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第十話

流や琴乃花、その取り巻きといった、勇者達から逃げ延びた俺は、ハデスの姿になっていた。

「(唯一無二の存在である私がもう一人いるってのが、なーんか気に食わないんですけど)」

「我慢しろ。バレたら多分殺されるぞ」

「(どうして?)」

「お前は邪神という存在として、人間たちに認識されてるから」

「(なにそれ、ひっどーい!?私は、人間、魔者の両者を贔屓なく裁いているのに!)」

「代わりに、『ゼウス』がとても信仰されてる」

「(ええ!弟のくせに!?生意気なんですけど!!ムカつくー!)」

「おいおい」

神様の王に対抗心燃やすなよ。

「(悔しいものは、悔しいもん)」

うん。それは俺にもわかる。

という感じで、城下町まで逃げてきた俺は裏路地に身を潜めていた。

だが、裏路地で一人。しかも、女性の姿をとっていると。

「よお、そこのナイスバディのお姉さん。俺とイイコトしない?」

と、チンピラに絡まれてしまう。

なので、俺は。

「間に合ってますぅ!」

「ぶげぇっ…!」

絡んでくる奴らに、片っ端から回し蹴りを喰らわしていた。

そして、逃走。

「ほな、さいなら」

「あああぁぁぁ!俺のイケメンフェイスがぁ!」

チンピラとは反対の方向に向かって、走り出す。

お前の顔は、イケメンじゃねえ。

「(あんたの顔は、イケメンでも何でもないわよ!)」

さらにハデスも、俺の心のなかで叫んでいた。

「(それを、あいつに言えば良いのか?)」

「(うん。お願い)」

俺は、後ろにいるチンピラの方を向き、そして。

「あんたの顔は、イケメンでも何でもないわよ!この、年中無休発情期の豚野郎!」

ハデスのセリフ(一部は俺が追加した)をそのまま言ってやった。

「(最後の一言、余計よ!)」

いや、ああいう調子に乗ってるやつには、これくらい言ってやらないと気が済まない。

というか、

「お前の体、小さいなぁ。服のサイズが合わないから、走りづらい」

「(しょうがないじゃない)」

ハデスの身長は、160あるかないかくらい。

対する俺は、178センチ。

10センチ以上の身長差がある。

「あいたっ!」

身長差のせいで、ズボンの裾を踏んづけて、転んでしまった。

「・・・お前のせいだからな」

「(なんで私のせい!?)」

お前の体が小さいせいだ。

転んだ俺は起き上がり、そのまま逃走を続けた。




そして、次の日の朝。

「ね、眠い」

「(お疲れ様)」

俺は、絡んでくるチンピラに片っ端から回し蹴りをして追い返していたため、まったくもって眠ることができなかった。

まぶたが重い。

「ど、どうしよう。眠い。・・・ハデス、なんとかできないか?」

そうやってハデスに助けを求めたところ。

「(しょうがないなぁ)」

そう言って俺の前で実体化し、

「寝てな。私が、見張りをしてあげるから」

と、頼り甲斐のある姉御のような口調で言った。

何を偉そうに・・・と言いたいところだが、俺は素直に従うことにして、横になった。




しばらく熟睡していると・・・。


ぐぅぅぅー


という音が聞こえてきて、俺は目を覚ました。

「お腹すいたぁー」

ハデスが俺の体を揺さぶってきた。

「・・・我慢できないのか?」

「できないっ!」

そんな自信満々に言えるようなことではないとは思うんだけどなぁ・・・。

「・・・これで、自分の好きなものを買って食うといい。ついでに、俺の分も買ってきてくれると嬉しい」

ギルドの受付の人からもらった、報酬金が入っているなにかの動物の革からできた袋から、銀貨を1枚取り出して渡す。

「えー・・・」

「一人でおつかいくらいできるだろう」

「できるわけ無いでしょ!?いままで、おつかいなんてしたこと無いんだから。というか、お金って何?どこで買えばいいの?どれくらい払えばいいの?お金の単位は?そもそも、買うってなに?」

