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二時限目『問題と回答①』

 目を覚ました僕は放心したまま天井を眺める。

 そうだ、今日は講義だ……

 

 講義!?

 思い出した僕は慌てて時計を見る。10時30分、完全に遅刻だ。

 急いで準備を済ませて学校に向かった。

 

 学校に着くと駐輪場には自転車が頭を揃えて一列に並んでいる。

 しかし今は合わせている暇はない。列から少しはみ出てはいるが、一応は自転車を停めて講義棟へ走った。

 綺麗に並んでいるのは、倉富が毎日はみ出た自転車を押し込んでいるかららしいが、今日だけは勘弁だ。

 

 講義室の前まで来ると、倉富が説明をする声が聞こえた。

 僕は後ろの入り口からそろそろと入って行く。既に皆来ているようで、素早く近くの空いた席を探す。

 やったぞ! 

たまたま歩いて数歩の所が空いていた。

 座ってからゆっくりと顔を上げて前の様子を見ると、説明は止まることなく続いていた。どうやら大丈夫だったみたいだ、僕はほっと一息付く。

 

 講義が終わると、小宮とそのまま学校内にある学食に向かった。

 料理を盆に乗せてレジに近づいた僕は、支払いをしようと右ポケットの財布に手を伸ばしたがポケットの中身は空なことに気付いた。今日は遅刻して確認するのを忘れてしまった。どうやら家に置いてきてしまったようだ。


 仕方ない、取り敢えずここは小宮に頼もうと後ろを見ると、僕の財布を持っているではないか。

「おお、ありがとう。どこで見つけたの?」

「気を付けろよな。橋に落ちてたのを倉富が拾ったらしいって事務のお姉さんが言ってたぞ。講義が始まる前にわざわざ持ってきてたから受け取っといてやったんだからな」


 橋に落ちてた……

 僕の口が急激に乾いて行く。しかしここは平静を装いながらお礼だ。

「ああ、倉冨か。まあ取り敢えずありがとな」

 支払いを済ませた僕達は空いてる席を見つけて座って食べ始めた。

 

 橋での出来事を思い返しながら冷や汗をかいていると、倉冨が離れた所に座ってこちらをじっと見ていることに気づいた。机の上には書類と文房具が乗っている。何かの仕事中なのだろうか。


 もしかして僕を見ているのか?

 

 品定めする様なその目つきに怖くなった僕は慌てて目線を逸らす。

 今日の遅刻がバレてただけだろう。倉冨の講義は必修だ、落とす訳には行かないな。今はそう信じるしか無かった。

 

「おい、倉富がこっちを見ているぞ」

助けを求めるように小声で言うと、小宮は何も臆することなく堂々と後ろを振り返る。倉富は尚もこちらをじっと見ているが負けじと威圧する様に見つめ返す。

 

 すると、倉富は再び書類に目を通し始めた。作業に戻ったようだ。


「やめてくれよ、目をつけられたらどうするんだよ。あいつ厳しいんだぞ」

内心では感謝しつつも僕は呆れて見せた。

「別に何も悪いことやってないやん」

「確かにそうだけどさ。生活面も厳しいで有名じゃん、やっぱ。それに僕らの授業態度じゃ怒られても仕方ないだろ」

 

 小宮は僕と似ていると言ったが、ここだ。たまにこいつは変わった所も見せる。さっきのだって普通あんなに睨む様に見ない。

 他で言うなら一ヶ月程前のことだろうか。家に帰ったら小宮が僕の部屋のドアをガチャガチャしているのを見た時はびっくりした。     

 小宮の方が驚いていたが驚きたいのはこっちだ。引越しが決まったからと僕を驚かせたかったらしいが、本当にそういうのはやめてくれ。 

 見られたら本当に困るものも部屋に置いてるんだから。

 でもそんな所、僕よりたまに変わっててたまに優秀な所が気に入る所以なんだろうな。


「まあ気をつけるんだぞ。僕まで痛い目に会うかもしれないんだからな」

 

 夕方、新たな依頼が入ったと連絡があった僕は直ぐにいつもの定食屋へと向かった。

「今回はどんな依頼ですか?」

「恋敵だそうだ、詳しくは聞いてこい」

 

 僕が裏で座って待っていると、一人の男がやってきた。少しくたびれたサラリーマンだ。年齢は僕と同じか、ちょっと上くらいに見える。

「今回はどうされたんですか?」

「この二人を殺して欲しいんだ」

 

 男は一枚の写真を見せた。右には、一人の髪が長い女、左には童顔の男が仲良さそうに写っていた。

「こちらの男女を両方ということですか」

「いや、両方女だ」

 

「女!?」

僕は仰天した。

確かによく見ると、髪が短いだけで、女に見えないこともない。

「そうだ。その男みたいな女ともう一人の女が対象だ」

「それは失礼しました。してどの様な理由でまたこの二人を?」


「……俺は元々右の女と付き合っていたんだ。しかしここ数ヶ月、徐々に彼女と疎遠になった。そして疑問に思い始めた頃に友人からこの写真が送られて来たんだ。調べてみると、左の男みたいな格好をした女は彼女の職場の同僚で、今では社内公認のカップルだそうだ。別に女に彼女を取られたことに腹が立っている訳では無い。しかし許せないことに変わりはない。これで頼む、私の全部だ」

そう言って渡された小切手には数字が何桁も並んでいた。


 ううむ、僕は金で動く殺し屋では無いが確かに許せん話ではあるな。依頼主も全てを払う覚悟があるようだ。

 少し軽い気もするけど、ここは引き受けよう。


「分かりました! お引き受けしましょう」


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