第七話
「・・・す・・・おき・・・・・・。
すいませーん。起きてくださーい。お話が聞きたいんですけどー・・・」
んぁ?誰だこんな朝っぱらから。
眠い目をこすりながら、身体を起こす。
「どちら様ですか?」
「あ、申し遅れました。私、勇者ランキング第16位の甘藍 琴乃花と申します」
あん?勇者だと?勇者なんかが俺に何の用だ。
・・・勇者?
・・・勇者か・・・・・・。
・・・・・・勇者だとっ!?
「よくも、俺をどん底に落としてくれたな、勇者共!!この借りは絶対に返してやるから、覚悟しやがれ!」
「きゃあっ!」
寝ぼけていたせいもあってか、感情の沸点がとても低くなっており、自分で勝手にヒートアップしてしまった。
眠くて重くなっている体を立たせる。
でも、勇者だと!?なぜ、あいつらがここにいるんだ。
それよりも、久しぶり(そこまで時間は経ってないが)に会ったんだから、挨拶はしておかないとな。
「あ、すみません。寝ぼけてまして」
「い、いえいえ。お気になさらず」
「それにしても久しぶりですね。元気にしてましたか、3年A組、出席番号34番の琴乃花さん」
「え?な、なぜそれを!?」
覚えてない!?あ、姿が変わってるからか。元の姿に戻ったら、驚くんだろうなぁ。
よし、元の姿をイメージして。
・・・・・・よし、煙が立ち始めた。
「嫌だなあ。お忘れですか?僕ですよ」
本来の姿であるキモデブオタクに戻りながら話し続ける。
「ど~も~。デブで、頭が悪くて、運動できない。いつも本を読んでいて、友だちが少ないオワコンキャラのー、
利根川晃制でーす☆」
「なっ!?」
案の定、すごく驚いた表情をしてくれた。
「で、こんな俺に何の用ですか。・・・伏兵のつもりの他のやつらもいるみたいですが」
琴乃花の背後にある、大木の後ろに隠れているつもりなのだろうが、バレバレの勇者達がいた。
名前は・・・・・・どうでもいいや。
「・・・色々と突っ込みたいのですが?」
「黙秘権を行使します。というか、俺の質問に答えてください。俺に何のようですか?」
質問を質問で返すなんて、とんだ無礼だな。
ま、寛大である俺はそのくらいでいちいち怒ったりはしないが。
「あなたとはあまり話したくありません。
・・・ですが、これは仕事なので聞かせてもらいます。ここにあるこの大きな傷跡。これについてなにか知っていることはありませんか?」
俺が犯人です、と言いたくなるのをこらえて。
「その前に、後ろにいるお仲間さんたちを呼んだらどうですか」
どうせなら、大人数の前で公言したい。自慢したい。俺tueeeを主張したい。
「バレてるなら隠す必要はないですね。おーい、みんなー!もう、バレてるからこっちに来てー!」
他にもいた勇者たちは、大木の裏から出てきて、俺の前まで走ってきた。
「なんだ、バレてたのか。って、お前は・・・晃制!なんでここに」
「ゲェっ!マジじゃん」
「きっも!」
「俺の半径1メートル以内に入ってくんな!この、『番外』が!」
相変わらずの言われようだな。
さらに、『番外』。
さすがに、この俺でも怒るぞ。
「おーおーおー、よく言ってくれるねぇ。どうせ、お前らもそこまでランキング高くないんだろ。その腹いせに俺をいじめて気を晴らしたいんだろ。情けねー」
「な、なんだと!?俺たちとやる気か、番外のくせに!」
「番外いうな!!俺、絶対にお前らよりも強いもーん!」
こいつら、番外番外言い過ぎだよ。番外の人に恨みでもあんのか?