「どっかの、お嬢か!」

まさかそこまでとは。少しはその可能性について考えてはいたが、そこまでだとは考えてはいなかった。

「・・・その感じだと、お金の単位については」

「さっき言ったよね、知らないっ!!」

「デスヨネー」

困った。すごく困った。俺も、金の単位についてまったくもって知らないのに。

「なに?私が死を司る神様だから、ってかけてるの?つまんないわよ、それ」

「いや、そういう意味で言ったわけではないんだけどなぁ・・・」

ハデスが一人で買い物に行けないとなると、

「俺も一緒に行くしか無いか」

ため息をつき、まだ寝たいと我儘を言う自分の体に喝を入れて、立ち上がる。

「俺も一緒に行くよ。金の単位がわかってないと、この先苦労しそうだしさ」

「よし、足ゲット!!ところで、あんたいつまで私の姿でいるつもり?」

「あ・・・」

そういえば、そうだ。

この姿のままだといけないなぁ。

もともと(痩せてるとき)の姿に戻る。

「で、どこに行けばいいの?」

こっちが聞きたい。俺は、ここら一帯についてなにも知らないし、そもそもどうやって買えば良いのかわからない。

「そういえば、ギルドの近くにハピネスモールってやつがあったな。あれ、スーパーマーケットじゃなかったっけ。あそこで買えるんじゃないか?」

「そうなの?へぇー、なるほどね。スーパーマーケットってところに行けば、食べ物を買うことができるのね。へぇー」

「金の単位がわからないから、買えないんだけどな」

「「・・・・・・・・・・・・」」

謎の沈黙。

そして、

「どうすんのよー!このままじゃ、餓死しちゃうじゃない!」

「お前、神様なんだろ!なんとかしろよ!」

「無茶言わないでよ!あんた、勇者なんでしょ!?そっちがなんとかしてよ!」

「うるせー!俺は勇者を辞めたんだから、そっちこそ無茶言うな!」

道のど真ん中で口論を始めた。

道のど真ん中で、しかも人混みの中心で口論を始めたのだからもちろん。

「中のいいカップルねぇ」

「青春してるわね。でも、もうちょっと場所を考えるべきよ」

「リア充爆発しろ!」

おい、最後のやつただの罵倒じゃねえか。

あと、こいつと恋仲のように見られるのは不快だ。訂正してもらいたい。

「お前のせいで、めちゃくちゃ注目されちまったじゃねえか!」

「あんたが、金の単位がわからないせいでしょ!」

「まだ、こっちの世界に来てから一ヶ月も経ってねえんだぞ、無茶言うな!」

「私だって一緒よ!」

しばらくの間、口論を続けた俺たち。

このまま口論を続けても、進展がないため、俺たちは地図の「ハピネスモール」という場所に向かった。




さて、その目的地についたわけだが、俺は衝撃を受けていた。

「ま、まさか、この世界にも自動ドアがあったなんて・・・」

そう、自動ドアがあったのだ。

ある程度、文明が進んでいるとは思っていたが、自動ドアがあるとは思ってなかった。

「いらっしゃいませー」

中に入ると、店員から元気のいい声が聞こえた。

「なにをお探しですか?」

え?話しかけてくるの?

ど、どうしよう。初対面の人と話すと緊張して、声が震えちまう。

「あ、・・・え、えーと・・・。しょ、食料を・・・さ、探してまして・・・。安いものはないですか」

よし、しっかりと話せたぞ。ミッション成功!よくやった、俺!

