第八話
なぜか、ハデスだけ残ってしまった。
「危ないから俺の中に戻ってろ」
「えー。客として観戦してたい」
「わがまま言うな。巻き添えを食らいたいのか?いいから、俺の中に戻ってろ」
「はーい」
ハデスの体が、光の粒子に変わり、俺の体の中へと入っていった。
「い、今のは!?」
「うるせぇ。そういうのは後だ、後。しっかり準備しておけ。俺に同情してもらえる謝り方をな」
「・・・確かに、準備しておいた方が良いみたいだ。君を倒す準備を」
「あ!?」
いちいちムカつくな。
こいつをコテンパンにするために使う武器は、この前手に入れた無銘の剣。
少し大きく重いが、ちょうどいい感じのフィット感を感じる。
カラーリングは赤。・・・・・・赤か。
よし、この剣の名前は、『ロンギヌス』だ。
神殺しの武器。
普通ならロンギヌスというのは槍につけられる名前なのだが、別にいいよね。
「『無銘の剣』が、『ロンギヌスの剣』へと進化しました」
進化した!?
え?名付けただけで進化するのか!?
あれ?進化ってそんな簡単にできるものだっけ?あれぇ?
「何をボケっとしている!準備が終わったのなら、さっさと始めよう!!」
「少し考え事をしていただけだよ!」
だけど、準備と言っても特にすることがないんだよなぁ。
準備と言われても、剣を抜いたり、装備をつけたりすることしか無いんだよなぁ。
他にメニュー画面を開いて、色々と覗く。
すると、
「お、相手の情報が見られるのか。俺は見られないように隔絶しておこう」
相手のステータス、スキル、装備の説明が見れた。
自分の情報を見られるのは嫌なので、隔絶しておく。
「隔絶の使い方、分かってきたぞ」
隔絶の使い方は、隔絶したいものを強く念じて、変化内容をイメージに浮上させる。
そして、隔絶の変更処理が終わるまで待てば完了。
俺のステータス情報を隔絶して見れなくしたので、流が戸惑っていた。
「な、なんだ!?バグか!?なんで相手の詳細情報が見れないんだ!」
へっへーんだ。そんな簡単に、俺の情報を見せるわけないよーだ。
さて、流のステータス情報は、っと。
「流 蒼錬 レベル20
職業:勇者 ランキング1位
攻撃力:6000 防御力:3000
スピード:2400 筋力値:180
魔力:540 魔法防御力:2800
HP:12000
MP:130/130
魅力:80 運:83
メインウェポン:聖剣『カラドボルグ』
スキル:一刀両断
説明:武器(剣系統の物に限る)を使った攻 撃のダメージをレベル分、倍にする
代償:武器は剣系統のものしか使えない (盾の装備は可)」
ふむふむ、なかなか高いステータスですなぁ。
さらに、一刀両断。生半可な武器じゃあ、簡単にぶっ壊されそうだなぁ。
けど、剣しか装備できないって・・・ぷくく。
・・・・・・可哀想に思えてくる。
さて、このステータスを俺は超えているのかどうか。
俺も異世界から召喚された一人なんだ。ちょっとしたチートステータスであってほしいなぁ。
隔絶があるけど、更にチートであってほしい。
自分のも確認してみる。
「クロノス・D・オーメン レベル30
職業:放浪者
攻撃力:error 防御力:error
スピード:error 筋力値:error
魔力:error 魔法防御力:error
HP:error
MP:error
魅力:error 運:error
errorが発生しました。再度お試しください」
・・・は?
「error」ばっかりで、数値がまったくもってわからないじゃないか!
ちきしょー!「チートなステータスであってくれ」なんて期待した俺がバカだった!
いや、「error」だから可能性はあるんだよ!?
でもさ、もっと、こう、なんていうか、あからさまなチートが欲しいよ!
「(あなたの『隔絶』も、とんでもないチートだけどね)」
たしかに!
事象改変能力もあからさまなチートだ。
隔絶があるから別にいいか。
「インターバルの終了をお知らせします。速やかに、戦闘態勢に移ってください」
突如として、無機質な案内音声が聞こえてきた。
もう時間か。
レベルはこっちが上なんだし、安心しておこう。
水の構えをとっておく。
そして、10秒くらい経った後、
「決闘に賭ける物を決めてください」
と、言われた。
ちょっと!?構え損じゃないですか!
