第一話
・・・転送(あの謎の男が、「転送!」と叫んでいたからそう推測する)された場所は、とても豪華な建物の中。
城の中だった。
そして目の前には・・・。
絵本に出てきそうな格好をした、王様がいた。
結構豪華な晴れ着を着ている。
俺がしばらく王様に注目していると、その王様は俺たちの方を向いて。
「おお!そなた達が勇者か!この日を、長い間待ち望んでおった!ついに!・・・ついにじゃあぁぁぁ!」
と、叫んできた。
・・・・・・なぜ叫んだのか。誰も理解できなかったようで、またまた沈黙が訪れる。
そんな沈黙を破るようにして、変な格好をした男の人が前に出てきた。
白銀のミトラに、青い衣。さらに、豪華な装飾が施された杖。
俺のオタク人生からの経験検索の結果、・・・こいつは多分司祭だと思う。ここの最高司祭とか、そういう類の人だろう。
そして、その司祭(?)は俺達の前まで来ると、突然跪いた。
そして、
「ようこそお越しくださいました、勇者様方。私、この国の最高司祭を務めております、『グノーシス・セント』、と申します。以後、お見知りおきを」
と、話しかけてきた。
やはり司祭だったか。俺の推測は当たっていた。さすが俺。
俺はある程度理解が追いついてきたが、周りの皆は理解できていないようで、誰も口を開かない。また沈黙が訪れている。
こういうときは、理解が追いついていて、尚且つ、日頃の妄想でシミュレーションしていた俺が救いの手を差し伸べなくてはな。
「あのー。俺たちは、勇者としてこの異世界に転送、または召喚されたということでいいんですか?」
俺は、そのグノーシスとかいう、司祭に話しかけた。
「はい。そうでございます。あなた方は、私達が送った探索者が転送してきた、勇者なのです。私たちの国では、勇者様方一人一人に、偉大なる神、「ゼウス」様からチートスキルを贈られるという伝承があります。なので、勇者様方には、一人一人にチートスキルが贈られているはずです」
チートスキル来たー!
これで無双をして、英雄になれば・・・。
グヘヘへへ・・・。
おっとっと。危ない危ない。
にやけないように顔を引き締める。
さらに理解を深めるために、質問を繰り返す。
「なるほど。つまり、この国は何らかの事情があって、強い人が欲しかった。だから、俺たちを勇者として呼び出した。・・・という事で合ってますか?」
「そのとおりでございます。いやあ、勇者様方は理解が早い」
いや、理解できてるの俺だけだと思うけど・・・。
「で、その事情はなんなんだよ」
やっと、理解が追いついた人が出てきたようで、質問の声を上げる者が出てきた。
こがらし けん
クラス委員長である、「小嵐 絢」だ。
「いい質問ですね」
話してはいけないとかの問題はないらしく、答えてくれた。
「これから話す内容は、あなた方の義務であることですので、しっかりと覚えておいてください」
義務・・・。
一体どんな義務が俺たちに課せられるのだろうか。
「魔物達が、邪教であるハデス教についているのです!普通なら、ゼウス教につくはずでしょう!それが、なぜハデス教なんかに!許せません!偉大なるゼウス様より邪神ハデスを信仰するなんて!なので、その魔物共を、根絶やしにしてほしいのです!」
・・・・・・は?それだけ?
「え、・・・そ、それだけですか?」
あっさりすぎて、どうでもいいような義務に唖然とした俺は、思わず聞いてしまった。
「はい。ですので、あなた達、『勇者』の仕事、義務は、『魔物の殲滅』です!
おわかりいただけたでしょうか?」
いやいや、そんなあっさりとしてて、どうでもよさそうな内容に納得できるわけが・・・
「わかりました!」 「まかせとけ!」 「まず何をすればいいの?」 「チーム組もうぜ!」 「いいよ!」 「役職なににしようかな〜」
・・・なぜかできてました。
「え?いやいやいや、理解できないでしょ!」
俺が、その場の雰囲気に反論すると。
「は?何いってんだお前?」みたいな目で見られる。
え?俺っておかしい?
「困っている人がいるなら、助けるのが普通のことだろ!」
「そうだぞ!」「そんなことも分からないなんてサイテー」「人間のクズだな」「死ねよ」
「地獄に堕ちろ、この×××××」
え、えぇ?
何故か罵倒される俺。
普通なら、疑問に思うよね?・・・ね?