あ。あったわ。俺、恨まれるような事ばっかりしてたから。
「ほーう。番外のキモデブオタクのくせに言うじゃないか。じゃあいいぜ。やってやろうじゃねえか」
「お、言ったな?しっかりと聞いたぞ。あとで、泣いて謝っても知らないからな」
「あん!?テメェ、キモデブオタクの番外のくせに生意気だぞ!!ぶっ潰してやる!!」
「おん!?やれるならやってみろよ!クソ野郎ども!」
あ、喧嘩売っちゃった。
こんな序盤で、対人戦を行うのは早計過ぎたか?
いや、チュートリアルだと思えばいい。
俺、紙装甲だけど・・・・・・平気だよね?・・・こんな雑魚に負けたりしないよね?
「ふぁぁぁぁああああ・・・。もーう、さっきから騒がしいわよ。こんな朝っぱらから騒いでたら近所迷惑よ」
あ、ハデスが起きた。
「ああ、すまんな。すぐに終わるから、もうちょい我慢してくれ」
こいつらと話すのが面倒くさくなってきた。
こいつらと話してる暇ないんだよなぁ。
こいつらは勇者だからって、優遇されてるからある程度の金を持ってるだろう。
その他にも専用の高価な装備も貰ってるみたいだし。
と、そんなことを思っていると。
「お、おい!誰だよ、この人!」
ん?ハデスがどうかしたのだろうか?
「めちゃくちゃ美人じゃねぇか!晃制のくせに・・・ずるいぞ!!」
「なにがだよ。あ、一つ言っとくが、こいつを勧誘したりはできないからな。そこんところ注意してk」
「おい!取引だ!取引しよう!」
おい、話してる最中だぞ。割り込んでくるなよ。
「おい・・・。まあいいや。で、取引ってなんだ?」
「この人を、俺のパーティに入れさせろ」
「話聞いてたか?こいつの勧誘はできないって、さっき言ったぞ」
「なんでだよ!?」
「まあ、そこは大人の事情ってやつだ」
「なにが大人だよ!俺たちと同年代じゃん!」
4ヶ月もあとに生まれたやつがなに言ってやがる。
「ということだから、諦めてくれ。俺も暇じゃないんだ。そろそろこの話は切り上げるぞ」
そろそろ、今日の仕事を受けに行かなくては。
「お、おい。体中から煙が出てるけど大丈夫か」
「別に気にしないでくれ」
痩せたときの姿に戻ろうとしてるだけだ。
あっちのほうが動きやすいからな。
・・・・・・よし、変身が完了した。
「え?お、お前、いや、あなた誰ですか?」
「利根川晃制に決まってんだろうが。さっきまで話してただろ」
「え、ええ!?お前、変身能力なんか持ってたのか!?」
「な、なんかイケメンなんですけど」
「うん、悪くないかも」
おや?この姿になった途端に、俺に対する態度が変わったぞ。
「ふ、ふん!変身能力なんだから、イケメンに変身できてもおかしくないだろ」
「まあそうだな。ただ、『痩せたい』って思ったらこの姿になっただけだから。多分、痩せたときの姿がこれなんだと思うぞ」
「え、うっそぉ!」
なにが、「うっそぉ!」だよ。俺もこれが痩せたときの姿で合ってるのか分からないもん。
「そうだ!お前が俺たちのパーティに入ってくれればいいんだよ!そうすれば、そこの人も入ってくれる。良いだろ?」
なにが、良いだろ?だ。
嫌に決まってんだろ。
なんだよ、それ。メリット無いじゃん。
「却下だ。メリットがない。断らせてもらう」
「うー・・・」
唸ってるな。
この調子だと、このあともこいつらに捕まったまま、色々と話さなければいけない状況になりかねん。
ここは、早々に引くが吉というもので・・・
「さっきから騒がしいって言ってるじゃない。本来の目的を思い出しなさいよ」
「お前、それを言うなよ!今、ちょうどいい感じに忘れてくれてたところだったんだからさ!」
あーもう。なんでこいつはいらん事掘り返すのかな。
「あ、そうだったそうだった。晃制君、ここにあるこの傷跡。ここで、なにが起こったか知りませんか?」
ちっ。琴乃花も忘れてたし、こいつらから開放されると思っていたのに。
「さ、さあ。なにが起こったんだろうなぁー。起きたらこうなってたからわからないなぁ」
「なに嘘言ってんのよ。これはあんたがやったんじゃない」
まーた、余計なことを!
