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書き残しておきたい事……  作者: アーリー
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彼から彼へ、最後に彼女へ……

 正月明けの事だ。修理の終わったマツのバイクの引き取り手が決まったのだ。


 マツがバイクを手放した為、次のオーナーが決まったのだが、案外すんなり決まり、周りは少々驚いていた。


 元々はナンちゃんのバイクだったのを、マツが譲り受けたのだが、これがまた難しいバイクで、殆どレースマシンと遜色ない程に、カリカリのフルチューンが施されている。その上エンジン特性などもピーキーで、快適な普段の街乗りなど出来ないし、スイートスポットの狭いサスセットは、乗り手を極端に選ぶ。


 おまけにこの手のバイクは維持費が馬鹿にならない。ガソリン、ブレーキ、タイヤは勿論のこと、油脂類や水回り、そして定期的な点検をしなければすぐに調子を悪くする。


 そんな一癖も二癖もあるバイクの為、買い手がつくまで相当時間がかかると予想されていたのだが、意外な人物が手を挙げ、修理完了から約1週間で次のオーナーの手にバイクが渡っていった。


 一方でマツは、バイクがなくなり寂しい思いをしているかと思いきや、ニューマシンの納車を今か今かと待っている状況だ。まるでクリスマスプレゼントを待つ子供のような表情をしている。


 マツのニューマシンの話は、また別の話になる為、割愛する。機会があればその話もしよう。




 〜〜〜〜




 時刻は8時を少し回った頃、ストップウォッチを握りしめている自分の手は微かに震えていた。


 自分達が躍起になって追いかけていたタイムまであとコンマ数秒。もしかしたら押した指の誤差で、あのタイムより上を行ってるかもしれない。


 先程、自分の目の前を、快音を上げ走り去っていったバイクが駐車場に戻ってきた。紫ベースに黒のラインが入った、独特のカラーリング。しかしそれに跨っているのはマツでも、ましてやナンちゃんでも無い。


「いや、良いわコレ! ちょっとピーキーで振り回すには思い切りがいるけど、コツを掴めばクセもないしね」


 彼女はメットを脱ぎ、髪の毛をわしゃわしゃしながら感想を述べている。


「なんでマッツンはコレに乗っててタイム出なかったの?」


「言ってやるな……。てか、自分も何度か試乗させてもらったけど、到底乗りこなせる気はしなかったよ」


「なんでさ!? サイコーでしょこの脚のセットは」


「コレを「サイコー♪」とか言って乗りこなせるのは、お前かナンちゃんくらいだ」


 ひょっとするとコイツなら、ボスホスとかも難無く乗りこなせるような気がしてきた。


「でもちょっと足が硬いかな、自分ならリバウンドそのままで、バウンドちょい柔らかくか……」


 鳩宿京子はそう言いながら、新しく手に入れたマシンの足回りを早速リセッティングし始める。本人曰く、自分好みにセットを変えれば、あと2秒はタイムを縮められると言うのだから恐れ入る。


 どうやらここをサーキットか何かと勘違いしてらっしゃる様だ。自分達も他人のこと言えんけど……。


「ところでさ、なんでこんなに反発の強い足になってんの?」


「さあな、ナンちゃんに聞けよ」


「誰が聞くかよ、あんなアホ」


 だよな、仲悪いもんなお前ら……。


 ナンちゃんと『ハト』こと鳩宿京子の仲の悪さは仲間内では周知の事実だ。


 しかし、最初から仲が悪かったというわけでは無い。一時は「ハトはナンちゃんに想いを寄せている」なんて、噂が広まる程仲良しだった。


 2人の仲が現在の状態になったのは1年ほど前。今でも相変わらずだが、ナンちゃんはナンパや合コンに勤しんでおり、丁度合コンに同席していた女性と、何を間違ったのか真剣に付き合い始めたのだ。


 しかし数ヶ月経ち、その女性とハトが喧嘩を始めるという事件が起こった。どうやらナンちゃんと楽しそうにツーリングするハトの事を、その女性は良く思っていなかったらしい。


 結果ナンちゃんはその女性と別れ、ハトもナンちゃんと距離を取るようになった。


 じぁあなんで今更、元ナンちゃんのバイクを買ったのか。そう質問をしようとしたが、セリフを喉元で留めて飲み込んだ。


 何故かは分かり切ってるからな……。


「これ相当バネ硬いでしょ。何キロ?」


「さあ、でも相当硬いはずだよ。ナンちゃん反発強い脚が好きだったし」


「納得……、そういや猫足は自分には合わないとか言ってたっけ」


 ああ、言ってたなそんな事。


「そうね。まずバネでも触ってみるか……。今度はちゃんと自分好みにセット出来るし」


 ハトはやっと自分のものになった、元ナンちゃん所有のXJR400Rを眺めてセッティングの計画を練り出す。


 ナンちゃんと2人でセッティングしてた頃とは違い、今度こそは、完全な自分専用のセッティングにするつもりだろう。




 ーーーー




 結局この日は夕方近くまでセッティングに付き合わされた。


 と言うより、自分が車に積んできたペケジェーのパーツを取っ替え引っ替え試し、ハトの納得がいくまで繰り返してたら日が暮れてたと言った方が正しい。


 よくハトが口癖のように言っていた言葉を今でも覚えている。


「目に見える最短距離に拘るな」


 この言葉の意図を、未だに自分は理解出来ていない気がする。

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