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見えてるのは、私だけ?

「どういうことなのかと訊いているのだが」


「申し訳ありません。慣れない新人が居たために想像以上に手間がかかっておりまして……」


 本日、復帰したばかりの先輩が少々苛立った副士団長に謝罪している。

 私たちの部署はここ1週間ばかり体調を崩す人たちで溢れ、機能障害を起こしていた。

 もちろん禁書庫での探し物に手間取って。

 あれから毎日交代する先輩と共に書庫へ通い、私が異変を感じないため滞在時間がいつも気づかず長くなっていたらしい。

 ……ってそんなこと、知らんけど。30分ごとに退出ルールとか知らんがな。

 その分、私が仕事を熟して大変だったとか知ってて言ってる?

 とにかくどうにもならない先輩たちを見かねてやってきたらしい。

  

「もういい。私が探す。そこの君、手伝いなさい」


 副士団長が私を指名し、書庫へと付き添うとやっぱりフードを被ったいつもの男性がいた。

 変わらず隅に置いてある脚立に腰かけ、静かに書物を読んでいる。もう主といっても過言ないぞ。

 あれだけ頻繁にいるから書庫に関して詳しい気がしてならない。


「……あの、いつも思うのですが、あの方に尋ねてみた方がいいのでは?」


 必死になって探している副士団長に声をかけ、手のひらを向けてその男の人を指した。

 相手にもその発言が聞こえてしまったのか、こちらに顔を向けた様子。


「何を言っているのか、君は。……誰もいないだろう、と、……おぉ、これだな」


 目当てのものが見つかったと嬉々とする副士団長は早速、入り口近くにある棚の引き出しにその書物を入れた。

 これで今まで掛かった仕事がひと段落したといえる。あとは閲覧者に知らせるのみ。

 禁書は持ち出し不可のため、引き出しに保管した書物を閲覧する仕組みになっている。

 とにかく長時間滞在できない故、読みたい箇所を開いたまま、入退出を繰り返すためにそういう風になっているらしい。

 ……ってあの人はいつもあの片隅で平気そうに読書してるけども。

 思わずその方向へと振り返り、あちらもいつもと違ってこっちを見ていたので会釈して退出した。


「……一体、何をしているのか、君は?」


 部署に戻りながら副士団長が訝し気に見つめる。


「いえ、あの、いつも書庫にいる方にご挨拶を」


「……どこにそのような者がいたと?」


「え、と、あの奥の脚立が置いてある場所にですね……」


 伝えながらも胡散臭そうな表情と化す副士団長が立ち止まる。


「団長クラスか王族でもない限り長居できるはずもないが……、だとしても誰もいなかったではないか!」


「そんなはずは。私、いつも見かけますよ。黒いマント姿の男の方を。……お、王族? 陛下とか殿下ですかね?」


「何を言ってるのだ! 容易にこのような場所へ訪れる方々ではない。しかも頻繁になど有り得ないことだ!」


 言われてみれば確かにそうだ。毎日のように通っていたのに王族がいつもいるとは有り得ない。

 団長クラスも大まかに見知ってるはずだし、何より制服着用のはずだし。

 ……だとしたらあの人は誰なんすかね?


 後日、閲覧者を案内する際に一緒に書庫に赴いた。

 つい癖で奥の方を確認してしまうけど、やっぱりいるんだな、これが。

 向こうも入ってきた様子が判ったのか、こっちを見てる。


「こんにちは!」


 思い切って声を上げ、挨拶をした。気になってるからしょうがない。


「君は何をしているのかな?」


 同行者に変な顔をされ、終いにはアイツおかしい的な噂が流れるようになった。

 これって私だけがあの人が見えてるってこと?

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