「本当ですか?」
「こいつの言ってることは嘘だ!俺はなんにもしていない!まったく、ホラ吹くのもいい加減にしろよ」
「嘘じゃ・・・ムガごっ!」
更に余計なことを言う前に、口を塞ぐ。
「晃制君?ちゃんと話してもらいましょうか。一片の嘘なく・・・ね?」
「・・・はい」
そこからは、琴乃花に脅され、洗いざらい吐かされた。
俺がそこにあった池で野宿していたところ、池の主が現れ、襲われ、それに応戦するべく技を放ったところ、こうなったということ。
そして、・・・・・・あとはなにもないか。
俺が話し終わると。
「まさか。そんな事あるわけ無いでしょう。あなたみたいなカス同然の人がこんな事できるわけ無いでしょう。もし、本当ならここで一回、やって見せてくださいよ」
「えー。あれ、俺の腕が色々とやばいことになるから嫌だ」
だって、痛いもん。あれ、すんげー痛いもん。一巡して、快感になっちゃうくらいの痛みだったもん。
「ふん、できないんだろう。もっとマシな嘘つけよ。番外のくせに」
「そーよそーよ。番外のくせに」
「身の程をわきまえなさい。番外のくせに」
番外のくせに、だと?
「おーし、それじゃあやってやろうじゃねえか!目ン玉かっぽじってよく見ておけ!」
無銘の剣をストレージボックスから取り出し、構える。
「『大・切・断』!」
力を剣に込めて、思いっきり振り下ろす・・・
「おーっと、手が滑ったぁ!」
勇者共に向けて。
昨晩のように、地面を裂きながら巨大な斬撃が地面を抉り取りながら飛んでいく。
「うわぁっ!お前、絶対わざとだろう!」
「えー?そんなことないですけどぉー?勘違いなんじゃないですかー?」
「危うく死ぬところでしたよ!」
「死んでないんだからいいじゃん」
「こいつ、認めたよ!俺たちに向かって放ったこと認めたよ!」
俺が、勇者達からの非難をのらりくらりと躱していると。
「あ。・・・お、お前・・・・・・その腕・・・。変な方向に曲がってるぞ」
あ・・・・・・
「ァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
「『ハイ・ヒール』!」
「ふいー」
ハデスがすぐに再生魔法をかけてくれたおかげで、痛みをそんなに感じずに済んだ。
「で、これで信じてもらえましたかね?」
「はい」「あ、ああ」「うん」「そうね」
よかった。信じてもらえた。
いや、俺は怪我をしたし良くはないんだけどね?
よーし、これでやっと今日の仕事に向かえることが・・・
「おーい!大丈夫か!また、大きな衝撃波が城下町に来たから依頼を受けて様子を見に来たんだ!」
・・・・・・できない。
なに?こいつら(ハデス含める)、グルなの?俺を仕事に向かわせないようにしてるの?
俺を餓死させたいの?
というか、来るの早すぎないかい?
「あ、晃制君。久しぶり、といっても数日しか経ってないけど元気にしてたかい?」
ちっ。またいけ好かない野郎が出てきたよ。
「流 蒼錬」
見てくれの通りのイケメンで、内面までもがイケメン。
さらに、剣道の有段者で、世界大会にも出場できるレベルの力を持っている。
リア充、爆発死散しろ!
「なんで、勇者ランキング1位のお前がこんなところに?」
え、こいつ勇者ランキング1位なの?
