願い星―壊したくない関係、知って欲しい気持ち―
『ねぇアルちゃん、明日の土曜日暇~?』
とあるオンラインゲームで、同じギルドに所属している“瑠李”がMP回復のため、モンスターがポップしない安地に避難してからパーティーチャットを飛ばしてきた。
『土曜? うん、別に何も用事はないハズだけど?』
『じゃあさ、久しぶりにデートしない?』
瑠李とは、専門学校で知り合って、イベントボランティアを一緒にして以来、なんだかんだ仲良くなって、こうして一緒にゲームしたりしている。
『ん~、いいよ。 どっか行きたいとこがあるんでしょ?』
『さすがアルちゃん、鋭い! 実は――』
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「りなちゃんごめん、待った?」
待ち合わせ場所である、駅の改札前で立っていると、向こうから“瑠李”こと奈々美ちゃんが駆け寄ってきた。
「ううん、今来たとこ。 ってかそれ、めっちゃ可愛いじゃん、チェックのブラウスとスカートなのかと思ったけど、ワンピなんだ」
「そうなの! 可愛いでしょ? せっかくのデートだから、勝負服~、なんてね」
そう言って、奈々美ちゃんは「にしし」と笑いながら、クルリとターンして長い髪とスカートをフワッと翻す。
ブラウン系の落ち着いた雰囲気の切り替えワンピは、ベルト代わりの腰紐をリボン状に結んでワンポイントにしていて、とっても可愛かった。
「いいよねぇ、なぁちゃんはそう言うの似合うから……」
「う~ん、りなちゃんにも似合うと思うんだけどねぇ」
いやいやいや、私は、なぁちゃんみたいにオシャレさんじゃないのよ。
「普段から、チノパンやパーカーばっかの私が、急にそんな可愛い格好したって――」
「よし、じゃあ、さ、今日は服交換してデートしようよ!」
「――なんでっ!? あっ、ちょっ、待っ――」
そのまま手を引かれつつトイレに連れ込まれ、個室の一つに押し込まれる。
動揺を隠せないままの私を尻目に、隣りの個室に向かったなぁちゃんは、上の隙間から、服を投げ込んで来た。
「あのさ……マジでやるの?」
「うん。 大丈夫だって、りなちゃんとなら、ほとんどスタイル変わんないし、着れる着れる」
いや、着れるかどうかを心配してるんじゃなくてさ……
その、ね?
なんか、なぁちゃんに包まれてるみたいでドキドキしちゃ――いや、そうじゃなくて!――可愛い服を汚しちゃいそうでドキドキするの!うん!
その後、結局、何を言っても私の意見が通ることはなく、なぁちゃんの――
『早く着替えて、服貸してくれなかったら、私、下着姿のままでデートすることに……』
――と言う言葉で、私が折れた。
いや、本気ではないと思うよ?
思うけど、周りの男共から嫌らしい目で見られるなぁちゃんを一瞬想像して、めっちゃ嫌な気持ちになった。
それに。
ホントは、可愛い服にも少しだけ憧れとかがあったし、今日一日くらいなら、とね。
でも、実際着替えてみると、ちょっとだけ後悔した。
「うぅ……落ち着かないよぉ――」
「大丈夫、バッチリ可愛い! あ、髪もアレンジしよ。 ちょっとじっとしててね」
慣れないスカートにそわそわしていた私は、適当に束ねていた髪をあっという間に編み下ろし風のハーフアップにされる。
「よし、完成! うんうん、すっごい可愛い! あ、私の方はそのキャップも貸して~」
「………………」
手に持っていた帽子をひったくられ、かわりに「ほいっ」と渡された鏡に写る私は、いつものナチュラルヘアスタイルの私とは似ても似つかず、なぁちゃんの可愛い服を、それなりにしっかりと着こなしているように見えた。
そして、私の服を着たなぁちゃんは、ポニーテールに髪をまとめていて、何て言うかバスケでもしてそうな、ボーイッシュな雰囲気になっている。
いや、ちょっとまって。
それ、ホントに私が着てた服ですか?
別物じゃない?
いやぁ、着る人でここまで変わるんだね……ははは。
「よし、着替えも済んだし、そろそろ行こっか。 せっかくだから、今日一日は彼氏としてエスコートしてあげる。 行こっ、鈴菜」
「~~~っ///」
もぅ!
そう言うことをいきなり言うの反則!
さりげなく車道側を歩いてくれたり、後ろから自転車が来たら「あぶないよ」って言いながら、そっと引き寄せられたり……なぁちゃんは、マジで今日一日“彼氏”に成りきるつもりらしい。
いつもはふわっと可愛いのに、なんか今日はカッコよく見えちゃって困る。
そんな感じで、ドキドキソワソワしながら、手を繋いで歩いていた私達は、とあるビルの前で立ち止まった。
「行ってみたいお店って言ってたの、もしかしてココ?」
「うん、ここの上にゲーセンとかがあるでしょ? その中に新しく出来たとこに行ってみたくて」
たどり着いたのは町の中心にある、所謂ランドマーク的なビル。
沢山のお店が入ってて、上階にはゲームセンターや観覧車まである、かなり広い建物だ。
ちなみに私は、ゲーセンくらいしか行ったことはない。
こんなところで売っているような、オシャレで高い服を買うことは無いので。
いやぁ、しま◯らっていいよね!
