第五話
突如、俺の周りに、虹のような鮮やかな色のようにも見え、また、赤黒くも見えるオーラが発生した。
そのオーラは、急激に大きくなり、突風を起こしながら部屋中を包んだ。
ゴブリンキングは、そのオーラが起こした突風により、吹っ飛ばされた。
「(外れたい。何もかもから。痛みからも、自分の非力さからも。俺に強さを)」
そう思った途端、不思議と痛みはなくなっていた。
湧き上がる熱い力が、俺を呑み込み、包んだ。
俺は立ち上がる。敵を消すために。
「コウセイ。大丈夫なの?」
またハデスがなにか言っていたようだが、その言葉が耳に入らなかった。
今の俺は殺戮マシーンになろうとしていた。
吹っ飛ばされた敵のゴブリンキングも、また、立ち上がっていた。
さらに、俺が切り離した、なくなっていたはずの足が新しく生えてきていた。
どういう再生能力だよ。HPも3分の2まで回復してる。
だが、どういうわけだか。
妙に相手のことが小さく見えた。
また、俺を見て怯えているふうにも。
なぜだろう。今さっきまで、俺を瀕死に追い込んでいたのに。
俺は再び火の構えを取る。
相手はと言うと。
怯えきっていて、まともに構えを取れていない。戦意喪失しているようだ。
戦意喪失をしていても、容赦はしない。
なぜかわからないが、妙に落ち着いている。
俺は、火の構えのまま、突進した。
さっきまで動いていた速度とは段違いの速さで。
そして相手を間合いに入れ、剣を振り下ろす。
次の瞬間、・・・・・・
相手は裂けた。真っ二つに。
悲鳴こそ許されず。鮮血を飛び散らせることさえ、許されず。
俺の剣は、その勢いのまま、強烈な衝撃波を周囲に撒き散らし、洞窟を破壊した。
凄まじい音が響き渡り、洞窟の残骸が崩れ落ちてくる。
洞窟の残骸が更に発生した衝撃破によって、細かく破壊される。ボスの死体とともに。
もはや、小さな肉片のようになるまで。
そのとき、俺の視界にとある文字が浮かび上がった。
無意識にそれを読み上げる。
「『火之嵐』(インフェルノ)」
辺り一面に、大きな炎の渦が発生した。何本も何本も。
その炎の渦は、目の前にいるボスを、いや、ボスだった残骸を飲み込み、灰にした。
炎の渦はボスを灰にしただけでは止まらず、そのまま残り続け、辺りを焼け野原にし続けた。
俺は火の渦の中心に立っていて、目の前に広がる光景を、ただ見続けていた。
・・・3分くらい経ったのだろうか。やっと、炎の渦が収まり、火が消えた。
特に思うこともなく、辺りを物色する。
目の前には、ボスがドロップしたであろう、大剣と、もう一つの剣が落ちていた。
大剣は、メニューから開いたストレージボックスにしまい、もう一つの剣は、・・・・・・。
「なんだこれは」、と地面から引き抜きながら思った。
その剣は、片手剣と大剣の間の子のような大きさと形状で、赤いカラーリングだった。
そして、なぜだか不思議とこの剣に惹かれるものを感じた。
この剣の説明欄を見ると、・・・何も書かれていなかった。
無銘の剣であり、それでもってなんの説明もない。
まるで俺みたいな剣だな。
マジマジと、剣を見つめたあと、ストレージボックスにしまった。
そのとき、俺の身体が急に重くなった。
いや、重く感じた。
身体の重みとともに、膨大な疲労感も襲ってくる。
立っているのがやっとで、足がフラフラとおぼつく。
今にも倒れてしまいそうだ。
「あ、・・・そういえば、・・・ハデスは無事、か・・・・・・?」
ドサッ、という音を立てて、俺は地面に膝を付いて崩れ落ちた。
まだ寝れない。ここは安全じゃない。
早く、・・・街に・・・・・・帰ら・・・なく、ては・・・。
疲労感に抗うも、負けてしまい、意識が暗闇に呑まれた・・・。