第2話~プロローグ01~
鬱蒼と生い茂る森の中、人々が入り込む隙すらないこの森の奥地には世にも恐ろしい化物達の国があった。人々は彼等の進行に日々恐れ、慈悲にすがる思いで生きていた。
その国には人はおらず、全てが異形な者達によって回っていた。
その国の、いやそのギルドの名前は《妖軍》。
圧倒的自由度とNPCの精度を売りに発売されたゲーム《ラグナロク》。
その全サーバーギルドランキング一位を保持する強大ギルドにして、半ば公式化したギルドでもあった。
「いやー、よく来てくれましたね。温☆玉さん。」
「今日はイベント終了の日ですからね。ギルドメンバーとしては参加すべきだろうと、やって来ましたよ。若秋さん。」
《妖軍》の拠点、『妖塞都市 ゲシュペンスト』その中央にある城『鬼ノ城』にある間には2匹の化物が集っていた。
一人は美しい金髪と色白な肌、ルビーのような真っ赤な目が特徴的な青年であった。彼の名前は若秋。彼は一見人間のように見えるが、歴としたモンスター種の原初の吸血鬼であり、このギルドのギルドマスターである。
もう一人はゴツゴツした黒い肌に真っ赤な角、四本の腕を生やした巨大な鬼だった。かつて日本の歴史上存在した甲冑、具足なるものを身につけており、正に歴戦の戦士のようだった。
彼の名前は温☆玉。鬼のモンスター種である戦獄悪鬼という種族であった。
二人はかつての、これまでの冒険に思い出話に花を咲かせていた。
「しかし、他のギルドメンバーは結局来なかったんですね。」
「えぇ、みんな現実が忙しくて中々時間が取れないとのことでした。」
「そうですか。残念ですね。」
若秋が悲しそうに言うと、温☆玉は吊られるようにため息をついた。
「……そう言えば、どら焼きさんは?」
温☆玉が話題を変えようと、若秋に問う。
「……あいつは今は格納庫だよ。今日はイベント最後だからパーっと行こうって、ある準備をしてもらっている。温☆玉さんが来なかったら二人だけで行くつもりでしたよ。」
「ハハハ。最後にボスキャラテイム巡りしようなんて豪気なこと言われたら、乗らずにはいられなかったんですよ。」
そう、今日彼等はイベント最後の日だからとボスラッシュを挑むつもりであった。
この《ラグナロク》にはボスキャラは全部で八体存在しており、それぞれのボスはこのイベントのみ全てテイム可能とされていた。しかし、テイムしてもつれ歩くことは出来ず、拠点防衛のみにしか配置できないという制限はあるのだが、そこは仕方ないことだ。
理由はなんでもない。ただ、イベントを楽しもうという、ギルドマスターとして考えた結果だった。
「今内に動かせる軍団てどのくらいでしたっけ?」
「大体、弱いのを含めて45万の味方モンスターと傭兵モンスターを動かせますね。」
「わぉ。それなら五番目のボスまでなら余裕ですかね。」
温☆玉が驚いた声を出す。しかし、若秋としてはある問題があった。
「問題はエリア6、7、8のボスですよ。あいつらは少数で行かないと死にますからね。」
「あー、そうでしたね。」
エリア6,7,8のボス達は攻める数によってステータスが変化するタイプのボスである。奴等を倒す為には大軍で攻めるのは愚策であった。
「それで、どうやって倒すつもりですか。若秋さん。」
若秋の面白い答えが早く聞きたい温☆玉は笑顔で聞いてくる。彼はいつも楽しいことが好きなのだ。
「はい、今ウチのギルドにいるテイム能力があるのはどら焼きだけ。しかし、彼は知っての通り生産職のガチビルドキャラです。その為、彼の最高傑作と言われてるエロヴァゴンを航空戦艦『雷哮』から投下し、後は範囲外から艦砲射撃で援護します。そして、彼によってテイムという流れです。温☆玉さんには、テイム時のどら焼きさんの護衛をお願いいたします。」
「……面白い!是非やりましょう!正に《妖軍》としての活動ですね!」
温☆玉らは円卓を叩いて立ち上がると、部屋を後にした。
◆ ◆ ◆
「あー!全然死なねぇぞ!エロヴァゴンじゃあ火力不足かぁ!?」
