしょ! そこまで拗らせてないから」

「やってみると意外に楽しいぞ? 子供の頃のワクワクを感じられて」

「あ、あんたは……そんなに。今度それをしたくなったら誘って。少しくらいなら付き合うわ」

 憐憫の眼差しを向けられ、優しい言葉をかけられてしまう。高一の時やったのだが、本当に楽しかった。残念ながら理解されなさそうだ。

「それで、どうしてその中に?」

「……ちょっと一人になりたくてここに来たら紗奈が来ちゃって。つい、隠れてしまったの。そうしたらあなたも来て……こ、告白されてて」

 人に会いたくない状態にあったのは容易に想像出来るが、まさかそのためにあそこに隠れるとは。ちょっと面白い。

「な、何笑ってんのよ」

「悪い悪い、ちょっとな。……というか、どうして花達にあんな事を言ったんだよ。我慢の限界だったのかもしれないが、クラスでもっと孤立するぞ」

 三葉の立場になれば、俺の何もするなという願いが辛いことは理解できる。三葉の精神状況を鑑みれば予測出来た結果でもある。

「……許せなかったの。花が他の奴らと同じように傍観していたのが」

「どうして花なんだ?」

「期待……していたから。主人公になりたいって夢を語っていて、私が掃除を押しつけられた時に怒ってくれた。だからあの子はそういう人間じゃないんだって」

「そういう人間?」

 尋ねると三葉は少しの間逡巡した後に、近くの机の上に座って話し出す。

「中学三年生の時、英人は違うクラスだったから知らないかもしれないけど、私のクラスでいじめがあったの。標的は気弱そうな女の子で、カースト上位の奴らから酷い目に遭わされていたわ」

 どこかのクラスでいじめがあったとは聞いていたが、その時はサッカー関係で苦しい状態で周囲を見ている余裕はなかった。

「他の子は見て見ぬふりをするか、一緒に混ぜられて協力するかだった。中にはいじめてる奴らの陰口を叩いてた子も、目をつけられそうになって参加する人もいたわ。皆、群れに入って身を守って苦しむ一人を見捨てたの。それ以来、人間に失望して集団が嫌いになったわ」

 だから高校では、友人を作ることなく人を寄せ付けない孤高の存在で居続けたのか。

「三葉はどうしたんだ?」

「クラスでいじめられていたその子を助けてから先生に一緒に告発したの。それからその子も私もクラスから浮くようになった。まぁ、中三だったしどうでも良かったけれど」

「勇気あるんだな」

「別に、こんなの大した事ないわ」

 そういう行動が出来た三葉からすれば、何もしていない花に不満を感じるのは理解出来た。

「……そんな私の事よりも、今は告白をどうするかじゃないの?」

「それは……そうだが」

「ど、どう返事するの? まさかあんたも紗奈の事を……?」

 分かりやすくそうであって欲しくないような感じだった。

「決まっていない。正直、まだ自分の気持ちが整理出来ていないからな。これから考える」

「……そう、なのね」

 まずは一安心といった息を吐く。それから三葉は思考を巡らしているのか、床から離れている両足をゆっくりバタ足させながら、しばらく無言状態に。

「ねぇ英人」

 ピタッと止まるとシュッとした顔つきになって机から降りた。

「わ、私は……どう……?」

「え」

 三葉は上目遣いで消えそうではっきりと聞こえたその一言を発した。

「お、幼なじみで英人の良いところも悪いところも知っているし、最近は結構二人きりで遊んでるし……」

「み、三葉?」

「わ、私は昔から英人の事気になっていたの。でもサッカーを止めちゃってからその気持ちは揺らいだけれど、やっぱり心のどこかで気になってて。それから高校生になって英人と一緒にいて、はっきりとしたの。やっぱり好きなんだって」

 彼女は顔を真っ赤にしながら一生懸命に想いを言葉にしてぶつけてくる。

「それに、もう私にはあなたしかいない。他の子のものになって欲しくない。だから……だから、私と付き合って……ください」

 その告白はどこか縋るような、救いを求めるような響きがあった。熱烈と執着と、三葉の好きにはそれらが確かに存在している。

「ごめんなさい急にこんな事。困らせちゃうわよね」

「まぁ……な」

「返事は後日で構わないから……考えてくれると嬉しいわ」

「わかった」

 三葉の頬はまだ熱を帯びていて、自分の顔を隠すように前髪をぎゅっと引っ張っていた。

「じゃ私はそろそろ行くわね。英人、また明日」

「また明日な」

 挨拶を交わすと三葉は走って机にぶつけながらも止まらず出ていき、足音はそのまま階段へと遠くへと消えていった。

「……はぁ」

 俺は近くの席に力なく座り背もたれに体重を預ける。一日に二人から告白を受ける日が来るとは、七回ループしていても初めての経験だった。

 ただ浮かれてもいられない。状況はさらに同好会の崩壊に近づいているのだから。双葉さんが忠告をつい思い出してしまう。

「どうするかな」

 俺は天井を向きながら目を瞑った。すると再び高校の日常の音が蘇ってくる。頭を休めようと、ぼーっとしながら窓から流れる風の音、生徒の声、吹奏楽の奏でるメロディーに意識を向け続けて。そうしていると、次第に意識が薄くなり心地の良い微睡みに包まれていった。

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