「じゃあ行こ~。 って言っても、まだ予約まで時間あるから――」
あれ、気のせいかな?
なんか嫌な予感が――
「――ついでに、りなちゃんの服も探しに行こう!」
「け っ こ う で す!」
「まぁまぁ、そう言わず。 可愛いの見繕ってあげるから♪」
うわぁぁあ、やっぱりこうなった!
そんな気はしたけど!
そこは裏切ってほしかった!
それからは地獄のような時間だった……。
ある店に行っては試着――
またある店に行き試着――
試着、試着、また試着――
3軒目を終えた辺りから、もう数えるのを断念するくらいに、試着室で着替えまくる羽目になったのだ。
『りなちゃん、似合うね!』
『いや、こう言うのは眺めて楽しむだけでいいや……』
『ちょっとガチでコーデ考えてみました!』
『うん、確かに可愛いし、色味もいいよ? でもな、値札ちゃんと見た? ここでフルコーデなんかしたら、諭吉おじさまが何人天に召されると思ってんの!?』
『めっちゃ可愛いじゃん!』
『いや、コレ着て外を歩けと!?』
オシャレに妥協しないなぁちゃん、怖いです。
結局、数時間連れ回された私の口から、エクトプラズムが出始めたところで、ようやくなぁちゃんの暴走が止まった。
止まって……くれた……。
「いやぁ、ホンットにごめん! つい夢中になっちゃって」
「ウン……ダイジョ~~ブダヨ~」
普段から服に気を使わなさすぎる私が悪い。
こう言うのに免疫が無さすぎるんだと思う。
たぶんそう。
「正直、ちょっと暴走しちゃったかなぁって……」
「あれでちょっとなの!? ……まぁいいや。 ぶっちゃけ私一人だったら着ないような服、色々試着できて楽しかったよ」
そう言って「ありがと」と伝えると、ほんのり頬を染めて「私も楽しかった」と笑ってくれた。
「あ、でも、さすがに疲れたから、ちょっと休憩したいかな。 もう足パンパンで……」
「あ~、そっか、靴も交換したから、りなちゃん今、普段あんまり履かないブーツだもんね。 ……うん、時間も丁度いいし、予約してるお店行こっか」
そう言うと、私の手を引きながら、ゆっくり歩いてくれるなぁちゃん。
そのまま付いていくと、やってきたのは、大量にプリクラ機が置かれたフロアだった。
「ん? プリクラ撮るの?」
「後で撮りたいけど、今は休憩が先かなぁ。 えっと……あ、あったあった」
プリ撮る訳じゃないと言う割に、その足が向かったのは、一台のプリ機なんだけど――
「――故障中って貼ってあるよ?」
「いいからいいから」
そう言って、促されるままに、故障中の貼り紙がしてあるプリ機の中に入った。
――のだが……。
「あれ? 後ろスクリーンじゃないんだ」
「だってここ、そもそもプリ機じゃないからね~。 えっと、パスワードは、っと――」
小さく呟きながら、プリ機の後ろ側の隅になぜか付いていたタッチパネルを操作するなぁちゃん。
その直後――
「うぇぇ!? 何コレ!?」
「すごいっしょ? 隠し扉」
――なぁちゃんが触っていたパネルの横がスライドして、通路が現れたのだ。
手を引かれながら通路を進んでいくと、シックな感じのドアが一つ見えてくる。
なぁちゃんがそのドアを開くと、そこには――
「え? なにココ……? あ、看板……【nanchatte bar】?」
――カウンターといくつかのテーブル席が備えられたバーがあった。
「16時で予約してたんですが」
「――はい、確認いたしました。 カウンターの端の席にどうぞ」
私が茫然と立ち尽くしている間に、なぁちゃんはスタッフさんにスマホの画面を見せて、受け付けを済ますと、私の腰に手を回してカウンターの席へとエスコートしてくれる。
「ちょっ……なぁちゃん?」
「すごいでしょ? 会員制のバーみたいな雰囲気で。 友達から聞いて来てみたかったんだ~。 あ、メニュー、セットコースにしたから、ドリンク2杯とフード1つオッケーだよ、どれにする?」
いやいやいや!
バーなんて来た事ないし!
この雰囲気だけで、ド庶民な私はガクブルよ!?
しかもカクテルの名前なんて、居酒屋で出るカシオレくらいしか知らないっての!
しかも、メニュー表に書かれた値段!
ドリンクの平均価格が1400円!?
