第三話
第3話
金を得るためには、仕事をするしか無い。
俺の入手したスキル『隔絶』は、戦闘向きなので、討伐依頼とかを受ける冒険者的なものになるしかない。
最初のメイン武器は、ナイフか短剣になりそうだな。
「お前、この辺にあるギルドみたいなものって知ってる?」
「知るわけ無いでしょ。私だって、この世に降りたの初めてだもん」
「(なんだよ、使えねーな。神のくせしてしてよー)」
神のくせにナビゲートもできないのかよ。つかえねーな。
「人に聞くしか無いか。でもなー、知ってる人がいないからなー」
うーむ、コミュニティ力がない俺からしたら、知らない人に話しかけるなど、至難の業なので無理である。
「お前聞いてこいよ」
「嫌よ。なんで私が聞いてこなきゃいけないのよ。あなたが聞けばいいじゃない」
「俺はコミュ障なんですー。初対面の人に話しかけるなんて、100年早いんですー」
初対面の人に話しかけるなど、ムリムリムリムリ絶対無理。
「うーん。地図でもあればいいんだけどなぁ」
運良くそこら辺に、地図でも落ちてないかなぁ・・・。
ガサッ
・・・落ちてました。俺の足元に風で飛んできました。
「ラッキー、地図じゃん」
いいねぇ。まるで、俺が依頼を受けるのを、後押ししてくれているみたいだ。
「でも、この辺の地図だとはかぎらn」
「お、この『ハピネスモール』っていう、スーパー。あそこにあるやつと一緒じゃないか」
またまた、ラッキー。この辺の地図だ。
と、いうことは。
「ここの道を真っすぐ行って、武器屋のある十字路を右に曲がって、しばらく真っすぐ行けばギルドがあるらしい」
よっしゃあ!これで、生活資金を貯められるぞ。
「でも、あなた武器持ってないでしょ。どうやって戦うつもりよ」
そりゃあ、決まってるだろう。
「拳と、知識で戦う。序盤の敵、しかも最初なんだ。そこまで難しいものにするわけではないから、『隔絶』の力がある限りほぼ無敵だと思うぞ」
「そういうものなのかな。でも、調子に乗ってたら死ぬわよ?」
「死ぬわけ無いだろう。俺は、元の世界に帰りたいんだ」
元の世界には色々と忘れ物をしてきた。
必ず帰りたい。
「え、元の世界に帰りたいの?それだけ?他の勇者は、この世界の魔王を倒して英雄になって、好き勝手しようとしてるのに?」
「それは赤の他人の話だろう。今の俺は勇者じゃあないんだ。『番外』として迫害されてるんだから、英雄になれるわけでもない」
「あー・・・」
同情はあまりしてもらいたくないな。
これは、自分で選んだ道なんだから。
「話はここらへんにして、ギルドに行くぞ。一刻も早く、金がほしい。ついでに、装備も」
他にも欲しいものは盛りだくさんだが、今必要なのは、金と最低限の装備だ。
「そうね。じゃあ、私もサポートさせてもらうから、ちゃちゃっと終わらせて、お金をどっさりもらおう!」
「よし、やるぞ!」
「合点でい!」
「「えいえい、おー!」」
地図の通りにしばらく歩いていくと、たくさんの冒険者らしき人たちが出入りしている、建物があった。
「あれがギルドじゃない?」
「地図では、・・・・・・あれであってるな。よし、早速依頼を受けに行くぞ!」
地図の通りに進んできたらギルドを見つけたので、ギルドと思わしき建造物に向かって走り。建物内に入っていった。
「えぇー!?冒険者登録が必要?しかも、それをするために金が必要だって!?」
「はい。申し訳ありませんが、そういう決まりになっていますので」
まじか。
うむむむむむむむむむ。
金がないから、こうやって仕事を受けに来たのだが、その仕事を受けるために、金が必要だとは。
冒険者登録ができないから、金が稼げない。
だから、冒険者登録ができない。
悪循環の無限ループだー!