「ああ、うん。昨日と同じ衝撃が城下町に伝わってきたから、再依頼で来たんだけど・・・これは一体どういう状況なんだい?」
地面についている2つの大きな傷跡を見て、流が状況を聞く。
「あー、これはですね」
琴乃花が、流にこの現場の報告をしていた。
・・・上司と部下。
思わず、笑いのツボにはまる。
「・・・・・・ブフッ・・・」
「ん?何が可笑しいんだい?」
「い、いや。な、なんでもない。大丈夫、続けてくれ」
思わず吹いてしまったことを隠し、話を続けることを促す。
「・・・で、この原因は・・・・・・」
「なるほど・・・。つまり・・・・・・」
何を報告しているのだろうか。
そもそも、なんで報告が必要なのか。
あ、もしかして。俺、重要危険人物に認定されちゃうのかな?それは困るなぁ~。
「なあなあ、そう言わずにさあ。俺のパーティに入ってくれよー。頼むよー」
「却下だ。何度来ても却下。断る」
流と、琴乃花が話し込んでいる間、しつこく続けられる勧誘を断っていると。
「晃制くん。一緒に王宮に来てくれないか」
「・・・なんでだ?」
王宮に来い、だと。なぜだ?ガチで重要危険人物に認定されちゃうのか?
「実は、これは王様から直々に任された任務なんだ。解決するには、依頼主に報告しなきゃいけないんだよ」
ふむ、たしかにそれもそうだ。
でも、
「ヤダ。だって、王宮に行かなきゃいけないってことは、あのクソ司祭もいるんだろ」
「クソ司祭・・・。グルーシスさんのことかな?クソ司祭はやめておいたほうが良いと思うよ」
お、なんだなんだ?少しキレ気味で言ってきたぞ。
イケメン気どりか?
「嫌だね。あいつは、クソ野郎だ。クソ野郎の司祭だから、クソ司祭。俺の中では決定事項」
「取り消してくれないか、今の言葉。グルーシスさんは、僕達に最高のもてなしをしてくれた。装備も用意してくれたし、寝床も用意してくれた。はっきり言って悪い人じゃないよ。今回のような結果を招いたのは、君の日頃の行いが悪かったとしか言えない」
ブチッ
堪忍袋の緒が切れた。今、なんて言った?日頃の行いが悪かった・・・だと?
「・・・言ってくれるじゃねえか。そっちこそ今の言葉を取り消せ。殺すぞ」
殺気をMAXで発しながら、喧嘩を売る。
今のは看過できない。ぶち殺してしまいそうになった。
「君の日頃の行いが良ければ、グルーシスさんの発した言葉に反論してくれた誰かがいたはずだよ。君の日頃の行いが招いた結果としか言えない」
ブチン、ブチンブチンブチンブチンブチンブチンブチンブチンブチンブチンブチンブチンブチンブチンブチン
堪忍袋の尾が、限界を超えてさらに切れた。
「もう、許さない。ぶちのめしてやる」
「君がやると言うなら、僕もそれに応えよう」
「やってやるよ。お前は、俺を怒らせた。後で泣いて謝って命乞いをしても許さないからな」
「分かった。だけど僕は負けないよ。言わせてもらうが、君のような番外に勇者ランキング1位の僕が負けることはありえない」
番外。まただ。また聞いた。
もう聞き飽きた。
デュエル
「『決闘』!」
流が、そう叫んだ。
すると、俺の視界に「決闘を申し込まれました。承諾しますか?」という文字が浮かび上がった。
ついでに、ヘルプも。
なにか見落としていては嫌なので、ヘルプを開き、内容を読み始めた。
・・・・・・なるほど。
要約すると、「決闘を受けるときは、『Yes』」「決闘を断るときは、『No』」と答えろということが書かれていた。
他には、
・「決闘中は結界が周囲に張られる」
・「決闘を受けた場合、賭けるものを決める」
・「開始するまでに、1分間のインターバルが与えられ
る」
・「インターバルが終了した後、開始までのカウントダウンが入る。その間は『金縛り状態』になる」
という事が書かれていた。
この勝負を受けるためには。
「『Yes』!・・・これで良いのか?」
俺が承諾の合図を出した瞬間、周囲に半径300メートルほどの結界が張られた。
結界の中にいた俺と流以外の生物たちは、強制的に外にテレポートさせられた。
「なんで私だけ残ってるの?」
・・・ハデスを除いて。