それにしても、賭けるもの、ねぇ。
全財産とかでいいか。
「賭けるものが決まりました。決闘を開始します」
始まるぞぉー。
自分の心の中に、緊張と高揚感が走る。
「カウントダウンを始めます。10・・・9・・・」
という声が入ってきた。
それとともに、俺の身体が動かなくなる。
「あれ、身体が動かねー!!流、お前、勝負の前から仕掛けてくるなんて卑怯だぞ!!」
「違う!ちゃんと、説明文読んだのか。『カウントダウン中は金縛り状態になる』、って書かれていただろう!?」
「あ、そっか」
そうだったそうだった。思い出したぞ。たしかにそんなことが書かれていた。
「4・・・3・・・」
あと、3秒!?
話してただけなのに、もうそれだけの時間しか残ってないのかよ。
足に全身の力を込める。
「・・・2・・・1・・・開始!」
カウントダウンが終わるとともに、体に自由が戻ってきた。
不思議な感触に戸惑いつつも、流に向かって突撃する。
対する流も、俺に向かって走ってきていた。
そして、俺の目の前に来たかと思うと、剣を横に薙いできた。
俺も対抗して剣を横に薙ぐ。
相殺とはいかないものの、「キィィン!」という音を立てて剣がぶつかり合い、俺だけが弾き飛ばされた。
「ウゲッ!!吹き飛ばされる瞬間って、結構痛いな。特に腕が」
・・・俺の腕大丈夫かなぁ。これだけたくさん負担がかかることしてたら、どうにかなっちゃうんじゃないの?
そう思っていながら、俺は弾き飛ばされて、地面に背中から着地した。
地面に背中が接しても、弾き飛ばされたときの勢いは消えず、そのまま数メートル地面の上を滑った。
「アガガガガガガガ・・・・・・!痛ってぇな。俺の制服にさらに傷がついちゃうよ」
でも、これで分かった。
俺のステータスを、流は超えている。
あーあ。負けイベントじゃん、これ。
つまんねーの。
俺は、負けイベントをガチになってやるバカではない。
せめて、流より上のステータスだったらなぁ。
えーい、もうヤケクソだ!
上半身を起こし、流に再度視線を向ける。
流は追撃をするために、こちらに飛びかかってきていた。
そんな流に対して、俺は剣を振るう。
・・・また今度も防がれて反撃されるんだろうなぁ、と思いながら剣を握る手に力を込める。
せめてもの抵抗だ!喰らうがいい!
「おぉらぁぁ!」
「グフゥ!」
自身の剣で、俺の振るった剣を受け止めた流が、弾き飛ばされた。
・・・え?なんで?なんで?
さっきは、俺が吹っ飛ばされたよね?
「(隔絶を使ったからだよ。もっと活用しなよ)」
そうだ。俺には、隔絶があるじゃないか。
先程、流を逆に弾き飛ばすことができたのは、隔絶のおかげ・・・。
つまり、今の俺のステータスは
「流を超えている!」
ハッハッハッハッハ。身体が軽い。
俺は流が着地するであろう地点に、全速力で走る。
うっわぁ。こんな速い速度で走れたのは初めてだ。
体に受ける、今まで味わったことのない風の感触を確かめながらそう思う。
そんな俺は流が地面に着地する前に、流の側にたどり着き
弾き飛ばされてる最中悪いが、背中・・・
「失礼しまーす!」
「ぐはぁっ! い、いつの間に・・・・・・!?」
その背中をそこまで力を込めずに膝で蹴った。
流のHPバーが、少しではあるが、減る。
やった。流にダメージを与えられたぞ。
でも、さすが勇者ランキング第1位の人だ。
いい装備を着てるし、元々のステータスが高かったというのもあってか、ダメージが通りにくい。
でも、本気でやらなくてもダメージを与えることができる・・・。
本気でやったら、どうなるのかなぁ?
俺が膝蹴りをしたので、流はもう一度空中に放り出されていた。
そのまま落下してきた流を、もう一度膝蹴りをして、空中に打ち上げる。
今度は、さっきより強く、高く。
「そーれっ!」
「うぐっ!」
またもや流のHPバーが減る。今度はさっきの2倍くらいの減少量で。
これを何度も続けた。
だんだん強く、だんだん高く。
名付けて、人間リフティング!
