第1話 ~プロローグ?~
こんにちは、どら焼きドラゴンです。
今回は自分が書きたかったな~と思って書き始めた作品です。
他の作品と違って投稿は不定期ですが、あまりエタらないように頑張ります。
「ハァハァハァ…!」
朝方の森の静寂を破る、走る二つの人影があった。二人は何かから逃げるように森をジグザグに走っていた。
二人のうち一人はまだ幼く、早く走ることも長く走ることも難しい。小さな足が木の根に引っ掻けたり、草むらにてまどっている。
もう1人が手を握り、なんとか走っているが、あまり速度は上がらない。
「お兄ちゃん……もう走れないよ。」
「……この森を抜けるまでだ!頑張れ!」
幼い子は立ち止まり音をあげるが、もう一人は励ます。彼の耳には後方から追ってくる足音がもうそこまで来ていることを告げていた。
「くっ、早くいくぞ。」
(弟だけでも守らなくては。)
二人がまた駆け出そうとした直後、直ぐ後ろからガサガサと草を掻き分ける音が聴こえた。青年は弟を抱き抱えると、背の高い草に素早く身を隠した。
「おいおい、見失ったじゃねぇか。あのガキどもめ、何処に行きやがった?」
「いや、あの幼いガキがいるからには遠くには行けまい、捜すぞ!近くにまだいる筈だ。」
草むらを掻き分けてやって来たのは、フルプレートメイルに身を包んだ二人組だった。見つかったらどうなるか青年、アルマは理解していた。
彼等は元々、ナバラーカ帝国のとルマイン王国の国境付近にある森の中でひっそりと暮らしていた。村長の息子であったアルマだが、特別扱いなどはなく、皆と同じように毎日畑を耕し、夜は月の明かりを頼りに筵を織っていた。
今朝も、ベッドで寝ていた弟のイーサを起こさないように家を抜け出し、畑に出ていった。
畑に生えた雑草を抜いていると、隣の家のガルマ爺さんが顔を真っ青に呼んで来て村に何処かの兵士達が来たと呼びに来たのだ。急いで村の広場に向かうと、そこは地獄と化していた。
集められた村中の住民が、四方八方から油をかけられ兵士達の1人の合図により、火が放たれた。アルマとガルマ爺さんは物陰からただ見ているだけしか出来なかった。「熱い、助けて」「水を」と叫ぶ村人達を兵士達は槍で突き刺し、より苦しむように仕向けた。
兵士達は浄化させると言っていたが、学のないアルマにはさっぱり分からなかった。ただ村人が、自分の母や父が、友人が、そしてもうすぐ自分と結婚の契りを交わす筈であったあの子でさえ、火の渦に呑まれ消えたのだ。
怒りのあまり、アルマは士官の1人を鍬で殴り付けてしまったのが悪かった。ガルマ爺さんとアルマは見つかってしまい、たまたま布団の中で隠れて難を逃れていたイーサを見つけ出し逃げ出したのだ。
(頼む、見つからないでくれ。)
アルマは息を荒げているイーサの口を押さえながら、草むらと同化するような気持ちで静止し続けた。
それが幸をなしたのか、二人の足音は段々遠ざかっていった。
「……ふぅ。なんとか助かったか。」
「ぷはっ!もう、兄ちゃん苦しかったよ!」
イーサが頬を膨らませながら怒る。幼い子供の怒りの表情はなんとも可愛らしいものだと、アルマは感じた。
「……お母さん大丈夫かなぁ。」
「っ。」
その呟きにアルマは胸が締め付けられた。イーサにはまだ真実を話ていない。そんな暇が無かったからだ。無論、現在も同じではあるが。
「……イーサ、先を急ぐぞ。この森を抜けたら鉱山都市ガンドが見える筈だ。まずは其所へ向かおう。その話はそれからだ。」
「うん。……頑張るよ。」
嘘だ。鉱山都市ガンドへはこの森を抜けた後平原を抜けなければならない。そこには十中八九あの兵士達の仲間が網を張っている筈だ。しかし、イーサを逃がす為にはそれしか道がなかった。
(なんとか鉱山都市ガンドの討伐隊ギルドにいかないと。せめてこの子だけでも助かれば。)
「……いたぞ!あそこだ!」
出発したのは良いものの、如何せん追っ手が多すぎた。兄弟は直ぐに見つかってしまい、また追いかけっこが始まった。
そしてがむしゃらに走っていると、高台の崖っぷちに出てしまった。
「くそっ!よりによってかよ!」
「……お兄ちゃん。」
「捕まえろ!隊長の顔を殴り付けたんだ、簡単には浄化させんぞ!」
後ろからガサガサと鎧の擦れる音が響き、段々と追っ手がやってくる音がする。イーサがアルマのズボンをぎゅっと握ってくるのがわかった。
やがて、四人もの兵士達が剣を構えて現れた。
「……やっと追い詰めたぞ。手こずらせてくれたな。」
「くっ、弟だけは見逃して………くれるわけないよな。」
アルマが言うと兵士達はニヤニヤ笑った。
「よくわかってるじゃないか。今から浄化を行う!」
アルマに向けて、四本の剣が振り上げられた。
「さぁ、お前ら穢れた種族に産まれたことを懺悔しろ!」
「お兄ちゃぁああん!!」
イーサの叫び声と同時に剣が振り下ろされた。
「……ん?」
振り下ろされた筈の剣はいつまでたってもアルマを切り裂くことはなかった。アルマは訳が分からず、頭をあげた。
──そこには青年がいた。
金色の流れるような長髪に透き通るような白い肌、ルビーのような真っ赤な瞳を持つ男だった。赤と黒を基調とした鎧マント姿の男はマントを翻し、剣を払うとこう言った。
「お前、俺様の領内で何をしている?」