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死者でもいいですから愚痴を聞いてください!

「閲覧した書物を元に戻しておいてくれ」


 先輩に指示され、書庫へ何故か一人で行くことになった。


「……あの、戻すといってもどの辺に戻せばいいのですかね?」


「は? 棚に決まっているだろう。バカなのか、君は」


「いえ、棚のどの辺りかということを訊いてます。適当に戻したら次に探すときに大変でしょうから」


「そ、そんなこと、自分で考えるんだな!」


 仕方がないのでそのまま書庫へと向かうものの、いつものように奥を確認するとやっぱりいるから一応、声を出して挨拶はした。

 引き出しから書物を取り出していると背後から足音が近づいてくる。


「……君は私が見えるのか?」


「うわぁ!」


 振り向けばフードから覗く端正な顔立ちが目の前に現れた。年齢も近そうな若い青年。


「やはり、見えてるようだな」


「い、いつも挨拶しているではないですか、私!」


「それはそうなのだが、認識されたのは君が初めてだからな」  


 そう言ってフードを外せばはらりと銀色の髪が現れ、顔がはっきりと見える。

 何となくエリン王子に似ているような? 気がしなくもない高貴そうな感じ。

 それに今まで遠目で気づけなかったけど黒だと思っていたマントの色が深い紫だったことも判明。

 いや、この王宮で高貴な紫色を纏える存在ってのは王族しかいないんだよ。

 でもね、こんな人、王族で見たことないんだよ。けど見た感じ、攻略対象者に匹敵する様なイケメン。

 スチルでも国王とか現王妃の幼い王子だとかのカットはあったけどこんな目立つような存在は無かった。

 しかもいろんな人たちに高貴なそうなこの人は見えてなかったよね?

 いろんな思考が過ぎり、急に背筋がぞっとする。

 どうやら私にしか見えてない存在。高貴な雰囲気。かつての血なまぐさい王位継承権を巡る争い。

 ……つまりは死者ってことかい!!?


「え、ええええと、そうなんですか。と、ところでつかぬ事をお伺いしますが、この書物はどの辺に戻せばいいか分かりますか?」


 早く立ち去った方がいいと、握っていた書物が震えだすのを誤魔化すように差し出す。


「ああ、それはあの辺りになるはずだろうが」


 言われた通りの棚に向かうも配置も順序もバラバラの模様。

 これじゃあどこに並べたとしても探しにくい。


「まあ、きちんと戻さないから混沌としている」


 元々は整頓されてあったのに長居できないためか適当に戻すようになったらしく今に至る、とか。

 だからいつも見つけにくかったのかと。これはますます今後も支障をきたしてくると思う。

 滞在時間を短くするためにも書架整理の必要がある。どげんかせんといかん! 


「あ、あの、ありがとうございました」


「……別に大したことはしていない」


 ビビったのは一瞬で、ここで働きだしてからようやくまともに会話できそうな存在に好感を持ってしまった。

 だって先輩たちと違くて全く偉そうじゃないし、威圧的な物言いでもないしね!

 部署に戻ると書物の整理整頓をした方がいいのではと先輩方に持ち掛けてみた。

 最初は大変だろうけど今後のことを考えて全員でやれば楽になってくると思うし。


「わ、我々は、い……忙しいからそんな余裕はない」


「……ぃいい言い出した君が行なえばいい話ではないか!」


 何だと! 自分で考えろって言ったくせに提案すればその態度かよ、フザケヤガッテ。

 憤慨しながら机に盛られてた仕事をとっとと片付けると一人書庫へと向かった。


「……それでですね、碌に手順も教えないくせに指示ばっかりなんですよ」


「それは、苦労したのだな」


 気が付けば書庫の主相手に愚痴り始めているのだった。

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