「ちなみに、救済措置みたいなものはないんですか?」
駄目元で聞いてみる。
「一応ございます。仕事依頼を受けた報酬から引かせてもらう方法がありますが・・・、それでよろしいのですか?」
「それでお願いします」
よかった。救済措置を受けられた。
ついでに、最低限の装備が無料でもらえないか、聞いてみる。
「あと、初期装備の在庫処分品とかはないですか?自分、こういうの初めてで、準備とかしてないんですよ」
「うーん・・・。革の胸当て、籠手、足鎧ならありますが、それ以外はちょっと・・・」
「それだけでも、十分ありがたいです。ぜひ貰えないでしょうか」
「でしたら、そこにある受付で、登録をしてお待ち下さい。少し、時間がかかるかもしれないので、もし登録が終わったら、依頼を見ててもいいですよ」
そう言い、依頼表みたいなものをくれる受付の人。
・・・この人、いい人だなあ。神様に見えてきた。
「分かりました」
そう言って、案内された受付に移動する。
「こちらに、名前、生年月日、職業を書いてください」
しょ、職業だと!?剣士とか、弓使いとか、そういうのか。でも俺、そんなの無いよ。
「あ、あの。俺、初めてなんで、職業が無いんですが」
せいせき
「でしたら、こちらの聖石にお触れください」
黒い石を俺の前に置いてきた。
聖石と呼ばれる割には、黒くない?
普通、聖が付くものは白色だよね。
そんなことはどうでもいいか。
要は、これに触ればいいんだな。
どんな職業になるのか楽しみだなぁ。
右手を伸ばし、その黒い聖石に触れた。
すると、白い光が聖石から発せられる。
そして、一枚の紙が聖石の横についている平べったい穴から出てきた。
「はい。あなたの職業は、『放浪者』ですね。
・・・頑張ってください」
ほ、放浪者!?放浪者って職業なのか!?完全にハズレ枠じゃないか。
なんじゃそりゃ。俺のゲーム知識にも、そんな職業はないとの結果が出る。
スキルでは当たりを引き、職業ではハズレを引く。
いや、まだジョブチェンジという可能性が残ってる。それを信じるしか無い!
「あとは、名前と生年月日を記入していただければ結構です」
そう言って受付の人が書類と羽ペンを差し出す。
名前・・・かあ。
どうせだから、この世界での名前を決めたいな。
俺は、前の俺ではないという、決意表明のためにも。
どういう名前にしようかな。・・・うーん。
・・・よし。今日から、この世界での俺は、「クロノス・D・オーメン」だ。
元の世界では、「クロノス」は、時間の神格化したものとなっているが、もう一つの意味を持っている。
それが、「混沌」。
この世界は、混沌にまみれている・・・はずだから、クロノスをつけておいた。
あとは、とりあえずかっこよさげな、神の天敵を表す「D」と、これまたかっこよさげな「オーメン」をつけておいた。
と、いうことで。
今日から俺は、「利根川晃制」ではなく。「クロノス・D・オーメン」だ。
よろしくおねがいします。
そのまま名前を書き入れ、生年月日も記入して受付の人に渡す。
「はい。クロノスさんでよろしいですか?」
「お願いします」
「それでは、これで登録完了です。ぜひ、困っている人たちのためにも、依頼を受けてください」
登録が終わったので、さっきもらった依頼表を開いて、中身を見る。
うん、いろんな依頼がある。戦闘だけではなく、掃除などの、お手伝い系もある。
でも、やっぱりこの世界ですることと言えば、やっぱり戦闘。
だから、この『ゴブリン(nothing)の群れの討伐』の依頼でいいかな。うん、これにしよう。
依頼を決めていたら、さっきの受付の人が、革鎧の在庫処分品を持ってきてくれた。
「どうぞ。・・・依頼は決まりましたか?」
「ああ、はい、決まりました。この『ゴブリン
(nothing)の群れの討伐』にします」
「分かりました。それでは、こちらに」
受ける依頼を伝えたら、またまた案内された。
今回連れてこられたのは、妙に小さい部屋で、部屋の中心に半径1メートルほどの幾何学模様が描かれている特殊な部屋だった。
「それでは、この魔方陣の中心に立ってください」
指示通り、魔法陣の中心に立った。
「転送!」
まて、『転送』だと!?俺をこの世界に送ってきた、魔法じゃないか。こんな序盤にそんな重要なキーワードが聞けるとは。
そのまま、視界が暗転した。
視界が戻った時に居た場所は、森の中だった。
なるほどここが、ゴブリンの群れがいる場所か。
「さあ、さあ!初仕事頑張るわよ!」
「おう!言われなくても、そのつもりだぜ!」
そのまま、ゴブリンの群れを探しに走った。
しばらく走り回っていると、とあるものを見つけた。
「おい、見てみろ。これ、ゴブリンの足跡じゃないか?」
「そうね。これくらいの大きさだと、多分ゴブリンのものね」
これを辿っていけば、ゴブリンの群れに遭遇するわけだな。
・・・おもしろい。やってやろうじゃないか。
足跡を辿っていくと、洞窟の入口が見えた。
多分あの洞窟が、ゴブリンのねぐらなのだろう。
殲滅してやろうじゃないか。ご親切に、近くにあるこの爆弾樽でな。
さらに親切なことに、洞窟の入口脇に松明が置いてあるから、これで着火させてもらおう。
さーて、初の戦闘開始だ。
「おい、お前さん。ちょっとこの中に入ってきてくれんか。ゴブリン共を引き寄せてくれると助かる」
「なんで、私が囮なのよぉ!あんたが行けばいいじゃない!」
「はて?囮?なんのことでしょうか?」
こいつの言ってることは、正しい。
こいつを囮にして、ゴブリンを入口近くまで引き寄せてもらい、そこを爆弾樽で、ドカン!