コレは間違いなく、来る店を間違っている、ワタシはそう思います……
メニュー表を見つめて、ポカーンしていると、なぁちゃんはそんな私を見て苦笑しながら、「なら一杯目は私が決めちゃうね」と言って、なにやらバーテンダーさんに耳打ちをした。
「――と言うわけなんですが……だめですか?」
「おやおや、それは……わかりました、少しサービス致しましょう」
それを聞いたバーテンダーさんは、にっこり笑ったあと、しげしげと私の顔を眺める。
「え? あ……あの……」
「ふむ……これでいきましょうか」
ダンディーな渋いおじさまに見つめられて、思わず目を泳がせた私だったが……
次の瞬間、バーテンダーさんはバッと棚の方へ振り返り、幾つかのボトルを手にしてカウンターに並べた。
「それでは……」
――と、短く言ったかと思うと、少し大きめなカクテルグラスに、用意したボトルの1つから薄いピンク色の液体を少し注ぐ。
そのまま流れるような動きで、銀色の入れ物に他のボトルの中身を少しずついれて、シェイクを始めた。
「うわぁ――ドラマとかで見るやつだ」
「このシェーカー振るの、なんかカッコいいよね」
バーテンダーさんの動きに、私が感動の声をあげると、隣のなぁちゃんも、なんとなくキラキラした目で見つめながら声をあげる。
そして、しばらく振っていたシェーカーの中身をグラスに注ぎ、オレンジのような果物のスライスを飾った所で、スッと私の前にグラスが差し出された。
「お待たせいたしました。 お誕生日の貴女をイメージした“フェアリーバースデー”です」
目の前に置かれたグラスには、淡いピンクとブルーのグラデーションがキレイなカクテルが、僅かな照明の明かりで仄かに輝いて見える。
「――なぁちゃん?」
「あ、さすがにバレちゃった? 実は、りなちゃんとお誕生日デートしたくて誘ったんだ~」
もしかして、と思ってなぁちゃんを見ると、まるで“いたずら成功”と言いたげなしたり顔で笑っていた。
「言ってくれたらよかったのに」
「それじゃサプライズにならないじゃん。 あ、あとコレ、プレゼント……」
そう言って差し出されたのは、バラがデザインされた小さなハート型のギフトボックス。
「ケース可愛い! 開けてもいい?」
「……うん」
なんとなく、緊張しているように見えるなぁちゃんを不思議に思いながら、ハート型のケースを開くと――
「――ぇ……これ……」
――そこには、銀色に輝く二つの指輪が並んで入っていた。
「こっちが、りなちゃんが生まれた月の、かに座モチーフで、こっちが、私が生まれた月の、てんびん座モチーフの……ペアリング」
「……なぁ、ちゃん……」
「――受け取って、くれる?」
じっとこちらを見つめる、なぁちゃんの目は、今にも泣きそうなくらいに不安が溢れていて――
そんな顔を見てたら、ずっと隠してた“この”気持ちが、私だけじゃなかったんだよ、って言われた気がして――
「――……じゃあ、私は、なぁちゃんのてんびん座がいいな。 ……はめてくれる?」
「……うん!」
そう言って両手を開いて差し出すと、なぁちゃんは、てんびん座の指輪を取って、私の薬指にはめてくれた。
手をかざすと、照明がキラキラと反射して、自分の手のひらに星座が浮かんだように見える。
「ほら、なぁちゃんも手、出してよ」
「…………」
期待と不安がない交ぜになった表情を愛おしく感じながら、もう1つのかに座のリングを取って、両手を差し出すなぁちゃんの薬指にそっと通した。
「りなちゃん……ありがとう」
「ううん、私こそ」
二人揃って泣きそうになりながら、リングのはまった手を合わせていると、不意に鮮やかな紺色と、淡い黄色のコントラストがキレイなカクテルが、スッとなぁちゃんの前に置かれ、私達の様子をチラリと見たバーテンダーさんが、ボトルを棚にしまいながら静かに口を開く。
「左手の薬指にはめる指輪には、“愛や絆を深める”と言う意味の他に、“願いを叶える”と言う意味もあるそうです。 今貴女にお出ししたカクテルは、“流れ星”――素敵な願いを持つお二人には、ピッタリだったかもしれませんね」
突然かけられた言葉に、バーテンダーさんを見ながら、少しの間呆気に取られた私達だったが、すぐにお互いの方へ視線を戻すと、どちらからともなく“クスッ”と笑みを浮かべた。
――そして。
「……それじゃ、飲もっか。 ほらほら、グラス持って」
そう言って、なぁちゃんは自分のグラスを手に取ると、少しだけ傾けるようにして、私の方へと近づける。
それに応じるように、私もなぁちゃんの方へとグラスを近づけ――
「鈴菜、誕生日おめでとう」
「ありがと、なぁちゃ――……奈々美」
――そっとグラスを合わせると、祝福の鐘のようなキレイな音が、リィンと小さく響いたのだった。
最後までお付き合いいただいてありがとうございます。
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作中に登場した施設、お店にはモデルがあります。
モデルにしたお店はアルコールを出さないノンアルバーなので、学生さんもオーケーらしいですよ。
ちなみに私は行ったことありません。
ド庶民なのでガクブルしちゃいます(笑)
ありがとうございましたm(_ _)m