「撃ちまくれ!そのうち倒れる!」
あれから若秋ら《妖軍》は航戦艦『雷哮』に乗り込み、戦艦を率いて飛び立った。そして、数々のエリアボスを撃破しテイムしたのだった。しかし、最後の第8エリアボスと開戦してから問題が発生した。
「くっそー!硬いぜ!あの情報ギルド最後までやらかしてくれたな!」
そう、エリア8ボス戦にエロヴァゴンを投下したまでは良かった。しかし、こいつは今までのボスとは違ったステータスを持ってたのだ。
──第8エリアボス 終焉之帝霊王 通称、フィーニス。
真紅の線が入った漆黒の全身鎧に巨大なバスタードソードとタワーシールドを構えた姿をしており、フルフェイスメイルからは時折、火の粉のようなものを噴き出していた。その姿は正に地獄の支配者のようであり、終わりを告げる者としてふさわしい存在だった。
そんな奴のボス能力は『プレイヤーの総合攻撃力に合わせて防御力が変化する』というものだった。
こいつのおかげで最後になって計算していたときよりも大量に『雷哮』の装備である大砲の弾を消費してしまっていたのだ。
「ハハハァ! 毎回最後まで一筋縄ではクリアさせてくれないなぁ! 《ラグナロク》!」
そう笑いながら弾を補充し続ける機工人形はこのギルドの生産職人ににして魔物使いのどら焼きだ。彼は古禁機械人 という名前と読みが離反した意味を持つモンスター種だ。
「そう喚くな。ほら、体力八割削れたぞ。そろそろ準備しな。」
「ハイハイ、わかりましたよ団長殿。 温☆玉さん、行きますよ。」
「ハイッ! 気張って行きましょう!」
どら焼きはテイムするため、『雷哮』から飛び出した。かなりの高さがあるが、最大レベルである二人には落ちても体力は減らない。そういうアイテムを持ってるからだ。
「ハハハァ!生産職でこんなボスに挑むなんて私達はイカれてるな!」
「あなた生産職? とか掲示板で言われてるくらい攻撃力あるでしょう!? 今はエロヴァゴンがフィーニスの攻撃を受け止めています。テイムをしましょう!」
「おう! もうちょい耐えろ! エロヴァゴン!」
「オォオオオオオ!!!」
今までヘイトを稼いでいたエロヴァゴンは身体のあちこちから黒煙と蒸気を吹き出しながらも、主人の期待に答えようとフィーニスの大剣をガチリと受け止めた。
耐えてくれたエロヴァゴンに感謝しながら温☆玉は自分の装備である大刀を振りかざし、フィーニスに向かって振り下ろした。
「はぁああ!!『悪鬼の一撃』!!」
フィーニスはエロヴァゴンに大剣を捕まれ、温☆玉の攻撃を避けられなかった。鎧の隙間を狙った一撃はフィーニスの体勢を崩す。
「どうです!? 」
「くっ!まだあと少し足りん。エロヴァゴン! 『破城砲』だ! 体力を一割まで削りきれ!」
「ココオオオオォォ!!!」
エロヴァゴンの身体中にある歯車が回転を早めると胸部パーツが開き、中から巨大な砲身が伸びる。エロヴァゴンは手足を地面に突き刺して身体を固定すると、カウントダウンを始める。
「ターゲットロックオン。FUNF 、VIER 、DREI 、ZWEI 、EINE……Brennen!」
エロヴァゴンから放たれた砲撃はフィーニスの頭を撃ち抜き、体力を一気に削る。フィーニスも対抗して大剣を構えていたが、あまりの威力に弾き返され、まともに攻撃を食らう。
「……テイム!!」
そして体力が全て無くなる寸前にどら焼きがテイムを行う。砲撃に消えていくフィーニスが淡い青の光に包まれていくのを見届けたどら焼きと温☆玉はリストに追加された名前を見て、腕を打ち付け合い鳴らした。
「いよっしゃあ!! テイム成功!!」
◆《テイムリスト》◆
《☆ボスクラスモンスター》
・豪角猫 トムカッツェ
・黄金甲虫 アレッサンドロ
・殺戮黄熊 バーナード
・剣刀鬼 ブラント
・堕天使 アンジェラ
・要塞城蟹 ケアリー
・妖霊大帝 レイラ
・炎楼賢大狼 ジョセフ
・暴走魔力機関AI モハンマド
・終焉之帝霊王 フィーニス