だが、こいつは嫌がるはずなので、そこはうまくごまかさないとな。
「俺が言ってるのは、囮じゃなくて、誘導だぞ。囮と誘導は違うからな。囮は助かる確率が限りなく低い、無謀な誘導のことを言うが、誘導は確実に安全が保証されてることを言うんだ」
「あ、そうなの。じゃあ、いいわよ。たくさん引き付けてあげるわ」
あ、こいつバカだ。簡単に騙されてるじゃん。阿呆が。
「よし、じゃあ行ってこい!」
うまく丸め込めたので、中に向かわせた。
爆弾樽を入口付近にセットし、松明を持って遠くに離れる。
あとは、出てくるまで待つだけだ。
しばらく待機していると。
「ほらほら、こっちー!捕まえられるんだったら、捕まえてみなさい!べーだ!」
という声とともに、たくさんの足音と、うめき声のようなものが聞こえてきた。
「遅い遅い!私に追いつくなんて、8万年早いわ!・・・今よ!やっちゃってー!」
ハデスがなにかの袋を抱えながら出てきたので、爆弾樽に向かって松明を投げる。
松明を投げたと同時に、洞窟から緑の身体をした背の低い、子鬼のような奴らが大勢出てきた。多分、あれがゴブリンなのだろう。
その数、目視しただけでも30を超えていた。
なにかに怒っているようだったので、俺を見つけた途端に向かってきた。
しかし、もう遅い。松明が爆弾樽に当たり、着火した。
ワンテンポ経つと、轟音とともに大きな爆発が起こる。
俺は見た。たくさんのゴブリンが吹っ飛んでいく様を。
爆発によって起きた砂煙による視界不良がなくなったので、洞窟の入口付近に目を向ける。
・・・そこには、何も残っていなかった。残っているのは焼け跡のみ。死体も吹き飛んでしまったようだ。
俺の視界の端に、「レベルが上がりました」と、表示が現れた。
よっしゃ、この世界で初のレベルアップだ!さてさて、どれくらいステータスが上がったかな。
ステータスカードを呼び出す。そこには、レベルが6になったと表示されていた。
ステータスは、レベルが1の頃と比べると、7倍近くまで全体的に上がっていた。
いいねぇ。一気に強くなっちまったよ。
ここで一番気になっていたことを聞く。
「お前、その袋何なの?」
洞窟に入る前には持っていなかったのに、出てきたときには持っていた。何なのだろうか。
「ああ、これはね、武器よ。あんた手ぶらでしょ?だから、誘い出すついでに奪ってきたのよ」
・・・こいつ、バカだけど有能だ。
袋の中を見てみる。
中には、・・・片手剣、石斧、大剣、戦鎚、木製の槍が入っていた。どれもこれも、ボロボロではあるが、使えることに変わりはない。しっかり持っておくことにしておこう。
片手剣と、槍だけ身につけておいて、その他は、メニューにあった、『ストレージボックス』に入れておく。
「よーし。残りを血祭りにあげにくぞぉ!」
「「おー!」」
こうして、俺たち二人は魔物の巣窟である洞窟に入っていった。