流のHPもどんどん減少していく。
何度か続けて、相当な高さまで蹴り上げた。
「36・・・37・・・38・・・39・・・40。ほらほらほーら、ほーら。そろそろ、降参したほうが良いんじゃないかなぁ?これ以上は、痛い目見るだけだよぉ?」
「ぐふっ!・・・ガハァッ!・・・グガッ!」
流のHPはすでに2分の1を切ろうとしている。
「いい加減に降参したほうが良い。このまま降参しないなら、殺す気で攻撃するぞ」
「クッ・・・!」
リフティングを中断させ、流に注意喚起を促しておく。
「・・・ぼ、僕は、・・・諦めない。殺すんだったら、・・・殺せ!」
「・・・・・・。そうか」
取り出しただけになっていたロンギヌスを、右手に持ち、構えて。
「ほら、チャンスをやるよ。攻撃してこい」
「・・・そうやって期待されたら応えるしかないね」
立ち上がった流は、俺から離れて距離をとった。
そして、剣を上段に構える。
「フゥー・・・。・・・・・・喰らえ!」
呼吸を整え、俺に向かって走ってくる。
そして、空高く跳ぶ。
「これが、今僕にできる最大の攻撃だ!」
決め台詞的なことを言っていると思うんだが、俺との距離が遠すぎてなにも聞こえないんだよね。
「『一刀両断』!!」
そう言いながら(俺には全く聞こえてない)、剣を振り下ろした状態で、俺に向かって落下してきた。
そんな流の持つ剣は、青く光り輝いている。
「うおおおおおおおおおおお!」
流が落ちてくる速度は、どんどん増す。
「あ、これやばいやつだ」
まともに受けたら死ぬ・・・。
と、直感的に悟った俺は、走って離れた場所まで避難する。
・・・ここら辺なら、平気だろう。
「(外道だね)」
「うるせぇ。俺には騎士道精神なんか無いんだよ。・・・ふぃー」
十分な距離をとった俺は、安堵の息を漏らす。
「破ァッ!」
流が地面に降ってきた。
その瞬間、流が剣を突き立てた場所からとても広い範囲の地面が、クレーターのように抉れた。
「な、なぜ避ける!?」
「なぜ避けない必要があるんだ?」
流が悔しそうに顔を引き攣らせるが、知ったこっちゃない。
「良い技を見せてくれたお礼だ。俺も大技を見せてやろう」
イメージをしたら、『大切断』が使えたんだ。同じレベルの技だったら、使っても平気だろう。
右手を、天に向かって掲げる。
目を閉じて、精神を集中させる。
火が自分の手に集まるイメージを頭に浮かび上がらせる。
そして、凝縮させるイメージを。
「な、なんだ、その技は!」
一体どうなってるのかは目を閉じている為わからないが、流が驚くほどのものになっているのだから、相当なものになっているのだろう。
「喰らうがいい!火属性魔法の最骨頂!」
本当は、
「神級」・「超越級」・「超級」
・「特上級」・「上級」・「中級」・「下級」
の7段階で分けられる中の、上級の下程度なので最骨頂ではないのだが。
カッ!と目を開く。
「『サンブレイクノヴァ』!!」
俺のイメージ内では、大きめで高熱の火球を流めがけて投げつけている。
本来なら、直径3メートルほどの火球を相手に向けて発射する技なのだが、実際のものはどうなっているのかな?
そう思って、上を見る。
・・・・・・え?これ、本当に『サンブレイクノヴァ』なの?
火属性魔法の「特上級」くらいはあるんじゃないの?
俺が天に向かって掲げた右手の上には、直径50メートルは超すであろう巨大な火球があった。
「・・・あ、投げちゃった。待て待て待て待て!流が死んじまうよ!」
必死になって発生させた魔法を消そうとしたが、奮闘虚しく、そのまま流に着弾してしまった。
「あ・・・」
着弾した『サンブレイクノヴァ』は、
ドゴオオオォォォ!、という轟音を立てながら、高温の火のドームを目の前に広げた。
・・・・・・。流、死んでないよな?
死んでないよね?
・・・ね?
・・・・・・。
「やっちまったー!」
俺の後悔の声は、俺自身が放った魔法が周囲に放つ、轟音にかき消された。