俺がクラスのみんなから誹謗中傷を受けていると。
「おーい、晃制く〜ん」
声をかけるやつがいた。
きど こうた
「木戸 高太」 俺をいじめてたやつだ。こいつから受けた恥辱は数知れず。一番キライなクラスメイトである。
「一緒のチームになろうぜー。荷物持ちとして大切に使ってやるからよ。いいよな?」
いいわけがない。ここは、元の世界とは違う世界なんだ。俺の人生は、俺が決める。
「断る。お前に従う理由はない。俺は俺の好きな通りに生きる」
ふっふっふ。さっきこっそり、自分のステータスを確認しておいたのだ。
右手を勢いよく開いたら、メニューが表示されて、そこからステータスが見れた。
その結果、俺は防御力が特出して高かった。つまり、こいつの攻撃など一切、効かないわけで・・・
「てめぇ!何様のつもりだ!?こらぁっ!」
・・・急に殴られた。木戸の拳が俺の腹に当たり、『どすっ』という音を立てる。
うん、やっぱりだ。全然痛くない。
この世界ではステータスが絶対のようだ。
俺は無傷の状態で木戸のことを見据える。
「今、なにかしたのか?」
ごめんなさい。嘘をつきました。本当は、少し痛かったです。痒くなるくらいに。
さて、次はこちらが攻撃する番ですな。
「ドッセーイ!」
俺は体当たりをする。
『ドンッ!』という音を立てて、木戸は吹っ飛んでいった。
「ふんっ、口ほどにもない。弱すぎるな」
これ、言ってみたかった。
俺は縛られない。縛ってくるものがあったなら、俺はそれを隔絶して自由に生きてやる。
「グノーシスさん。すまないが、俺は勇者をやめさせてもらう。俺は、そんな義務を背負いたくない」
グノーシスさんにお断りの返事を言っておく。
「残念ながら、義務から逃れることはできません。ステータスメニューに、『勇者ランキング』というものがのっているでしょう?それが書かれている限り、あなたは勇者なのです」
即答かよ。すんげー押し付けてくるじゃん。
でも、勇者ランキングというのが気になるので、ステータスメニューを確認してみた。
しばらく探していると、見つけた。
確かに、ステータスの下にある職業欄に、勇者ランキングと言うのが書いてあった。
「ー/36位」とでていた。
なんじゃこりゃ。
多分、順位が書かれてあるであろう場所に、横線があるだけで、数字が書かれていなかった。
「何なのこれ?」
そう言って、グノーシスさんに見せる。
「拝見します」と、言って覗いてきた。
あ、これ他人にも見えるんだ。
グノーシスさんはしばらく眺めていたが、
「わからない」というふうに首を傾げた。
「おかしいですね。普通なら順位が書かれているはずなのですが、何も書かれておりませんね」
やっぱりな。おかしいよね、これ。なんかのバグかな。
グノーシスさんは、「少し離れます」と言って、どこかに行った。
どうやら、少し時間がかかりそうなので、情報の整理をしようと思う。
まず、1つ目。
俺たちは、この世界から送られてきた「探索者」という男に、「勇者」として転送された。
そして、2つ目。
俺たち勇者の義務は「魔物の殲滅」であること。
更に3つ目。
「勇者ランキング」というものがあり、これによって勇者内の序列や、強さが分かり、さらに勇者であるという証明ができる。
4つ目。
勇者には、一人一人、チートスキルが贈られている。
以上の4つが、今わかっていることである。
と、情報の整理をしていると、グノーシスさんが戻ってきた。
そして、
「各神官たちとの審議の結果。順位が書かれていない理由は、とても弱く、戦力外であると我らが偉大な神、ゼウス様がお決めになったためだと分かりました。ですので、これからあなたの「勇者」としての称号を剥奪!『番外』として戦力外通告をさせていただきます」
と、言ってきた。
は・・・?どういうこと?
もちろん、突然のことで俺は納得できていない。
おかしい、おかしすぎる。
俺の中で、熱いものが湧き上がってくる。
「は!?おかしいだろ!俺は弱くない!チートスキルがあるはずだ!なんで、番外として迫害されなきゃならないんだ!」
いき
熱り立って、反論する。
「番外とするのは、あなたのステータスカードを見れば明らかです。さらに言わせてもらいますが、その体型でまともに戦えるとは思えません。それに」
それに?
「あなたにはチートスキルがありませんでしたから」
・・・え?俺にチートスキルがない?
そりゃあ、他人に見られたくはないと思ったけど、そんなことは無いだろう。
「それらを、見越した判断です」
「チートスキルも持ってないなんてwww」「あいつ、戦力外だってさ」「確かに、インキャだったしね」「当たり前のことだよな」「すぐに死んじゃうんじゃなーい?」「かわいそーw」
グノーシスさんは、いや、グノーシスは、軽蔑した目で俺を見ていた。まるで、無力な人間を邪魔に思うような目で。
クラスメイトも、軽蔑した目で俺を見ていた。
この状況を止めようとオロオロしてるやつは数人いたが、俺に対して軽蔑の目を向ける者が多数いるため、行動に移せないようだ。
こいつらの輪にはいられない。直感的に悟った俺は、その場からすぐに逃げ出した。
周りが何も見えない。俺の頭の中が、混乱している。
ここにいたくない。早くこの場から逃げたい。
出入り口と思わしき扉に縋り付き、思いっきり開け、外に向かって走り出した。
こうやって、俺は何も知らない世界へと旅立っていった。