「はあ。安いものでしたら、缶詰などはいかがでしょうか」

缶詰か。保存可能期間が長くて、あまり大きくないからかさばらない。いいね。

「あ、じゃあ、それでお願いします」

「では、こちらの缶詰コーナーにどうぞ」

優しい店員だなぁ。案内までしてくれるなんて、感謝に尽きます。

「コチラ側から、銅貨1枚、2枚、3枚、5枚の品となっております」

銅貨か。えーっと、銅貨って確か、(ゴソゴソ)・・・これだこれだ。

革袋の中から、小振りの銅貨を取り出して、店員の前に出す。

「銅貨ってこれのことですか?」

「いえ、それは小銅貨ですね。それが10枚で、銅貨一枚分となります。・・・あのー、失礼ですが、お金の単位って分かります?」

「分かりません」

ありがとう、店員さん。その救いの手は、とてつもなくありがたいです。

「でしたら、こちらのサービスカウンターへどうぞ」

「ありがとうございます」

いや、本当にありがたい。時は金なり、金は時なり、ってな。

店員に連れられて、サービスカウンターのような場所に行った。

「こちらのお客様に、お金の単位を」

「分かりました」

サービスカウンターの店員が素早い動きでなにかを準備する。

「では、お客様こちらにどうぞ」

なんらかの準備が終わったようで、呼ばれた。

「どうぞ、そこにお座りください」

指示された通り、座る。

「これから、お金の単位について、ご説明いたします、ハピネスモール店員の『マコト』と、申します」

「あ、よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」 

それでは、と何やら硬貨を俺の目の前のテーブルの上に乗せた。

「これらが、お金。いわゆる通貨というものです。分かりますか?」

「はい、分かります。一番小さい通貨はどれですか?」

店員、マコトさんは一番左の小さい銅貨を指さしながら言う。

「こちらが、小銅貨。一番小さい通貨です」

なるほど。つまり、これが1円ね。

「じゃあ、次に小さい通貨には、これが何枚必要なんですか」

「10枚ごとに、次に大きい通貨になっていきます」

十進法!!よし、これでわかったぞ。マスターしたぜ!

100進法とかだったらどうしよう、って思ってた。よかった。

「あ、もうだいじょうぶです。あとは、通貨の種類を教えていただければ」

「え・・・。本当ですか?で、でしたら、こちらの銅貨は、何枚で大銅貨3枚分になるでしょうか?」

「30枚」

「・・・あたりです。・・・もしかして、少し親御さんたちから教えられていましたか?」

え、これって素直に、異世界からやってきました的なことを行っても良いんだろうか。

どうなんだろう。

でも、漫画とかだとここで素直に言ったら、捕縛されちゃう展開になるよな。

「うーん・・・・・・」

「どうしました?」

「あ、すみません。少し考え事をしていまして。えっと、お金の単位について教えられてたか、でしたよね?はい、少しだけ教えられていました」

「そうですか。じゃあ、あとは硬貨の大小関係だけでだいじょうぶですね」

「はい」

「では、お客様から見て右から小さい順に。小銅貨、銅貨、大銅貨、小銀貨、銀貨、大銀貨、小金貨、金貨、大金貨となっております」

「なるほどなるほど」

つまり、日本円に換算すると、小銅貨が1円。銅貨が10円、大銅貨が100円。小銀貨が1000円、銀貨が1万円、大銀貨が10万円。小金貨が100万円、金貨が1000万円、大金貨が1億円、となるわけだ。

・・・あれ?こう考えると、缶詰一個が銅貨1枚って安すぎないか?

食料とかが、豊富な世界なのかな?

「他に聞きたいことはございますでしょうか?」

「もうありません」

「それでは、このあともお買い物をお楽しみください」

「あ、ありがとうございました」

「いえいえ」

ふむふむ。

なるほどねん。食料って結構安いんですね、この世界。

俺の所持金は、大銀貨5枚と、小銀貨3枚。大銅貨8枚と、銅貨が6枚、小銅貨が2枚。

日本円で、50万3862円。

「あれ?俺って金持ち?」

相当な大金だぞ。めちゃくちゃの大金だぞ。少なくとも、俺のような学生が持って良いような金額ではない。

◯◯◯棒が、5万386本買えるな。

よし、この大金で缶詰20個くらいは買っておくとするか。

「あれ、そういえばハデスはどこに行ったんだ?」

辺りをキョロキョロと見渡す。

・・・いた。俺の隣で眠ってた。

「おい、起きろ」

「・・・むにゃむにゃ。・・・フガッ。ああ、終わった?」

こいつ・・・。俺が話を聞いてる間、隣で寝てやがったな。

「痛い痛い痛い痛い痛い痛い!耳引っ張るのやめて!!」

ハデスの耳を引っ張りながら、缶詰のところに向かった。

良い目覚ましになるだろう。



さっき案内された缶詰コーナーに向かっている途中、とあるものが目に止まった。

ぶーんぶーんぶいんぶいん、と音をたてながら俺の周りを飛び回っている。

羽虫だ。一匹くらいだったら居ても当然だと思うだろう。

しかし、

「な、何だこれ?」

俺の目の前にある生鮮コーナーの上には、ぱっと見で50匹は超すであろう羽虫の大群が存在していた。

これは、普通のことなのだろうか。

でも、食べ物にたかっているわけではないから、いいのか・・・?

「どうしたの、コウセイ?」

「あ、いや、なんでもない」

よく分からなかったので、素通りして缶詰コーナーに向かった。




「お会計、大銅貨3枚になります」

「ほい」

大銅貨を3枚手渡す。

銅貨2枚の缶詰を5個と、銅貨1枚の缶詰を20個買っておいた。

「これでしばらくは食料に困らないな」

「こんな味気ない食べ物なんて、嫌だー!」

「子供みたいな我儘こねてんじゃないの」

右手を勢いよく開いて、メニューを開く。

俺の視界にメニューが現れたので、ストレージボックスを開き、缶詰をぶち込む。

「よし、仕事にレッツゴーだ・・・」

今日の仕事を始めるために、ギルドに向かおうとした瞬間。




ブウーンブウーン




また羽虫の羽音が聞こえてきた。

「なんだよもう。さっきからブンブンブンブンと」

どこからともなく発せられる羽音に、文句を言う。

すると


ブーンブーンブーンブーンブーンブゥゥゥゥゥゥーン



まるで、文句を言うように、どんどん羽音が大きくなる。

「あれ?なんかこれやばくね?」


ブゥゥゥゥゥゥーン


羽音の音が最高潮になった瞬間。

「モンスターモスキートだー!!逃げろー!!」

誰かの警告が聞こえてきた。そして、



ドンガラガッシャーン



と、スーパーの壁を突き破って、体長8メートルは超すであろう、超巨大な蚊が建物の内部に侵入してきた。

「・・・・・・・・・・・・」

「どうするのコウセイ」

「・・・・・・・・・・・・」

「コウセイ?」

「・・・・・・・・・・・・(ちーん)」

俺は、静かに気を失っていた。

「ちょっとー!!気を失っている場合じゃないわよ!」

ハデスが、俺にめざましビンタをする。

しかも、往復で。

「・・・・・・。・・・はっ!!」

「目を覚ました!!速く逃げるわよ!!」

「お、おう!」

こんなやつと戦っても勝ち目はないだろう。

そもそも、俺には格闘センスがない。

戦えない俺は、戦線離脱した。

「どこから逃げる?」

「裏口があるはずだ。そこから逃げるぞ」

「オッケー!」

裏口がある場所といえば、店員の休憩室だな。

と、なると。

「サービスカウンターのとこのに向かうぞ。あそこには、店員の休憩室らしきものがあった」

「サービスカウンターね。オッケーよ」

自信満々の返事をしたハデスが見当違いの方向へ走り出す。

「そっちじゃねぇ!こっちだよ!」

「え、そっち?」

こっちだと思うんだけどなぁ、と言いながらハデスが正しい方向へ走り出す。

さて、問題は巨大な蚊のモンスターの動きなのだが、どんな行動を取っているのか。

巨大蚊の方を見る。

「うわぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

逃げ遅れた数人が、こっちに向かってきていた。

どうやら、そのうちの一人に目をつけたらしく、巨大蚊はその巨体を巨大な羽で浮かし、突進してきた。

その羽根は、とても不快な音を撒き散らし、自身の障害物となるものを破壊した。

巨大蚊は、目をつけた男に追いつき、その巨大な口、針をその男の身に突き刺す。

「あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・」

針を突き立てられた男は、みるみるうちに痩せ衰えてしぼんでいき。

「・・・・・・」

動かなくなった。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」「いやぁぁぁぁ!!」「誰か助けて!!」

一人だけでは満足しなかったようで、周りの人にも次々と針を突き刺していく。

針を突き刺された人たちは、全員が青白く痩せ衰えていき、動かなくなる。

「くっ・・・・・・」

助けられないことに、苛立ちと罪悪感を抱きつつも、逃げる。

助けられなくてごめんなさい。俺にはまだ、あなた達を助けられる力は無いんだ。



結局、その後も襲われる人たちを助けることができずに、俺達は裏口を見つけ、外に逃げ出した。

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